不測の事態

 「おいおいおい、あんなデカいのどうやって門をくぐるんだよ」

 兵士のひとりがボソッと口に出した。


 バッ!!バッ!!バッ!!


 奇怪な掛け声と共に、車輪のついた巨大建造物が目の前を通り過ぎる。

 人間の何倍も大きいトロールがギッシリ連なって太い鎖を引いている。

 「どうなってるんだ・・・・・・、門に突っ込むぞ。信じられん」

 けたたましい破壊音と共に冥界門が崩れ落ちる。


 バッ!!バッ!!バッ!!


 何事でもないように進み続ける。


 「バカモンッ!敵にのまれるなっ!俺達は使命を果たす!それだけだ!」

 隊長の怒号が飛んだ。

 無駄な口を開く兵士は誰もいなくなった。

 「我々は使命を果たす。あんた達も自分の使命を果たすようにな」

 そういうとノーメン隊長は部隊を引き連れて森の奥へと姿を消した。

 

 バッ!!バッ!!バッ!!


 4人は目の前を鈍く動く巨大な建物を見上げ、乾いた口の中で集めた唾を小さく飲み込んだ。



 ノーメンの作戦は至って単純、ちょこちょこと攻撃を繰り返してもトロールは元より近衛兵など引き付けられないと考え、側面から一気に総攻撃を仕掛けてトロールを出来る限り倒し、近衛兵が出て来たところを西へ退却するふりを行うというものだった。


 閃光弾の眩い光が何度も起こり、ワァーーーッという大声があがる。

 いよいよ、始まった。

 「ほら、ケンジ行くわよ」

 ショウが語気強めに囁く。

 「ああ、うん」

 ノーメンの部隊が注目されている間になるべく近づいておこう。

 4人は、体を屈めて動き出した。



 「・・・・・・どうした」

 「大魔王様、人間共の待伏せです」

 「・・・・・・ほう。少しは頭がまわるようになったじゃあないか」

 「大した数じゃありません。トロールが狙われています。足止めを狙っての事でしょう」

 「引き手が減れば速力が落ちる。お前たちでさっさと片付けろ」

 「御意」

 

 「待伏せか・・・・・・、貴様はどう考える?」

 「・・・・・・さあ」

 「・・・・・・クックックックッ。どうでも良いかそんな事はーー」



 建物の中層階の扉が開き、翼の生えた人型のガーゴイルが飛び出してくる。

 「隊長!上」

 「出て来たな。上から来るぞー!六番の型ー」

 ガーゴイルは、急降下で襲い掛かる。

 それに対しノーメン隊は重厚な盾を上に構え守りに徹する。

 「刺し身を喰らわせろ」

 盾と盾の間から、長い槍が顔を出す。

 

 バンッ!バンバンッ!!


 槍の先が、火薬の爆発ですっ飛んで空中のガーゴイルを撃ち落とす。

 「適当なところで引くぞ。焦るなよ!ジリジリ後退だ」

 

 

 「見て!部隊が上手く敵を引きつけてくれてるわ」

 「よしっ、私たちも行くわよ」

 「・・・・・・」

 「いよいよだね」

 4人は建物の裏手から、車輪を登り、適当な扉を破り中に侵入した。

 「ここの壁は相当厚く出来てるわ。普通は音を伝って気配が分かるのに、何も聞こえない」

 「でも、上にいる事は確かでしょう。急ぐわよ」

 薄暗い通路を走る。

 「ケンジ緊張してる?」

 ショウが前を向きながら言った。

 「いや、大丈夫。ショウは?」

 「はっ?全然大丈夫よ。あんたは私が守ってあげるから安心して剣を振ればいいのよ。わかったわね」

 「・・・・・・そう。わかった」

 

 「階段よ。行くわよ」

 タージが先頭をきって駆け上がる。

 ウォォォリャー!!

 上に大きな扉があるが、タージは勢いそのままに蹴破った!


 何もない広い空間に出た。


 「なによ、ここは?」

 「あそこ!」

 ケンジが奥を指差す。

 装飾の施された広い立派な階段が見える。

 「あの上か!」

 また、タージが先頭をきって走り出した。

 「タージ、止まって!」

 ケンジが叫ぶ。


 !!!

 階段を下る馬の蹄のような足が見えた。


 「なんで・・・・・・」


 「なんでだと、俺がいちゃ不思議か?」


 「聞いてた話と違うじゃない・・・・・・」

 「それでも、やるしかないわよ」

 「・・・・・・」


 「親方様はその階段の上だ。俺を倒して上がればいい」

 ゼットは両手と翼を大きく広げ、腰を落とし堂々と構えた。

 ケンジが、光の剣を抜いた。

 「みんな、僕が隙を作るから上に行って」

 「ケンジ!なに格好つけてるのよ。4人でやればいいじゃない」

 「そんな時間はないよ!僕もなるべく早く向かうから、行って!」

 3人は顔を合わす。

 「本当にいいのかい?」

 「ネオバーンは、お願いするよ」


 「何をコソコソやってるんだよーっ」

 ゼットは口から激しい炎を吐き出した。

 「つっりゃーーーっ!」

 ケンジの一振りで、炎が両断される。

 今度はケンジがゼットに向かって飛びかかる。

 勢いそのままに深く踏み込み、両手でしっかり持った剣を首元目掛けて突き刺す。

 ムンっ!

 あと一歩のところでゼットの角によって弾かれた。

 ケンジは間を空けずに斬りかかる。

 ケンジより二回りは大きい体格だが、ゼットは器用に躱す。無駄のない動き、時には翼の風圧を使いよける。

 「行けーっ!」

 ケンジの声が届く前に、3人は走って階段へ向かっていた。

 ケンジの剣を躱しながら、手のひらから光を圧縮したような密度の濃い光弾を階段に向かう3人へ目掛けて放つも、ケンジの剣によって軌道を変えられ、右に逸れ壁で爆発する。

 「ケンジ、待ってるわよ」

 ショウが振り返り、通る声で言った。

 「わかったよ」

 剣を握るケンジの手に、より一層の力がはいる。

 「あぁーあ、行かせちゃったな・・・・・・。後で大目玉だ。・・・・・・それより、なんだろな・・・・・・、お前を前にすると戦闘のアテ勘がズレるんだが・・・・・・」

 「・・・・・・何を言ってる?」

 「・・・・・・自分で意識せず天性のものか。厄介なこった」

 ゼットは両手に光を集めて、翼をゆっくり動かして宙に浮かび上がった。

 「覚悟しろ、ここからが本気だ」

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