雨の日 幸せを見つけた日
海海刻鈴音
第1話
なんてこともない、ありふれた日常の中で、人は時折、不思議な出会いに巡り会う。
彼女は、美しかった。強く、優しく、何よりも素敵だった。
ただ一人、ふらりとやってきて、のんびり楽しく暮らして、幸せに死んでいった。
僕は、そんな彼女を愛していた。
ふとした時、今でも彼女を思い出す。死神に取り憑かれた、隻腕の彼女を。
出会いの日は、雨だった。
いつもと同じ帰り道、傘を忘れて、ずぶ濡れになりながら歩いていた時、自転車にぶつかられて、転んでしまった。
過ぎ去る自転車の主は、雨の中傘を差し、イヤホンで通話していた。
ため息を雨に溶かしながら立ち上がろうとした時、
「大丈夫ですか?」
と、私に傘を差し出してくれる人がいた。
顔を上げた時、そこにいたのはゆったりしたカーディガンを着た、綺麗な女性……いや、二つ、気になることがあった。
彼女の左腕は、肩の辺りから無く、ぷらぷらと袖が垂れ下がっていた。
そして、彼女の背中には、死神の持つような、大きな鎌を持った少女が立っていた。パッと見だとわからないが、高校生でも、社会人でも通りそうな、年齢の分からない人だった。
「ふふっ、雨の日は暗くて、気分もどんよりしちゃいますからね。私も、靴の中がひしゃひしゃでとっても気持ちが悪くて……」
「はぁ……どうも、すいません」
いえいえと笑う彼女は、私が立ち上がったあと、そのまま同じ傘に自分を押し込み、
「この先に、コンビニがありますから。そこまでご一緒させてください」
くるりと踵を返し、二人並んで歩き出す。ちらりと後ろを見ると、先程の少女も静かに着いてきて……私の背に、あの鎌を刺してきた。
「っ……?」
けど、痛みは無い。周りの人間も、気づいていない。
なんだ、何がしたいんだ? それに、この少女を見ているのは私だけ……幻覚なのか?
私は少しの不気味さと、こんな少女を連れた女を信頼してもいいのかと、僅かに懸念が生まれてしまった。
が、コンビニまでの道中は、まったくの無言で。私が傘を買い終えると、彼女は
「私、結ぶと書いてゆいって言います。それでは、お気をつけて帰ってくださいね」
ぺこりと頭を下げて、結と名乗った彼女は雑踏へ消えていった。これから暗くなる、人の多い街の帰宅時間。一人きりで帰して本当にいいのか? と、らしくもない親切心が芽生えて、
「あの、結さん。危ないので、送りましょうか?」
と、声をかけてしまった。そしたら、彼女ははっと笑顔になって、
「それじゃあ、お言葉に甘えてもいいですか? 私、実は迷子だったんです!」
……と、衝撃の告白をされた。
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