第34話 最期の言葉

 結束バンドで拘束されたサツキとツツジは床に正座で座らされた。

 絶体絶命のピンチ。

 座らされるなりサツキは顔面にスミカズの回し蹴りを食らった。


「まーた捕まるなんて、サツキくんは弱いでちゅねー」

「はい、、、。知ってます」


 サツキは何度も頷く。

 こんなこと言われるのは慣れたもんだ。まあ、おそらくこれを言われるのがきっと最後であろう。

 何しろこれから殺されるのだろうから。


「おいツツジ。こんな雑魚やめて俺の女になれよ。満足させてやるからよぉー」

「普通にキモい」


 ツツジはスミカズを睨みつける。


「ボスの正体が分かったから身元を辿ってみたら、、、。まさか本当にボスの息子が小堺だったとは」


 前から小堺のことをツツジは知っていた。よくデートに誘って来たり、無理やり家に来ようとしたり、下心丸出しの最低なやつという印象しかない。


「どうだい?この能力者の数。壮観だと思わないか」


 アルファは自分の仕事を見てうっとりとした。

 無言で立っている能力者達。おそらく完全に意思がない状態なのだろう。

 目がうつろで能力を使いっぱなしで、かといってそれを使って何かしたりもしない。さっきから歩くという単純な動きしかしていない。


「こいつらはまだ試作品段階のものだが人を殺すには十分に使える。今からお前らのはらわたを引き摺り出し、ぐちゃぐちゃにして殺してやる。楽しみだろ?」


 ボスはニヤリとサツキ達に笑いかける。


「さて、どっちが先に死にたい?」

「サツキからなんてどうだ?この女の前で屈辱的な死を与えるんだ」

「それはいいな、さすがだスミカズ」


 ボスはポンとスミカズの背中を叩く。

 それを聞いてツツジは「待って!」と、いきなりツツジが大きな声を出した。


「私を先に」


 スミカズとボスはそう言ったツツジをじっと見る。


「いいだろう」


 スミカズは父親が頷くのを見て、ツツジが殺される許可を承認した。


「ツツジ、最期に何か言いたいことは?」


 ボスがそう言ったのは情けなのか、それともただ単に人が死ぬ前に何を言うのか気になるだけなのか。

 真意は分からないがツツジは少し考えると話し始めた。


「、、、先輩。今までありがとうございました」

「え?」

「まあ、これから死んじゃうんすけど。私は先輩のおかげで生きてこれました」


 ツツジはサツキにだけ聞こえて欲しいというくらいの声量で、まず感謝の言葉を述べた。


「高校生の頃、父親から虐待を受けて殺されかけてた時に、うちの家の前を通った先輩が中まで入って来て父親を止めてくれましたよね。その後は母親は蒸発して父はムショに行っちゃいましたが、、、」

「そういやぁ、そんなことあったね」


 サツキは頭の隅にあった記憶を引っ張って思い出す。

 確かにツツジと交流をし始めたのがそれ以来のことだった。


「それで周りが哀れんだり気を遣ったりする中、先輩だけは私に普通に接してくれました。それがすごい嬉しかったんすよ」

「はあ?何でよ」

「気を遣われると誰かといるのに疎外感と孤独で生きている気分になれないんです。先輩と一緒にいる時だけ人の温かみを感じられて生きてるって気分になれました」


 心なしかツツジの声が少し震えている。


「私、ずっと思っていました。この人が私の人生を変える人なんだなって」


 ツツジは笑顔でサツキの方を見た。

 彼女は泣いているのか、その笑顔の目元は少し潤んでいた。


「泣かせるねぇ。サツキ、お前は何かあるか?」

「俺は、、、」


 まず、サツキはツツジに何かいうことはあるか考えた。

 思い出はあるか?


(いや、そんなにないな)


 彼女に対する思いは?


(いつも言っているけど、怖いということぐらいしかない)


 ツツジはなさそうなので次は家族について考えた。

 両親に家から追い出された記憶。姉と妹にぶん半殺しに殴られた記憶。

 サツキは家族もダメそうなのでさらに色々考えた。

 特バツの思い出、学校の思い出、プライベートでのこと。


 だが何もない。


(やべえ、何も思いつかねぇ!!)


 これでいいのか?何も言わずに自分の人生を終えるのか?


