アイ王国 防衛戦線

 「敵影ー!敵影ー」

 !!!

 「来ましたか。各隊に連絡を」

 ポン軍師を中心に作戦本部に緊張が走る。

 「王と王妃は?」

 「お二方とも依然戦闘中です。勢いは落ちるどころか、お二方とも増す一方です」

 「エックスやサラマンダーをここで倒してるおけば、後の作戦が楽になる。しかし・・・・・・、過度な期待は禁物です。限界は必ず来ます。屋上、城外に全魔法兵を配置、サラマンダーを一掃せよ。王妃には一旦お戻りいただく」

 ハッ!

 「ミカデ師団長、第3師団と油の準備は?」

 「トレイナーがしっかりやっています」

 「よしっ、敵は空と地だけでなく、地下からも襲い来る。対応は機敏に、まずは初撃に備えよ」

 

 大地を揺るがすほどの魔物の大群が、稜線いっぱいに広がり向かってくる。


 アラン王とエックスの戦いも激しくなる。

 「ハッハッハーーッ。王様よぉ、息があがって来てるんじゃないかー」

 「お前も随分傷が増えてきたじゃないか」

 「俺の一撃が決まれば、一気に形成逆転だぜ。精々当てられないように注意するこった。ウラーーッ!」




 「さあ、アイ王国の子らよー!援軍に駆けつけてくれた勇者たちよー!臆せず目の前の魔物を殲滅せよー!進めーー」

 ベガルードの檄が飛ぶ。隣のヤン・カナイと踵を返して両師団長は、魔物に向かって駆け出した。勇猛果敢なその姿に、前線の鼓舞された第1師団、第4師団、それからアイ王国所属の騎兵団が後に続き、さらにその後を各国から集いし援軍が後を追う。

 


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドド。


 横一面に広がった人間の目に恐怖の色は無かった。アラン王とエックスの間にもただ前だけを見て走る兵士が流れ込む。

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」


 グオおおおォォオオオォーーー!!

 「構えぇーーッ!突撃ーーッ!」


 ずずずず・・・・・・、バッッゴーーーーーン!!!!!

 バリバリバリバリッ!!!

 ドゴンッ、バリンッ!

 うぅぅうううわぁぁああああああーーーっ!


 人間、魔物、双方何体もの体が宙に吹き飛び上がる。


 - 個の力では魔物には敵わない、力の弱い魔物には3人で。強い魔物には10人で。そして、全く敵わない魔物にはこちらの特化戦力を充てます -


 ベガルードとヤン・カナイは、見事に敵の前線を突破して勢いを活かし敵陣を突き進む。

 

 「軍師の戦い方を実践するだー!複数で取り囲んで息の根を止めろーっ!」


 両師団長の後を続々と兵が雪崩れ込み乱戦が至る所で始まった。


 「ヤンよ、お前は右へ。わしは左を狩っていく」

 「承知」

 「これが終わったら呑むぞ」

 「・・・・・・、フッ、承知」

 

 ベガルードとヤン・カナイは、剣先を合わせそれぞれ進路を変えた。




 一方、城内にも魔物の影が・・・・・・。


 「出たぞ!2番区の角、それから17番。急げ〜♪」

 ポン軍師の予想通り地中を掘って侵入を試みる魔物の襲来が始まった。


 城内の対応は、第3師団率いるトレイナーが受け持っていた。


 「次は西地区に兵を集めろ〜」

 ハッ!

 このトレイナー、4人の師団長の中で唯一魔法を得意とする男であった。

 右手に短剣、左手にロッドを持って戦う器用な男。両手の武器には、テングアイという希少魔鉱石があしらわれていた。

 「軍師の作戦通り、徹底的にやれ」

 トレイナーは、地面にロッドを立ててそこを中心として探知魔法を展開していた。

 トレイナーは、注意深く地底の動きを感じ取り敵が頭を出した瞬間に対応できるように兵を動かした。

 それに加えてポン軍師は敵が頭を出した穴に熱した油を注ぎ込むように指示していた。暗闇からいよいよ出て暴れ回ろうと飛び出す魔物に、火がつくほど熱せられた油を被せればどいつもこいつもたまらず転げ回り数秒のうちに動かなくなった。魔物が通った穴にはさらに油を注ぎ、最後には火をつけるように徹底した指示を出し、それをトレイナー師団長も徹底して行っていった。


 「8番区、11番区の花屋の下、それから10番だ。連れてる敵の数も相当だ。徹底してやれ〜♪」

 ハッ!

