第6話 出会い

 この世界に来てから一週間がたった。

 ゴブリン退治の時の報酬でいまは潤っている

 セシリアに絵本を買うことができたし、

(読み聞かせてあげたらとても喜んでた)

 俺は自分の服を買うことができた。

 さすがにボロ着で街を歩くのは目立つからね


 最近は魔力の操作を森で練習している。

 魔力回路を伸ばし、太くし、増やす。

 魔力を通しやすい身体につくりかえる。


 同時並行で走ったり、筋トレもしている

 ただ子供の身体だと成長を感じ辛いが。

 もっと食べないと

 まあ体力はステータスが増えているので無駄ではないのだ。


 これからも続けようと思う


 ◇


 今日はまず商会に立ち寄り 

 釣り道具を買って

 いつもの装備と共に森に入り

 鹿を狩った小川を目指し歩いていた。


 セシリアに食べさせるのがお肉ばかりではいけないと思い、魚を釣ることにしたのだ。

 前世では親父と釣りに行った事はあるし、あの川は綺麗だったのである程度魚はいるだろう、よって問題はない。


 森に入ることはモニカさんに警告されているのだが、しょうがないだろう。


 チーゴさん達は流れの冒険者なので、依頼の達成を祝って酒場で飲み明かし、酔いがさめたら旅にたっていった。

 ので依頼についていきお金を稼ぐことはできないし、最近は例の盗賊達のせいで街での仕事が減っていて稼ぐのが難しくなっており、生活する為には森で素材を採取するしかないのだ。

 しょうがないのだ!

 

 それにセシリアの為ならば盗賊達との戦闘も強い魔物との戦闘もたいして怖くない。



「んん?」


 水の流れる音に耳を澄ませて進んでいると

 小川に向かう途中森の奥の方から微かな戦闘音が聞こえ、さらに大きな魔力を感じた。


 これはモニカさんの言っていた盗賊か強い魔物かもしれない


「行ってみるか 」


 状況を確認する為に【魔力感知】をフル稼働させ場所を特定し、身体強化を使い走ってそこに向かった。


♢♦︎


 そこで目にしたのは、地面に倒れている男と


 ワンドを握った小さな女の子、


 そんな子供に剣で切り掛かる人相の悪い男の姿だった。


 多分あれが噂の盗賊だろう。


 女の子が危ないと思って助けようとしたのだが、その必要は無かった。


 男が倒れたのだ。



 立っているのは1人の少女のみ。

 なんとこの少女はたった1人で盗賊を倒してしまったようだ。

 よく見ると倒れている男2人の服装が似ていてどちらも剣を持っていた。

もしかして盗賊の男2人をいっぺんに倒してしまったのだろうか?

 だとしたら…



 そこで驚愕する。

【魔力感知】で先程追いかけてきた魔力の根源が、今立ってる少女だと気づいたのだ


 そして同時に少女も俺の存在に気付いたようでこちらに顔を向けてきた。



 状況の整理をしたかったが

 隠れてもしょうがないので少女の方に近づき


「やぁ、こんにちは。僕の名前はルクス」


 と声を掛けた。





 近くで見る少女の姿は

 この世界ではめずらしい黒髪で、色艶があり

 こちらもまた肌は白く

 身体は華奢で身長は俺より少し小さいくらい

 歳の頃も近いだろう

 幼いながらも容姿が整っていて

 セシリアとはまた違った良さがある。

 森に佇む姿はどこか神秘的な美少女だ。


 ただ、近づいてみて解った事がある

 それは彼女が非常に大きな闇を抱えているという事だ。

 ここでの闇とは2つのことを指し


 ひとつは精神的なもの


 一見無表情で

 感情のない人形のように見えるのだが

 その紫がかった黒い目には大きな絶望や苦痛、孤独が写っている。


 俺はこの目を知っている

 大切なものを失った人の目だ。


 なぜわかるのかというと、見たことがあるから。


 そして俺も似たような感情を味わったことがあるから。


 前の世界でも今の世界でも。


 