 サツキはとにかく何でもいいので考えた。


「あ!あった!!」


 一つだけ。一つだけ最期に言っておきたいことを思いついた。


「あの、これお願いを言ったらやってくれたりしますかね」

「何だ?逃がして欲しいとか?」

「いえいえ」


 サツキは首を強く横に振ると、一呼吸おいた。


「えっと、スマホにですね。画像フォルダがあって実はその、、、。そこに、、、」

「なんだ?まさか画像消せっていうのか」

「頼めますかね、、、?」


 恐る恐る聞いてみた。

 しかし返事なんてものはだいたい予想はつく。


「断る」

「ですよね」


 サツキの予想通りだった。


「さて、お楽しみの時間だ」


 スミカズは手を叩いた。


「サツキを殺す」

「え!?」


 ツツジは思わず声を上げてしまった。


「いや、私からじゃ、、、!!」

「気が変わった。やっぱり憎きサツキを先に殺す」

「そんな、、、!」


 珍しくツツジは絶望の表情をしていた。

 これから自分の尊敬していた人物がなぶり殺されていく。そんなものは見たくないのに見せられてしまう。


「サツキ、今更後悔しても遅いからな?」

「ひ、ひぃ〜!!お助けぇ〜!!」


 最期まで情けないサツキ。


「いやだね」


 スミカズは鼻で笑った。


「だが改造人間達はこの状態じゃ攻撃はできない。とりあえず今できることは操ることだけだ。肝心なのは"攻撃"をすること」


 スミカズがそう言うと、ボスのほうはポケットから何かを取り出した。

 取り出したのはスマートフォンだった。


「ん?」


 ツツジはボスのスマートフォンを見て、あることが頭によぎった。


 レオとの会話。確か彼女はメッセージで、、、。


「あれ?もしかしてその携帯、ウイルスに感染、、、」


 ツツジがそう言いかけた直後、ボスの手下のマシンガンが頭に突きつけられた。


「静かにしないと殺すぞ」


 手下のもったマシンガンは冷たかった。


「ごめんて」


 ツツジは平謝りをした。


「この兵器たちが攻撃をする時は、アプリを入れたもののみが操れるようになっている」


 ボスはスマートフォンの電源を入れ、アプリをタップした。


「これだ」


 アプリのスタート画面にはいくつかタップして操作する箇所と、命令を打ち込める箇所がある。

ボスはさっそくそこに"殺害せよ"と打ち込んだ。


「今このアプリを持っているのはこの私だけだが、この先ビジネスにおいてはいくつか作ることにはなるだろう」


 サツキとツツジを殺す準備はこれで完了。

 あとは、ボスがスタート画面にタップするだけだ。


「これでお前らはおしまいだ!!」


 画面に指が触れ、殺害の開始がされる。


 そのはずだった。


 しかし、何も起こらない。


 一つ何かあるとしたら、スマートフォンの画面いっぱいにオオサンショウウオっぽい人間がヌルヌルと踊るだけ。


 そう。それはレオの作った、虹色の踊るオオサンショウウオ人間ウイルスである。


「うわぁぁぁぁぁ!!!」


 突然のアルファの叫び声に全員がビクつき、彼の悲鳴の方向へ振り向く。


 なんと、アルファは改造人間の一人の狼人間に噛み殺されている最中であった。


「ど、どうなっている!?止まれ!止まれ!!」


 ボスは画面をタップしたが、サンショウウオ人間の動きが早くなっていくだけだ。

 それと一緒に、改造人間までおかしな動きをし始めた。

 そして、狂った改造人間達はボス達に襲いかかって来た。


「やめろぉ!来るなぁ!!」


 必死に逃げようとしたが、スミカズ達は改造人間に捕まった。


「離せ!離せぇぇ!!」


 暴れるボス達。

 だが改造人間達は離さない。


「サツキ!!貴様何をしたぁぁあぁ!!」

「え、俺!?」


 いやむしろサツキはこっちが聞きたい状況だ。

 全く身に覚えのないことを言われても困る。

 サツキがチラリとツツジのほうを見てみると、サッと彼女は目を逸らした。


「このクソガキがぁぁぁ!!」


 ボスがそう叫んだ瞬間。

 改造人間達が爆発し、屋敷の屋根をぶっ飛ばした。


 まるで巨人が家を蹴り飛ばしたかのように。


 そして、屋敷は盛大に華々しく崩壊した。

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