第30話 ワープゲート襲撃(1)
それはワープゲートを利用しようと、アルクスとその他の開拓船団がゲートに近づくために移動したそのとき、異変は起こった。
〔警告、付近にワープエネルギー感知! 力場の範囲が広いため、予兆地点からの緊急回避行動を行います〕
「なんだって!?」
警告信号の通知が発せられた周囲の艦船は、蜂の巣をつついたような騒ぎになる。どの艦船もいきなり現れた
だから、誰もが力場を避けるために動こうとしたが、その初動が遅くなってしまった。聞こえてくる通信からは、外側にいた船に早く広がるようにと、慌ただしく通信が飛び交っている。
アルクスのブリッジでは、周囲の船からの通信以外でも、警備や軍からの情報を取りこぼさない様にブルダとヴィースが状況の把握に努めてくれている。
レーダーに映る周辺の様子に、力場が強まり収束し始めたのがわかった。ワープ先からこちらにワープ航行で何かしらが飛んでくることを意味する。
「周囲との安全マージンはこの際無視! 力場と重なるのだけは何とか避けるんだ!」
〔力場から複数のワープを確認、フリートワープの予兆です。サイドスラスターの横移動だけでは回避が難しいので、ブーストで前進します〕
「わかった、ワープエネルギーの次元引力に注意してくれ」
前進って言たって、前にはワープゲートしか存在しない。しかも大口を開けてワープ先の次元を開いた状態で。ワープエネルギー近づきすぎたら、開いている次元ゲートに引っ張られる。それに注意しながら接近するという事だ。
「とはいえ、こんなところで衝突に合うくらいなら、最悪ゲートの中へ逃げる方がましだな。不慮の事故なら軍からの注意ぐらいで済むだろう」
起動中のワープゲートは既に複数の船が使用しており、指定の座標も固定されているはずだ。ワープ先には他の船が残っている可能性もあるが、安全装置が作動するため、よほどのことがなければ衝突は起こらないだろう。それならば、ワープアウト時の融合事故による爆発を避ける方が賢明だと判断した。
「進行方向は任せる!」
〔了解しました。ブースト出力最大、サイドスラスター出力アップ。近くの船との接触を避けます〕
「誰か知らないが恨むぞ」
ワープ航行には、目標地点での浮遊物と接触しない為のルールがある。ワープ先が小惑星だった場合に埋もれたり、他の艦船と接触した場合に物質が融合したかのように断面もなく重なったりする。艦船の装甲やシールドなんか関係なく、ワープアウトした物質は次元に触れて物理法則を無視して貫通するんだ。
なので、そんな事故を避けるために、緊急時でもない限りは込み合いが予想される宙域にワープで飛ぶ場合、目的の座標よりも離れてワープアウトしておくことがルールとしてあるわけだ。
もちろん、艦船の備えとしてワープする際に、目標の座標に障害物がないかチェックするシステムや、衝突警告を発する機能なんかはある。あるのだけど、それだって搭載の有無や性能面に依存するため万全ではない。
もしもワープアウト時に重なったり貫通した箇所は大抵は反発爆発を起こすし、宇宙船なら接触場所が悪いと沈んでしまう程の被害が出る。艦船同士が接合されて運よく被害が小さくても、被害箇所を解体できるかどうかも不明だ。要は融合してしまったら、宇宙船として再利用できなくなることもある。
本来は小さなデブリ程度なら、問題なくはじき返す便利な力場なのだが、状況が変わると非常に厄介だ。
そんな便利で厄介な
「ブルダ、周囲の船の状況は?」
「みんな外側へ逃れていってるっす。フリートワープによる予兆範囲からは離れることに成功してるみたいっすね。いくつかの問題は起きてるすけど」
〔まもなく、ワープ中の物体が亜空間より出ます。エネルギー量より算出した大きさは100mから300m前後の艦船です。十隻ほどがワープアウトしてきます〕
「アルクス、こっちもワープの予兆範囲からは抜けられそう?」
〔抜けられます。ゲートへの接近距離も問題ない範囲です〕
「よかった。周囲を警戒しつつ距離をとろう」
アルクスは船体が大きいから、静止状態からの動き出しに多少の時間が掛かる。エンジンを止めていたわけじゃないから何とかなってるけど、予兆範囲がもっと広かったら大変なことになっていただろう。
「ワープゲートの座標に直接飛んでくるバカはどこのどいつだよ」
言っている間にフリートワープで複数の船が出現した。
「キャプテン、飛んできたのは輸送船と護衛船だね。でも、どの船もかなり破損してるみたい。航行できてるから、最悪な状態じゃなさそうだけど」
「破損、何かに襲われたってことか?」
もしそうだとするなら、ここへ飛んできたのは緊急だったという事だろう。この座標を知っているってことは、開拓の参加関係者なんだと思う。それを襲う何かがいたというわけだ。
