第14話 侵入者

 獅子の牙ダンデライオン本部、それは第一地区の中心にある大きな建物であり、主に隊長達の会議や私達七番隊『プラタナス』の活動の場として使っている。


温森ぬくもり隊長?起きてます?」


「うわあああ!!?な、なんです……か……?」


 突然の声に驚くが二日ぶりに開いた喉は上手く声を出せなかったらしい。


「今日はサザンカの天馬てんま隊長が来ています、挨拶にでも行かれてはどうでしょうか?」


 五番隊『サザンカ』隊長の天馬学てんままなぶ……あの人は怖いから苦手。そんなわけで頭から毛布を被る。


「やめときまひゅ……」


「別に無理にとは言いません……が!」


 そう言うと彼女は私から毛布を剥ぎ取り、電気を全て付けた。


「ま、まぶしいですぅ……!」


「しっかりして下さい、あなたは隊長なんですよ。それを特に任務も無いからって真っ暗な中ゲームばっかりして……あとなんで私に対して敬語なんですか、威厳ってものがですね」


「う、うぅ……」


 大人になってから怒られると中々に効く。久しぶりに明るくなった部屋を見渡すとお菓子の袋や脱ぎっぱなしの服がそこら辺にあった。それを見て副隊長の佐伯恋夢さえきれむのボルテージはさらに上がる。


「全く……あ、そういえば温森隊長。例の『シロ』について資料をまとめて欲しいってアイリスの佐藤隊長から頼まれました」


「元々ある程度はまとめて置いてるから、私がそれをアイリスに……お、送っておきます」


「……こういう所はすごい尊敬してるんだけどなぁ」


 恋夢ちゃんが何かを小さな声で呟く。な、なんか私したかな……大丈夫かな。


「分かりました、ならとりあえず掃除をしましょう。私も手伝うので」


「う、うん。ありがとう恋夢ちゃん」


「これ……いつの靴下ですか?」


「覚えてないです……」


 こうして今日もいつも通りの温森亜茶ぬくもりあさの一日が始まる……はずだった。


「ひっ!?」


「警報です、温森隊長」


 突如鳴り響くアラート音にか弱い声を出しながら事態を把握しようと監視カメラのあるコンピュータールームに通信を繋ぐ。


「な、何かあったの……?」


「本部に侵入者です。数は三名、現在エントランスにてサザンカが交戦中。増援求みます」


「侵入者……」


 たったの三人で侵入……その上増援が欲しいという事はサザンカだけでは負ける可能性があるという事。


「分かった、私達も向かうね」


「了解」


 とはいえ私達プラタナスは戦闘部隊では無い。得意としている事は主に戦闘のサポートや通信機器の操作だ。怖いし一応他の隊に連絡しておこ……えっと一番近いのはっと。


「報告!侵入者の三名の内、一名は東雲桔梗しののめききょうと思われます!繰り返します!


「……れ、恋夢ちゃん行こう」


「はい!」


 恋夢ちゃんに触れ、急いで向かうのだった。




「天馬さん……!」


「……無事だ」


 現場に到着すると天馬さんは既にボロボロで立っているだけでやっとな状態だった。他のサザンカのメンバーは……居ない。副隊長の姿すら見えない、報告と違う。

 改めて侵入者を観察する。一人は二十代そこらの男性、一人は高校生くらいの女子。そしてもう一人は……確かに桔梗ちゃんに見える。


「ひ、久しぶりだね桔梗ちゃん」


「お久しぶりです温森さん。明月隊長に用があって来たんですが留守みたいですね、お騒がせしました」


 さも当然のようにそのまま帰ろうとする桔梗ちゃんに問いかける。


「あの……どうしてほむらさんとこうさんを殺したの?」


「父と母ですか。私は無秩序アナーキーですよ、それに私は二人を憎んでいた、殺した理由はそれだけです」


「ならどうして妹は殺さなかったの?」


「……へえ、生きてたんですね。なら殺し損ねただけです」


 殺し損ねた、確かに死の狭間でアルカナに目覚めたと聞いているが果たして本当にそうなのだろうか。


「今からでも殺しに行くのかな」


「生きていようがいまいが……わざわざ時間を無駄にしてそんなことするつもりは無いですね」


「焔さんと鋼さんは恨んでいたなら妹もそうなんじゃないの?」


「父と母を殺した後、四葉に見られてしまったので始末しようとしただけです」


 私の質問に対し桔梗ちゃんは律儀に答える。何と言うか……おや?。そのタイミングで出入口のシャッターが勢いよく閉まった。


「ご、ごめんね……帰す訳には行かないらしくて」


「こちらは三人、そちらは手負いの天馬さんとプラタナス二人。こちらが退くと言っているのですが」


「これでも隊長だから……ってあ、れ」


「そうですか、ならもういいです」


「えぇ!?殺しちゃうの?」


 これまで静観していた侵入者の女子の驚いた声が聞こえた所でもう一人の私に意識が戻った。






「う、気持ち悪い。お腹切られたの初めて……」


「……っ、申し訳ありません隊長、何も出来ませんでした」


 恋夢ちゃんも戻ってきたようで早々に謝罪された。


「大丈夫だよ、落ち込まないで分身なんだから」


 私のアルカナ『分身』は自分を含め触れる事が出来れば人や物を分身させる事が出来る。分身体はもう一人の自分として自立し目的を果たしに行く。ちなみに耐久力はあまり無い。

 侵入者の通信が入ったタイミングで私と恋夢ちゃんは分身を現場に向かわせ、本体はコンピュータールームに向かっていたというわけだ。


「それでサザンカの副隊長はどうして子供二人と一緒に隠れてるの?」


 侵入された現場のカメラを指差しながらコンピュータールームの指揮をとっていた部下に問う。エントランスの受付下その三人で隠れていた……全然気配感じなかったけど。


「数日くらい前からインターンシップでサザンカに来ていた才華学園の一年生達です。えっと名前は……三門怜美と蘭隼人。天馬さん達と本部に来ていたみたいでタイミング悪くその場に居合わせた様ですね」


「なら危ないんじゃ……!」


「あー……恋夢ちゃんどうやらもう大丈夫みたいだよ、ほら」


 恋夢ちゃんはカメラを見て一息ついた後、巻き込まれたりしなきゃいいですけどと呟いた。


「サザンカの副隊長も一緒に居るし見つかっても居ないみたいだから大丈夫だと思うけど……私達でサポートしよう。とりあえず一息つけるね、皆お疲れ様です」


「ちょっと!まだ戦ってる最中ですけど!あんたらも今夜の飲み会の話するな!」


 プラタナスの皆の声を聞きながらカメラを見つめる。私達の出番……あればいいけど。






「あ、そういえば桔梗さん言ってたね。この人の『分身』か」


「……」


 刀を構える体制を崩さず周りを観察する。確かに分身だった、だがそれだけだ。状況は余り変わらず天馬さんは既に限界に近い状態でこの場に残っている。しかし温森さんは感情だけで無駄に死人を出す様な人じゃない、何か考えがある筈だ。


「くぁ……なぁ桔梗もう帰ろうぜ」


「なるほど、そういう事か」


 聞き覚えのある音が聴こえた。


「なんだよ急に」


「二人とも死にたくないなら真面目に構えてた方いいよ」


「あ……?」


「"韋駄天イダテン"」


​───────紫​雷が私に向かって駆け抜けた。


「……昔より速くなったね、聡美」


「あんたは昔より遅くなったわね……桔梗!!」

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四葉のクローバー アマオト @Colagumi

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