 トレイナーの第3師団は、個性的な兵士が多い、腕は立つがよその部隊だと仲間とうまくいかないはみ出し者、常に上司に歯向かう者、武芸は全く出来ないが頭のキレはピカイチな者、中には犯罪者も多くいる。トレイナーが来るまでこの第3師団は、4師団の中で全くまとまらない問題部隊といつも下に見られ、影で馬鹿にされていた。


 

 「ん〜ん♪むっ、速いな・・・・・・。異常に速い・・・・・・、俺が行く」

 トレイナーは、ロッドを左手に取り立ち上がった。

 「ここは、任せたぞ」

 えっ・・・・・・。

 副隊長に告げるとひとりで走って行ってしまった。


 静かな教会がグラグラと揺れる。

 

 ズズズズズズズズズ・・・・・・。


 ガバっと地面が口を開き、教会を地中に沈み込んだ。

 低く地鳴りが響くと、姿を消した教会建物がポーンと穴から吐き出されるように空へ飛び出し、空中分解され、バリバリ音をたてて辺り一面に破片が散乱した。


 ズシンッ。


 巨大な足が、その穴から現れ地面を踏み締めた。ゆっくり巨大な魔物が顔を出す。


 ヌヌヌオオオォォォォーーーーン!

 大きな口から低い奇声を上げ、四肢生えたナマズの様な巨大な魔物が建物を破壊し、その全容を現した。


 「クラウン、あの城へ向かえぇ」

 その魔物の背中で、ナマズを操る一際派手な魔物。


 ズシン、ズシン。

 魔物が方向を変える。太い尻尾で周りの建物を簡単に薙ぎ倒す。


 ー オーバス・オバス ー

   ー オーバス・オバス ♪ ー


 聞いたことのないメロディの鼻歌。


 ー オーバス・オバス ー

   ー オーバス・オバス ♪ ー


 巨大なナマズ型の魔物が一歩を踏み出そうとした時・・・・・・。

 全身から体液が静かに吹き出し、その後積み木が崩れる様に、賽の目に刻まれた体が崩れ落ちた。

 「クックラウン・・・・・・、どうした?」

 乗っていた魔物も飛び降りて、何が起きたかわからない。

 カチャ。

 少し先に短剣を鞘に納めて、訝しげに魔物に目を向けるトレイナーの姿があった。

 手綱を手に持ったままの呆然とする使い手の魔物。

 トレイナーと目が合うと、一気に血がのぼり叫ぶ。

 「貴様かっ!!」

 トレイナーは、左手のロッドから火の球を飛ばす。

 派手な魔物はその火の球を片手で弾き飛ばす。

 「貴様、、、よくもワシのクラウンを・・・・・・」

 全身の色が褐色に染まり、体が膨張し派手な衣装は引きちぎられた。

 「ワシは魔帝十指のひとり、クロード。貴様は、楽には死ねんぞ」

 クロードは倍以上の大きさに変容し、息も荒くトレイナーを睨みつけた。

 「俺はアイ王国第3師団師団長にして、唄う魔法剣士トレイナー。貴様が十指だろうが、なんだろうがここから先には行かせない」

 トレイナーは、仕舞った短剣をスッと取り出してクロードに向けて言い放った。

 そう、トレイナー師団長は、その戦闘能力はさることながら、その戦闘スタイルで兵を魅了し、第3師団バラバラだった兵を束ね強固な集団に作り上げた男だった。


 

 「おいっ!城の方で煙が上がっているぞ、ケッケケ」

 アラン王の鋭い剣筋がエックスの喉元をかする。

 「城は信頼ある私の部下に預けてある」

 エックスの顎先から、薄く血が流れる。

 「ケッ、俺にやられる前に城が落とされるようじゃ話にならないぞっ」

エックスの右ストレートパンチをアラン王は小さな動きでかわす。間を開けず後ろ回し蹴り、ハキキックと立て続けに攻撃を仕掛ける。

 どの攻撃もあと少しの所で躱すアラン王は、エックスの息づかいが荒々しくなっている事に気付いたが、それ以上に攻撃スピードがグングン上がっている事にも気付いていた。

 周りの一般兵には、もはや、目で追えないレベルまで達しているだろう。

 剣を打ち込む隙がない・・・・・・。

 王がフッと気を逸らした瞬間。

 左肩、左頬にズシンと重い衝撃が走り、目の前が暗くなり、体が吹き飛ばされた。


 「おっ、ようやくヒット」

 エックスは、右足を蹴り上げたまま笑い出した。


 「王ーっ!」「アラン王!」

 吹き飛ばされ、仰向けに倒れるアラン王の元へ兵士が駆け寄る。


 「まさか、一撃で終りって事はないよな?王様」

 アラン王は、ゆっくり立ち上がり首を左右に曲げる。

 「エックス、お前の実力がここまでとは恐れ入った。しかし、お前はここまで。私の剣の前に倒れろ」

 右手の剣をエックスへ向かって投げる。

 目を閉じて手を合わせ呪文を唱える。

 雲の少ない空から、特大の稲妻がエックスの頭上に浮かぶ剣に落ちると、剣から分散された無数の稲妻が地上へ降り注ぐ。


 「なっ?!うううわわわググググググ」


 まもとに喰らったエックスの叫び声が響く。


 ・・・・・・しばらくすると体から煙が上がったエックスが目を吊り上げてアラン王を睨みつけた。

 「2度目はねぇぞ」

 エックスは、しずかにそう言った。

 アラン王は転がった剣を、中指で2度叩いてから取り上げて、こう言った。

 「さあ、2回戦のはじまりだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る