一章 ハロウィンの楽しみ方とは

開祭七日前① ハロウィンは爆発だ!

 ある夜のハロウィン開始直後、ハロウィンタウン北西の広場でのこと。


 最初に大きな爆発があった。


 その後もひたすらに爆発があった。


 爆発、爆発、爆発。


 やられている側からしたら頭がおかしくなるような爆発の連続だった。


 爆発によって一人、また一人と先程まで合わせて十四人もいた飴の骸骨キャンディスケルトン林檎の人狼アップルウェアウルフの参加者が次々とやられていく。


 そして、残ったのはそれぞれ一人だけだった。


 その内の一人である飴の骸骨キャンディスケルトンの青年が物陰に隠れながらこの惨状についてぼやいていた。


「————なんなんだよ、あいつ。ふざけやがって、頭おかしいんじゃねえのか」


 彼と彼の部隊はこの襲撃を今までに何回も受けていた。


 さすがにうんざりしているのか精神的に限界が来てそうな表情をしている。


 今にも発狂しそうな感じだ。


「よっ、まだ生きてたか」


「ああなんだ、お前か」


 なかなかに追い詰められた状況の中、生き残っていた残りの一人である林檎の人狼アップルウェアウルフの青年がいつの間にか近くの物陰までやってきていた。


 元々対戦相手同士ではある二人だが、さすがにこんな状況で戦い始める訳もいかない。


 よって今すべきことを二人とも理解し、即座に答えを出した。


「なあ、さすがにこのままじゃやばいよな」


「ああ動かなきゃジリ貧、動いても打開手段が無くて埒が開かない。詰み一歩手前ってとこだな」


「そうだな。ところで相談なんだが、少しでも勝率を上げる為に俺と組まないか?」


 少し間を置いた後、飴の骸骨キャンディスケルトンの青年が嬉しそうに応えた。


「ふっ、分かった組んでやるよ。足引っ張んなよ」


「そっちこそな」


 呉越同舟、好敵手ライバル的な友情を感じさせるやり取りをしている二人を傍目に観察している存在がいた。


 そうこの存在こそ、件の爆発の首謀者である黄色く発光した目と口を持つカボチャ頭の青年——ジャックだったのだ。


 二人は極限の状況においての話し合いによってテンションが変に上がってしまっていた。


 そのせいで気づかなかったのだろう。


 ジャックが既に爆発させるのを止め、二人の位置を把握していたことに——。


 勢いそのまま飛び出した時にはもう遅い。


 ジャックは未だ場に残る煙の中を突っ切り二人に肉薄する。


「行くぞ、遅れるなよ!」


「ああ、分かってる。迎え撃つぞ!」


 虚をつかれた二人は急接近してきたジャックに対し、何とか迎撃を行おうとした。


 そんな二人へ爆弾を両手に持ち突っ込むジャック。


 だが二人はそれを読んでいたのか、真正面から爆弾ごとジャックを、実は先程から装備していた飴の槍と林檎の爪で切り裂こうと動き出す。


「「食らえ! 爆発魔!」」


 言いながら一切の迷いなく二人は渾身の一撃を繰り出した。


 がしかしジャックはその攻撃を宙返りで難なく避けながら、手に持っていた爆弾を空中に置き去りにした。


 そして二人の背後に回ったその瞬間、ジャックは指を鳴らし、宙に放られたままの爆弾を起爆させたのだった。


 爆発の間際、二人は最小限のダメージに抑えるべく体を縮め、顔などの急所を守るように腕で覆った。


 ところがジャックはそこまで甘くはなかった。爆発自体は甘かったが。


 爆発と同時に爆弾の中から飛び出したのは粘着性の強いガムだった。


 二人はたちまち綺麗に拘束されてしまった。


「おい! なんだこれ!」


「くそ! 取れないな!」


 ガムの中で踠く二人を前にジャックはただ悠然と立っていた。なに一つ表情が変わらないパンプキンフェイスのまま、お菓子武器も何も持たずに。


 そんな余裕の態度が二人の怒りを爆発させた。


「なんなんだ、あんたは! 俺たちをコケにしやがって!」


「そうだ! 種族の繁栄という責務もないあんたと違ってこっちは真剣なんだ。ただの遊びがしたいなら余所でやってくれ!」


 二人にがすごい剣幕で捲したてる中、ジャックは淡々と言葉を返した。


「俺はただ……本当のハロウィンとは何かを教えてやろうとしているだけだ」


 呆れた様子になりながらジャックはそのまま話を続けた。


「それにしても種族の中でも部隊を任されるほど優秀だと言われているお前らも、族長がいなければこんなものか」


「なんだと!。族長と戦いもしないお前に言われる筋合いはない!」


「そうだ! いくらあんたと言えど族長には勝てない!」


「はあ……。言いたいことはそれだけか? じゃあ、これで終わりだ」


 ジャックは話を切り上げると虚空から大きなカボチャ爆弾を取り出した。


「なっ、どこから⁉︎」


「どうやって⁉︎」


 ジャックは二人の反応など無関心で悠々と爆弾の上に腰を下ろした。


「おい、まさか」


「う、嘘だろ」


 今までのより大きな爆弾を見て二人は青ざめた顔をした。


 それ程までに爆弾を脅威だと感じているのだろう。


 拘束を取ろうと必死で足掻くも一向に自由にはなれない。


 二人の抵抗虚しくその時が来てしまう。


「「やめろ‼︎」」


 泣きそうな顔で叫び、訴えかける二人を余所に、ジャックはこれ見よがしに手を前に突き出した。


 そして顔色一つ変えずに、静かに、指を鳴らし爆弾を起爆させた。


 もはや音も置き去りにした爆発は広範囲に及び、周辺の建物諸共全てが跡形も無く吹き飛んでいく。


 但し、原形を保ち空を舞うジャックという例外を除いて、だが。

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ハッピーハローウィーン!!!〜毎日がハロウィンな世界でトリックアンドトリート〜 真田遼一朗 @rei_zero_0

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