思い出した出会い(中)


一同「えぇ!?」

と先程までザワめいた各パーティー達がよりざわめかせ、一斉に外に走った。

エルデ「さあ、行こうイリゼ君!」


イリゼ「え…ぅえぇ!?」


エルデ「なんで驚くんだい」


ブレイズ「とにかく、行くぞ。嫌な予感しかない」


イリゼ「で、でも……」


ブレイズ「行くぞ」


イリゼ「あ"ぁぁ……」

ブレイズにマントの襟を引っ張られるがままにイリゼは他パーティーに立ち混む玄関まで連れられた。

ギルド事務員2「おい、これヤバくないか……」


パーティーリーダー「誰かー!ポーションと治療師ヒーラーを連れてこい!」


騎士「まずいぞこれ!」


イリゼ「一体何が…」

ずっと目を細めながら息を飲み、人波をかきわけたその光景は絶句に逸するものだった。

錬金術師の証がついた紺色のマントと服は破かれ、破かれた服節々に傷口の赤が見えていた。武器の杖の藍色の玉が割れて絶対に使えないのが確実だった。ほぼ切り傷とかすり傷だらけの錬金術師がいま目の前に倒れていたのだった。

イリゼ「嘘…うわっ!」

とイリゼをぶつけたギルド長は青ざめた顔で錬金術師に近づいた。

ギルド長「おい、しっかりしろ!おい!」

あの悪党顔のギルド長の顔に青白と冷や汗が流れてる。そんなギルド長が何度も肩を揺らしても、多量出血のせいか目を開ける気配すら感じなかった。

狩人「治療師ヒーラー呼んだ!」


魔術師「ポーション、これくらいで十分!?」


格闘家「うわぁ…やべぇ……」


剣士「どうしたら…ああなるんだよ…」


イリゼ「……」

当たり前だった生活に一度も見たこともない光景を目の当たりにし中々行動に切り替えられないイリゼ。この場で立ち尽くしたまま、ただ興味本位、心配な人に救助人に押し戻されるままだった。すると、見かねたブレイズが肩を叩いた。

イリゼ「…!」


ブレイズ「ほら、行くぞ」


イリゼ「え……でも」


ブレイズ「人混みが気になるんだろ。関係ないねぇよ。行くぞ」


エルデ「ささ、行きましょ行きましょ」


イリゼ「うわぁ!」

ブレイズの召喚士サモナー(?)の力によって怪我した錬金術師と俯くギルド長に再び戻された。

エルデ「よ、長」


ギルド長「なんだ……エルデか。今はあんまり話さないでくれるか?俺はお前よりも呑気ではない」


エルデ「んまひどい。俺でも分かるわ、こんなドヨーンな空気ぐらいは」


ブレイズ「まずは運ぶぞ。ここじゃ埒が明かない」


ギルド長「そうだな。誰か、テーブルを並べて布を広げてくれ!」

ギルドにいる人らは即座に丸と四角のテーブルを数個並べ、ベッドのシーツを二枚程度重ねて敷き、錬金術師をゆっくりと降ろした。

治療師「これひどい……このくらいだったら肉離れが発生しそうなんだけど」


ギルド長「とにかく治してくれ。こいつは……俺の大切な息子みたいな者なんだ……」


治療師「……善処します」

と女性の治療師はギルド長の冷や汗を出す顔を見るなり錬金術師にヒールをかけ続けた。おそらくギルド長がこの錬金術師を長く育てたのだろう。そして、彼が国王認定の勇者パーティーの一員になれたことに誰よりも喜びという報いを受けてたはずだ。未だに錬金術師が治る様子もなくシーツの白が赤黒で汚されていく。息をするのもする気配もない錬金術師をイリゼは恐る恐るギルド長の隣に右側の手に近寄る。

イリゼ「……」

イリゼは改めて錬金術師の全体に息を飲んだ。切り傷、刺し傷、矢で撃たれた痕に魔法で打たれた痕も数々見受けられる。傷は所々浅いのが出ているが、ほぼ深い傷はあまり見られなかった。だが、急所の部分は並々外れている。さすがは勇者パーティーの錬金術師と称えられるしそれを上回る勇者らの強さを思い知らせる。

