第3話

3話


「この外道め! 貴様は王国法に基づき、公開処刑とする! 悪魔め……魔女め!」


目の前の王子が喚き散らす。唾がとんでくるからやめてくれ。


「貴様のせいで聖女が……私の婚約者が……!」


いや、あれはお前のせいだろう。俺はお前を助けたんだぞ。聖女とやらは間に合わんかったが。


「殺してやる……絶対に殺してやる……!!」


あーあ、助けなきゃよかった。聖女のほうを助ければよかった。

お前が馬から落としたんだろう。下手くそな癖にイキリやがって。クソが。

しかし、処刑は困る。抵抗してもいいが、そうすると城を潰すことになりかねない。パパに相談するか。


「ふむ。なら私が話をつけよう。なぁに、どうにでもなるさ。まっててくれ、フェーレ」


さすがパパ。頼りになる。


「すまない、フェーレ。これは、あの王子の癇癪では済まない事態だった。クソ、もっとはやく根回しが出来ていれば……」


ごめん、パパ。権力闘争のネタにされちゃったんだね。

下手な事をすると、パパに、家族に迷惑をかける。

これは、処刑されるしか。


「なんとか、なんとか命はもぎ取れた。だが、国境へ追放だそうだ。……すまない。だが、まだなんとかなる。なんとかしてみせる」


大丈夫だよ、パパ。俺、強いから。

追放されても、死にはしない。


「他の罪人の輸送馬車といれかえさせ、追放先を我が領土の端の国境にする。そこで数日は身を潜めてくれ。少ししたら、物資の輸送をする。メイドや兵士も送る。……フェーレはここには帰ってこれないが、私は何かしらの名目でそちらに向かえるはずだ。必ず、不自由なく生きられるようにする」


ありがとう。無理はしないでね。私のことを大事にしてくれているのはわかるけど、貴方には他にも家族がいる。そっちも大事にしてくれよな。


「バレなきゃいいんだ。どうとでもなる。最悪、ダメだったら……私は、国を潰すのも厭わない」


ふふ、怖いよパパ。家族想いなのはわかるけど。


「フェーレ、俺も時間が空けば会いに行く。どうか、絶対に無理はするな。お前はすぐに無理をして、俺たちを心配させる」


おにい。おにいも、いつも無理してるでしょ。家族のために、必死に稽古して、必死に勉強して。パパの助けになれるように。母にもっと楽をさせられるようにって。


「フェーレ。無事で」


ママ。貴女の心の強さに支えられて、俺はここまで育ちました。貴女の子として恥じないように、胸を張って生きます。


「大丈夫よ、パパ。ママ。おにい。私は、強いのよ?」


だって俺は、元勇者だから。

世界を救える程度には、なんでも出来るんだぜ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る