小康

小狸・飯島西諺

短編

 ほのかに金木犀のかおりのする、秋口の話である。


 久方ぶりに風邪をこじらせたので、仕事を休み、家で寝ることとした。


 コロナもインフルも流行している、消毒等、気を付けているつもりだった。


 恐らく季節の変わり目というのも遠因にあるのだろう。


 今年は残暑が長く、そして秋口に入ったものの、急に寒くなる日が続いた。


 その所為せいだろう――と、適当に何かの所為にして、半日寝て過ごした。


 朝は38度の熱が出、コロナかと疑ったけれど、強い喉の痛みなどがあった訳でもなかった。


 昼にかけては寝苦しかったけれど、それを乗り越えてしまえば、熱は下がった。解熱剤の効果があったのだろう。


 買い溜めてあるポカリスエットを少し口に含んだ。舌に触れた瞬間、一瞬ほろ苦いが、その後に強烈な甘さが広がる、不思議な飲料である。


 ふと、寝苦しかった朝のことを思い返した。


 私は夢を見ていた。


 高熱の時にいつも見る夢であった。


 静謐せいひつとした砂漠に、突如として地響きが聴こえてくる。そこに大量の歯車、パイプなどの機械部品が押し寄せて、砂嵐よりも早く、強く、浸蝕しんしょくしてゆき、人々はそれを礼賛して拍手喝采かっさいを送る。歯車の中枢、砂漠の黄土おうど色の砂が唯一残っている部分には、絢爛けんらん豪華で純白の、装飾が数多あまたきらめく衣装をした澄ました女性が1人、さながらバレエ音楽のパダクションを踊るバレリーナのように、くるくると回転を続けている。


 そんな夢である。


 それを見る時の私の視座は、押し寄せる機械群に茶々無茶にされる砂塵の一粒となる。


 しかしそれをどこか他人事のように、眺めている。


 決まって目が覚めた頃には、滝のような大汗をかいているのだ。

 

 今日も同様であった。

 

 目覚めた私は、シャワーを浴びて、別の清潔な服に着替えた。

 

 時折思う。

 

 あの夢は一体、何なのだろうか。夢にあらゆる意味を見出すのは、誰だったか。

 

 ユングか、フロイトか。

 

 まあ。

 

 その程度の知識では分析しきれないものなのだろうなと思う。

 

 こんさとし監督による、筒井つつい康隆やすたか原作の『パプリカ』を思い出した。

 

 あれは――自分の中では忘れられない作品である。

 

 そんなことをつらつらと綴っていたら、腹が減っていることに気付いた。

 

 うどんを作ることにした。

 

 冷凍うどんなので、レンジでチンするだけで出来る。

 

 便利な時代になったものである。

 

 若干、便利になり過ぎている傾向も見受けられるけれど。

 

 機械の方が人間より先に行く――AIが人間の仕事を奪う、などと言われている昨今ではある。その内機械が人間の怠慢を指摘する時代も、来るのかもしれない。

 

 回転する電子レンジの皿を、ぼうと眺めながら、そんなことを思った。

 

 解凍が終わったので、取り出した。

 

 小皿に出汁の原液を少しだけ滴らせ、それに水道水を混ぜて嵩増した。

 

 食事の前に、熱を測ろうと思って、立ち上がった。

 

 その時。


 ふと。

 

 皿の上でとぐろを巻く麺が、夢に出てきた歯車に見えた気がして。

 

 慌てて目をこすった。

 

 皿には、白い麺が湯気を立てて乗っていた。

 

 食べ終えたらもう少し寝ようと、私は思った。




(「小康しょうこう」――了)

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