④-2

朝、瞼を開ける。

ベッドの上は居心地がいいから目覚めを遅れさせようとしてくる。だけど、その時間が最近は無駄になってしまうと思う。後少しの命なんてありきたりな台詞回しだが、わたしにはもう日数がない。


手を広げて裏をみると血管が浮き出て、どことなく肌の色が白くなった気がする。浮き出たそれをみていると、2日前のあの窪んだ気色の悪い目を思い出した。あれは一体何だったんだろう。理解不能なことで、床に倒れ込んだことは現実だったのか夢だったのかと聞かれると、夢としか思えない事柄だった。


現実だったら困る。

どこにいって診察をして貰えばいいかわからない。

誰かに話したら精神内科を勧められるような可笑しな話だ。


わたしの命が終わっても、世界の時計が止まるわけじゃない。だからわたしも、自分の時計が止まるまでは止まることはできない。


いつも通り起き上がり、支度をして家を出た。


進行していくわたしの病状と行き慣れた道。

いつも通り歩けて、景色を見れて、電車にも乗れて、どこも悪いところを感じない。


定期的に変わる車内のポスターに絵本のようなタッチの新幹線が描かれていた。


"誰かの大切な人を運んでいます。"


わたしも、誰かの、大切な人。


「あほか」


左耳に聞こえてきた声に背筋が凍る。

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