イリゼ(絶対に…俺だったらこの錬金術師さんに傷の一つも出来ないどころか弾かれそうだ…)

イリゼは若干の汗を垂らし、錬金術師の傍に腰を下ろす。破れたローブの袖から見える浅傷の血に触れるなりイリゼの顔から汗を流させる。

イリゼ「ひどすぎる……」

まさに目に痛むものだ。栄光と誇りが讃えられ民衆の期待を背負ったはずを勇者パーティーの一員。だが、何かが因果かはたまたは裏切りか…。兎にも角にも彼は抜けられた。哀れにも

兵士「はっはっは……あ、いた。いたぞ!」


ギルド長「君らは……王国直属の」


兵士2「やべぇ……さすがにやりすぎだろ」

と王国直属の兵士が錬金術師に近寄った。だが、兵士らは回復中の錬金術師を見るなり冷や汗と吐き気を感じさせるようにギルド長とイリゼから一歩退いた。

エルデ「あれ、どしたん。追放の件は城にも伝えられとるだろう?」


兵士「え…」


兵士2「う……は本当だったのか……」


エルデ「噂?」


兵士「………《銀金帝》の勇者が目障りの錬金術師を切りまくって捨てたって……」


ブレイズ「はぁ!?」

ブレイズの大きな呆れ声を震央に続々とざわめかすギルド中。戸惑う者、激怒する者、さらに混乱させる者まで多種多様多対応に相応しい混沌だ。

ギルド長「どういうことだよ!」


兵士「知らない!知らない!噂!噂ー!」


エルデ「まぁまぁ…落ち着け落ち着け。激怒の気持ちは分かるがこいつらは噂を聞いただけで無実だ。降ろしとけ」


ギルド長「……チッ」

ギルド長は顔が白になりつつある兵士を降ろした。そして、兵士の噂にやっと冷静なった各ギルドが

狩人「そういや、あそこ……勇者と錬金術師以外女性だったよな」


魔術師「どこもかしこもあの女性達、結構なボンボンな気がするんが…」


格闘士「そういや、貴族が自分の娘を取られたと泣きべそかいてたってい言う噂聞いたが………」


治療師「まさか、勇者の目的って…そういうこと?」


ブレイズ「そのまさかなんだが…その女性達も協力して錬金術師を倒したっていうのか…?」

ブレイズの一言で各ギルド達は目を丸くし互いの顔を合わせた。ギルド長も二人の兵士も同様の顔のブレイズも口角を上げてないエルデも。そんな中、エルデ同様に目を丸くしてないイリゼだけはただ俯いて徐々に傷が回復していく錬金術師に強めの視線を送ってた。

イリゼ「……どうして」

とそのまま冷たい小言を放つ。この時、イリゼに悔やみという近い感情が持ち合わさった。この事実が本当であれば勇者もお仲間も真っ先に牢獄送りだろう。だが、相手は王国認定の勇者パーティー。相当の強さと威力があるのは確かでイリゼ達小パーティーと各ギルド達で力を合わせても単体でも叶わない事だ。イリゼは表情は変えずに握り拳を固めた。それはまるで、心の底を表に出すように。

ギルド長「王国は……」


兵士「一応、隊長が知らせてる。今頃、王は泡を吹いてるはず……」


イリゼ「あの……すいません」


ギルド長「っ…イリゼ君…?」


イリゼ「この子の名前…なんと言うんです?」

ギルド長はいつの間にかそばに居たイリゼに錬金術師の名前を聞かされた。脳内に数個のはてなが浮かぶもののギルド長は自分が最も育て親しんだ錬金術師の名前を言った。

ギルド長「セリニ……セリニ・シャッテン。戦争孤児で錬金術師だ」


イリゼ「セリニ……とてもいい名前ですね」

イリゼが再びセリニを見るギルド長は今まで見たイリゼに違和感が覚えた。静かで大人しめな性格ではあるものの、時々自殺という奇行に走る変人イリゼが今回はいつになくつめたく感じる。

ギルド長(まさか…)

そして、ギルド長のが当たるかのようにイリゼは再びギルド長の方を身体と顔に向かせたセリニを指して、こう言った。

イリゼ「この人を……俺がもらっていいですか?」

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