〔警告、付近にワープエネルギー感知! なおも規模拡大中、予兆地点は離れているため影響なし〕
「後続? もしくは、あの船を襲った連中か?」
「まだまだ、ワープの予兆が来るっすよ!」
「アルクス、速度を維持して回頭。とりあえず、ワープゲートからも離れよう。ブルダ、警備の船に、この場を離れるって連絡入れてくれ」
〔ワープゲートを背に、方向転換を開始します〕
急ぎ指示を出す。だけど、ブルダの返答は期待するものではなかった。
「――あちゃぁーダメっすね。連絡が取れないっす。どこからかは分からないけど、周囲一帯に強力なジャミングが張られてて通信が一時的にマヒってるっす」
「連絡のログは残るだろうし、危機回避が優先だ。何か言われたら後で謝る」
〔後続、ワープ中の物体が亜空間より出現。エネルギー量より計算した大きさは、およそ50mから200m前後の艦船です。四、五隻ほどがワープアウトしてきます。続いて、別の場所にワープエネルギー感知、本船との距離は2km未満。本船は回頭を完了、速度を落とします〕
先にワープから抜け出た船は、アルクスの想定通りの様々な大きさの船だった。その中でいくつかの船の状態は損傷しているように見える。何か嫌な予感がして胸がざわめいた。
〔別の予兆から艦船がワープアウトします。尚も、予兆は複数発生しています〕
感知したワープの予兆範囲から少し距離があったため、わずかに余裕が生じた。
その後も続々と見慣れない船がワープアウトしてくる。モニターに映るその船影は、ほとんどが統一性のない見た目をしている。そんな感想を抱いたのもつかの間、後続の不明船が突拍子もない行動をとり始めた。
〔攻撃行動を感知。周辺の船に、手当たり次第に攻撃しているようです〕
「襲撃!? こんなとこで!?」
〔後続の不明船団も周囲の一般船との戦闘を始めました。シールドに被弾、低出力ですが流れ弾です〕
「シールド出力アップ、タレット起動! 各フリーゲートは出撃準備で待機。アルクスはワープゲートを背に警戒態勢を維持。横移動でワープエネルギーから離れておこう。ヴィース、こちらにバンディットが向かってきたら撃っていい」
「了解。それと、保安警備船から全域に通信だよ。ワープしてきた艦船は警告無視。マーカーが付いている艦船はバンディットと認定。ただし、一部ワープしてきた船へは警戒のみで攻撃不要。軍の方はワープゲートの守備で動かず、保安警備船は所属不明の船団へ攻撃に回る模様。こっちから出した場所移動の件は、自衛とする範囲で移動許可が出たよ。後は流れ弾に注意しろってさ」
「移動許可は助かる。だけど、自衛行動の範囲って曖昧だな。僕らは襲われるまで警戒だけして静観しとけってことか?」
「どうだろう? マーカーの共有が来てるからモニターに出すね。軍は戦闘中だし、いざとなったら何かしら要請でも来るんじゃない? 今無秩序に一般船から攻撃が始まれば、警備船も身動き取れないからね」
ヴィースが情報をモニターに表示させてくれた。バンディットとの距離がこのままなら問題ないレベルで対応はできる。それに軍の駆逐艦級もワープゲートの護衛についているし、これ以上何か起こることもないだろう。いや、そう思いたい。
〔警告、ワープエネルギー感知! さらに三つ予兆が発生。この宙域にワープアウトしてきます〕
それからもこの宙域にワープしてくる船は続々と増えてきた。一般船を除き、出現した船は辺りに攻撃を仕掛けては離脱を繰り返す行動をとっている。
〔ワープエネルギー感知! ――さらに予兆あり〕
「だから、なんでこうも立て続けに! 頼むからこっちには来るなよ!」
ぽんぽんとワープをしてくる所属不明の艦船に、気が休まることがない。ついには、警戒だけして静観を決め込んでいた僕らの方にも複数のバンディットが攻撃を仕掛けてくるようになった。待機させていたフリーゲートを出撃させて対処することになる。
「敵機接近中、総数六。コルベット級二隻と戦闘機四機の編成だね」
「DS-01から05、各機発進。無理に撃墜はしなくていいが、牽制の意味も込めて追い払えるぐらの力は見せておこう」
大型輸送船が一隻と思って近づいてきたのだろうが、コルビス達が出撃すると慌てて距離を取り始めた。
「DS-01から03まで、先行して敵を迎撃! DS-04と05はアルクスから離れず援護と支援を優先」
〔他の一般船が本船の周りに寄ってきています。通信はありませんが、盾にしようとしている動きです〕
「通信がないなら無視していい。ジャミングもあるからお互いに言い訳できる。それより敵の対応だ」
戦闘が開始されてまもなく、経過の報告が上がってきた。
「バンディット二機中破、他四機と交戦継続中」
「こちらの損害は?」
〔被害なし。それと警備隊がこちらに向かってきます〕