 もうひとつはその心の闇に呼応するような

 大きな闇の魔力。

【魔力視】がないと魔力は見えないが、この少女の魔力は不安定であり、魔法を歪に生み出しているようだ。それによって魔力は可視化され、漆黒の禍々しい力が少女を包み込んでいるのがわかる。


 闇属性魔法。

 俺の光属性魔法と対をなす魔法で呪いや死などを司っている。そのため悪人や魔族なんかが好んで使い、そうでない人間からは忌み嫌われる魔法。



 そこしれぬほどの魔力量。

 エルフの俺より量が上。ひとりの少女が抱え込むにはあまりにも多すぎる量。



 少女は俺に問いかけてきた


「あなたはてき?」


「いや、違うよ。」


 咄嗟にそう答えるがどうなんだろう?

 彼女から溢れ出る魔力は凄まじく

 深い闇に吸い込まれるような感覚になり、

 今すぐにでも光の魔法で抵抗したくなる。


「ほんとに?」


「ああ。少なくともそこの盗賊の仲間じゃないし、君を傷つけようとは考えていないよ。

 それより君はどこから来たの?」


 すると彼女は黙り込んでしまう。

 警戒されているのだろうか?


「その盗賊どうするの?

 街にいって引き取って貰うの?」


「まちにはいけない…」


 やはり何か事情があるようだ

 できるだけ優しい声色を意識して、また質問する。


「じゃあどこにいきたいの?」

 


「……」


 彼女は考えこみ何も答えることができない


 失敗してしまったかもしれない

 質問をぶつけすぎたようだ。

 もっとゆっくり聞いてあげないと



 そういえば今日の朝に、釣りの空き時間のためのサンドイッチを作って、持って来ているんだった。


 昼食には少し早いかもしれないが、彼女の元気がでるかもしれないし食べさせてみよう!


「ごめん質問多かったね。

 お昼のサンドイッチ余ってるんだけど

 君も食べる?

 お肉も入ってて美味しいよ」


「…わたしお金持ってないの」


「いや、お金なんて取らないよ。

 お腹減ってない?食べたらきっと元気でるよ 」


 彼女はお腹が減っていたのかしばし悩んでから



「…うん。たべたい」


 と口にした。


 俺は【ストレージ】から2個あるサンドイッチの片方を彼女に渡し、先に自分の方に喰らいつく。


 彼女は俺が食べたのを確認してから恐る恐る口にした。


 中身はトマトとレタス、薄く切った鹿肉に塩胡椒、甘酸っぱい果実で作ったソースをつけた程度の軽いものだ。


 だが彼女には好評だったようで

 2口、3口と美味しそうに食べていった


「……おいしい」


 そう感想を溢した彼女の目にはうっすらと涙が浮かんで見えた。


 ろくに食事を摂れていなかったのだろう 

 この世界は残酷だ。

 いつ食事にありつけるか分からない。

 いつ餓えて死んでもおかしくない。




「それは良かった。

 でも今回は塩を入れすぎちゃったんだよね

 次からは薄めに作ることにするよ。」


「え、これあなたが作ったの?」


「うん、そうだよ。

 作ってくれる人がいないからね」



「…それって」


「ああ、僕に親はいない。ボロい小屋で妹とふたり暮らしだ」



「…」



「ねえ、君のことも教えてくれない?」



「…ルーナ。わたしの名前はルーナ」



「わかったよルーナ。…素敵な名前だね」



「ぅん、おかぁさんがつけてくれたの…

 おかぁさんはね、すごいひとなんだよ。

 でもね、わたしのせいで、家でてけって。

 おかぁさんはわたしを守ってくれたんだ

 おかあさんだけが、わたしに優しかった

 なのになのに、またわたしのせいで… 」


 言葉はここで途切れた。


 ルーナは必死に泣くのを堪えていた。

 小さな身体の震えを押し殺し、漏れ出そうとする嗚咽を噛み殺している。

 それと同時に身体から湧き出てそうになっている黒い魔力も抑え込んでいる。

  

