3 根本問題
俺は悩んでいた。というか、改めて苦しんでいた。
まず何の料理を作っていいか分からん。
人参を衝動的に買ってきて、困っている。
それにどうも包丁というのは細すぎるんじゃないか。まず人参が切れない。包丁を入れたらぶっ飛んでいく。転がっていく。
これはもう致し方のないことである。レシピ本、料理動画は、食事に対する意識が高すぎるのである。それに比べると俺のスキルは低すぎる。
なぜかと色々考えてみたが、これは食事の「完成形」が揃いすぎているからだとしか思えない。
コンビニやスーパーに行けば完成形が存在している。要するに食事を摂るだけ
ならそれを買えばいい。
だからそれを目指そうとすれば勢いこちらも完成形を出さねばならなくなる。ところがそういう高度なレシピ本を読みだすと、訳のわからぬ調味料や聞いたこともない香辛料が出てくる。簡単なレシピであっても最初から完成形が目指されている。
俺のボディに合ったスキルに対しての知恵ではない。
何というか、格ゲーで何とかいうコマンドを覚えないと対戦できませんよ的なものを感じる。
とりあえず、人参を電子レンジにかけてから切ろうと思ったら、今度は熱すぎて切れな買った。
俺は余程のバカだと思う。
思うに包丁はこういう固い素材や獲物を切ったりする武器装備ではないのではないだろうか。固い獲物や大きな生物はもっと、エグいくらいに太い刃だったりしてグリグリと割り開いていくものなのかもしれない。まして根菜というのは地面に埋まっているわけだ。地面を掘り進んでいく道具と一体になってないと、元々根菜に向き合う装備としては不向きなのではなかろうか。これは肉も同じだ。肉はとにかく切れない。魚も切れない。
食事戦士たちはそういう装備ももちろんのこと、まずあれこれ揃えるのも得意
だ。そもそも料理リストが頭の中に入っていて、これに素材サーチがかけられるくらいのことはできるのではないだろうか。あるいは逆引きで、素材から可能な料理を発想するようにできているのかもしれない。そうだとしても、例えば同じ素材をまとめておくというのも大変なのである。
素人には気づかないが、実は素材というのは袋に突っ込めば自動的に同じものでひとまとめにしてくれる機能というものは存在しないのである。よく割とデカいキッチンにずらりと並べる人がいるが、あれは一流の戦士に違いない。あんな風に素材をひとまとめにできる人物はそうはいないはずである。
思い立って、俺は小分けの保存容器を買いに行こうと考えた。
そうだ、戦士たちは完成形を作る前に、準備をしているのだ。道具のグループわけという準備だ。
ついでに卵を買ってくる。
卵とにんじんの炒めものをした。味付けはしょうゆであった。
それからレンジで温めて切り終わった人参を保存容器にぶち込んで冷蔵庫にしまった。
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