結果は上々だな。モニターで確認すると中破したらしい敵の損傷は致命的に見える。武装が破損して火花が散っているし、スラスターがまともに使えないのか挙動が不安定だ。
さらに追加でバンディット側の被害が広がっていく。コルベット級の敵機が行動不能になったらしい。
「あ、残りのバンディットの船が逃げ始めてるっす」
「追わなくていいよ、さすがに警備船が出張ってきたら逃げるだろう。後の処理は任せよう」
「でも、この宙域にワープアウトは続いてるみたいっすよ」
「連中は何が目的なんだ? 目標の船を追ってきたって言っても、軍や警備船が多数いるんだから、普通なら最初っから逃げるそぶりぐらいするだろうに」
それどころか、いきなりワープしてきたと思ったら、手当たり次第に攻撃し始めた連中だ。獲物の船を狙って追ってきたって言うならわかる。けど、周囲に脅威となる船がごろごろいる場所で、手当たり次第に暴れる意味が分からない。
それに、連中が宇賊だとしてもこんなにわらわらと徒党を組んでいるのも不自然に感じる。宇賊なんて、大抵は少数のフリートで襲ってくる程度だと思う。それが、かなりの数この宙域にワープアウトしてきた。
一般船が逃げてきたのを追って宇賊がわらわらとこの宙域に集まってきた、そんなことが偶然にも起こりえる事象じゃない。すべてが何らかの計画されたものだって言われた方がまだ納得できるだろう。
〔ワープアウトの予兆が途絶えました〕
「やっと打ち止めか?」
〔イエローマーカーで表示されている一般船を含めると、その数は三桁を超えています。バンディットと呼称するレッドマーカーは百隻に上ります。その他四十隻以上がが一般船の判定です〕
「一般船も多いな」
「確認が取れて一般船と認定されてる船は、輸送船や商船だけじゃなく護衛の艦船も含むよ。レッドマーカーは徐々に数が減って現在八十隻以上。あ、今二隻沈んだ」
「それでも未だに八十隻近くいるわけだから、警戒態勢はしばらく解けないな。それにしても、見渡す限りものすごい数だな」
周囲の開拓に向かう船の数は、この宙域だけでも百隻以上はいる。警備についている船を合わせるとざっと見て二百隻くらいはいるだろうか。そのど真ん中にワープしてきたのだから、そのまま逃げ去ってもいいと思うんだけど。彼らは追ってきた船や周囲の船に対しての攻撃を続けている。
一部は逃げているようだけど、警備船の攻撃から易々と逃れることは難しいのだろう。徐々にだがその数を減らしていく。しばらく警備船と勇敢な一般船による
〔残存のバンディット船が集結中。それと先ほどより周囲一帯に張られているジャミングの強度が上がりました。通信状態に影響あり。発信元の特定は困難です〕
「なんすかね? さっきまでばらけてたのに、集団の真ん中辺りが指揮でも取ってるんすか?」
「本当に妨害電波の影響が酷いね。近くの船の通信さえ拾えない。高性能なEMPジャマーなんてもの、宇賊が使ってるのもおかしな話だよ」
〔集結中の船が移動を始めました。進行方向にアドラン帝国の艦隊が待機しています〕
「まさか、軍に向かって行ってるのか? 自殺行為だと思うんだけど」
そんなことを思って見ていると、連中は想定外の行動をとった。
〔多数のバンディットが艦隊を抜けて、ワープゲートへ向かい始めました〕
「ワープゲートに?」
「ゲートをくぐる気っすかね?」
今更ながら決死の逃亡か、そう思ったのだがそれもどうやら違ったらしい。
〔バンディットの船がワープゲートに向けて攻撃を始めました〕
「いや、なにしてんの!?」
「攻撃規模が小さいから、そこまでのダメージはなさそうっすけど。ただ、このまま続けられるとゲートが使えなくなるかもしれないっすよ」
「攻撃されたから点検はされるだろうね。前の集団との距離は開くけどさ。後続の利用者は立ち往生せざるを得ないかも。もしかして、連中の狙いって利用者の遅延だったり、ワープゲートの破壊だったりするのかもね」
「ゲート装置自体にシールドがあるっすから、現状ならまだ問題なさそうっすよ?」
なんというか、行き当たりばったりな行動のようで突拍子もない連中だ。コルベット級ぐらいの攻撃ならシールドが削れても抜かれることはないと思ったけど。バンディットの数が半端なく多い。
火力がなくても手数で押し切るつもりなんだろうか。そもそも、なんで逃げずにゲートを攻撃するのかもわからない。ヴィースが言ったように、最初っから破壊が目的だったのか? 宇賊が新設されたワープゲートの破壊を目論む? そんなことをして誰が得をするのだろうか。
訳も分からずトラブルに巻き込まれるのは避けたいが、事態は止まらず進行し続けていく。
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