 まったく子供とは思えない程の精神力。

 やっぱり、彼女は強いんだ。

 …俺なんかとは違って



 しばらく待つと


「わたしね、にげてきたの、盗賊から。

 

 おかあさんが、おかぁざんが逃げてって

 そういったから…わたし、わたし…」




 彼女は独りだった

 誰にも助けてもらえず帰る場所もない。

 なんだかんだおれには前世では親父が、

 こっちではセシリアがいた。

 彼女にはいない、心の拠り所となる人がいた。


 彼女は俺の何倍も辛かったんだ。


 ならせめて俺が彼女の…



『ねぇ僕といっしょに行ない?』

 そう言葉にしようとした時。


「っ」


 強い魔力の接近を感じた。




「…え」


 それは大型の魔物だった。


「ワイルドベアか」


 そいつは熊が大きくなったような魔物だ。

 大きさは3メートル近くあり、9歳の子供からすると遥かに大きく、手に負える相手ではなさそうだ。


 さらに母の書物にあった"魔物大全"によると

 その毛皮は分厚く、攻撃が通り辛いらしい。

 試しにファイアーアローをくらわせたが、やはり効果はないようだ。


 そんな大物が俺には目もくれずルーナを睨みつけ、襲い掛かろうとしている。

 

「にげて!これはわたしの…」

「大丈夫!なんとかする!」

 逃げることはできない。

 この子を見捨てられるはずがない


 別に人助けがしたいとかじゃない

 これは否定だ。理不尽に大切なものをを奪ってくるこの世界への。

 

 魔力を込め無詠唱で作成したファイアーボールを、ルーナの方に直進している熊のあしに打ち込む、熊は前脚をつき下にきた顔にマッドショットを喰らわせる。

 熊は動きをとめ、顔にかかった土を拭う 


「グガアアアアアアアア」



 そして奴は怒りの咆哮をあげ、俺の方に向きを変えてきた。



 怒らせてしまっただけだなあ。

 魔力ブロックは防御に使って攻撃魔法はいまからでは間に合わないし


 しょうがない切り札を使うか


「光よ!我が手に集え、形を成せ、剣となれ」

 

 白く眩い光が俺の右手に集まり徐々に剣の形になってゆく


「【光輝剣】」


 これは光の魔法。

 子供の頃、母に聞かせてもらったお伽話に出くる"勇者"が使っていた聖剣を模したもの。


 光を圧縮して出来ていて、魔を切ることだけに特化したルクスのオリジナルの魔法。


 熊はこの魔法の危険性がわかったのか、急いで俺にその毛むくじゃらな腕を振りかざしできた。


 一瞬にして、光を反射した熊の光る爪が、俺に迫るが、それをひょいっと上に跳ぶことでかわし、地面を叩きつけた腕を踏み込み、さらにもう一段ジャンプ。


 目の前にはくまさんの驚愕した貌がある。


 

 そして一閃。光り輝く光剣は、空に流れるような軌跡を描き、首を刎ねる。


 シュタっと着地をきめ、振り返って熊がまだ生きていないかの確認をとる。


 ドシーーン!


 と大きな音を立てて、首をなくしたくまさんの身体が倒れた。


 よかった。倒せたようだ。


 この【光輝剣】は燃費がものすごーく悪い。


 なので余り使い続けることのできない魔法なのだ。



「 ルーナ 大丈夫?」


 一応アースウォールを作っておいたので衝撃は防げてるはずだが、しっかり確認をとる。


「う、うん。大丈夫

 あなたは大丈夫だったの?」


「もちろんだよ。

 まあちょっと魔力使い過ぎちゃったかも?」


「…すごいつよい。こんなに大きな魔物を倒しちゃうなんて 」


「そんなことは無いんだけどね」


 多分彼女の方がよっぽど強くなるんじゃないかな?


「わたしもあなたみたいに強ければ……」


 でも少し思い詰めちゃってるな。


「ねぇ、もしよかったら僕と一緒に来ない?」



「?」


「僕の家族になってみない?」



「……え?」


 ルーナは混乱した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る