第14話その溺愛ぶりは怖い
一人の男性が森の道を馬に乗って突き進んでいた。使命を受け、急いで突き進む。
目的地向かってひたすら駆けていく。
その頃、シルヴィアは道のないところから無事に森の道にたどり着く。道に出ようとガサガサと木々の間から姿を見せようとしたその時、どこからか蹄の音が聞こえてきた。
物凄い勢いで馬がやってくる。
馬に人が乗ってることに気付いたシルヴィアが上に視線を向ける。一方、馬上の人も、木々の間の人の気配に気付き、通りすがりに視線を向ける。
「「ん?」」
視線が合うその流れはお互いカシャ、カシャとまるでコマ送りのような一瞬だった。
そのまま勢いよく馬は走り去っていった。
「あ・・・声かければよかった。」
シルヴィアが見送りながら呟き、道に入る。
歩き始めると再び蹄の音が聞こえてきた。さっきよりもさらに激しい音が。シルヴィアの進行方向から物凄い勢いで馬がやってくる。
「ひぇぇっ!」
シルヴィアが慌てて道の隅へ移動する。
「シルヴィアお嬢様ですよね?!お嬢様ぁぁ!!!」
森に声が響き渡った。
*
伝達に向かったはずの者がシルヴィアを馬に乗せて戻ってきたことにクラーク公爵家は驚きつつも無事だったことに喜んだ。
喜んだが、シルヴィアの姿に別の意味で驚いていた。
それに関しては話に触れてはいけない気がしてメイド達は話題に触れず。
だが、オリヴァーは突っ込んだ。
「ねぇ、シルヴィア。その肩に掛けてるのは・・・。」
「あ、これ?ロープの代替になる丈夫な植物のつるなの。森で何かあった時使えそうだからナイフで切って丸めてくくってあるの。下手に丈夫たからナイフで切るのに時間かかったわ。」
「う、うん。そのつるは僕も知ってはいるけど。学園の野外の訓練で学んだし。
で、その服はどうして?
確か出かける時は薄いブルーをベースにしたワンピースだった気がするのだけど?」
「草の汁で色をつけました。よくわからないけれど私、薬で眠らされたみたいで気付いたら森だったの。しかも道から外れた変なところ。森の中で明るめの色は目立つでしょう?私を森に転がしていった犯人がもしまだ近くにいたとしたら、動いたのバレちゃう。だから服に綠色の部分を増やさないとって思いまして。」
シルヴィアのワンピースは緑と微かに残るブルーのグラデーション模様と迷彩柄を割った感じになっていた。これがファッションショーなら貴族的に斬新な色付け。もしくは奇抜な色付け。
オリヴァーはお祖母様の野営指導の中身を垣間見たような気がした。
そこへ公爵夫婦とイーサンが玄関に駆けつける。
イーサンはそんな姿のシルヴィアに迷わず近寄りハグをする。
「お帰り、シルヴィア。無事で何より。」
「イーサン兄様ご心配おかけしました。申し訳ございません。そして離してください。兄様の服が綠色に汚れてしまいます。」
「やだな、シルヴィア。汚れるくらい別にいいよ。ハグして無事を確かめるほうが大事。」
その割には力を込めているのがわかり、公爵の頭に血がのぼる。
「殿下!絶対無事の確認だけのハグではないですよね?それー!」
「落ち着いて父上!」
オリヴァーが公爵を後ろから羽交い締めにする。
夫人は半分諦めた様子でそれを見つめる。
「お父様、お母様、お兄様、それに皆様。ご心配おかけしました。」
シルヴィアはイーサンから何とか離れていて改めて全員に挨拶をする。
「・・・それよりも殿下。私、少しお聞きしたい事があるのですが。」
公爵夫人がイーサンに声をかける。
「どうぞ。公爵夫人。」
「殿下はシルヴィアの事を聞いたとき、あまり焦っていない気がしたのは気のせいですか?」
「ああ。心配は心配だったよ。でも、エスコートの後から僕も対策を少しずつしていたからね。」
「対策?」
「街の人達数名にお触れを出しておいたのさ。公爵家に関して怪しい動きをしてるやつや、街で見かけない人物で挙動不審な者がいたら、どんな些細な事でもいいから教えるようにって。どんなくだらない事でもいいからって。もちろんお礼も伝えたよ。で、人から人へお触れが耳に入るようにしていた。」
「あれ、もしかして最近殿下が忙しそうによく城下へ行っていたのは・・・。」
「うん。情報くれた人の希望を叶えられる範囲のものなら対応していた。店のテラスで店長とその店のメニュー食べたり、子供と一緒に遊んでほしいと言われた時は公園で一緒に遊んだり。いらない情報も多かったけど、王子と一緒に何かしたというのが皆嬉しかったらしい。」
「城のものではなく、一般国民に自分というエサで釣って情報得ていたということですか?情報屋使わず。」
「不自然に動くよりはメリットが自分にも国民にもあるでしょう?シルヴィアのためなら一緒にドブ掃除だってするよ?」
「・・ドブ掃除したんですか?」
「したけど?何で?」
全員絶句。
「でも、流石に行方不明かもってのは心配したよ。変なのが動いてるとは聞いていたけど。でも、森の方面で変なのが数日前からうろついていたという情報もあったし、その変なのが大した事ができない者というところまでは掴んでいたから。そうしたらシルヴィアの姿がないって話だったから焦った。」
シルヴィアのためだけに動くその溺愛ぶりは喜ぶべきなのか恐れるべきなのか、夫人は頭が痛くなった。
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