29 プリン(伊織&瞬)

 今度という今度は許さない。僕は口酸っぱく言っていた。僕が買ってきたお菓子には勝手に手をつけないで欲しいと。

 それなのに、兄はプリンを食べた。焦がしキャラメルのやつで、それなりに高かったのだ。コンビニで最後の一個だった。


「なぁ瞬、機嫌直してくれよぉ……」


 しばらくは一緒に寝てやらない。僕はソファにうつ伏せに寝転がっていた。もうこのまま寝る。


「買い直そうと思ってコンビニ行ったんだけど無かったんだよ。代わりにアイス買ってきたけど」

「僕が食べたかったのはあのプリンなの」


 お風呂あがりに食べようと思って冷蔵庫を覗いて愕然としたのだ。ゴミ箱を確認したときの僕のショックといったら。兄にはしっかりと反省してもらう。


「瞬、何かしてほしいことはあるか? 肩でも揉もうか?」

「いらない」


 顔を伏せているから兄の表情はわからないが、必死なのは伝わってきた。


「……だってさぁ、美味しそうだったんだもん」


 開き直りか。いくら可愛く言われたところでほだされないぞ。


「なぁなぁ、今夜はたっぷりいじってやるから」


 そう言って僕のズボンをおろそうとしてきたので、足で蹴った。


「ぐえっ」

「やめてよね」


 その手は通用しない。通用させない。兄は一体僕を何だと思っているんだ。そうして、僕がソファで寝続けた日々は五日目を迎えた。


「瞬ー! もう無理。我慢できない。謝るからさぁ。しよう? なっ、しよう?」


 洗面所で歯磨きをしている時に後ろから抱きつかれた。僕は口をゆすいだ。そろそろ許してやろうかという気になっていた。ソファで寝るのも身体が痛くなってきたし。


「……もうしない?」

「うん、しない。勝手に食べない。マジで悪かった」


 僕は兄にキスをした。いつも通りにしたつもりなのだが、しびれるような快感が身体を突き抜けた。


「……んあっ」


 どうしたんだろう。声も出てしまう。


「久しぶりだもんなぁ……?」


 兄は僕の耳を噛んだ。


「ふぁっ……」

「可愛い。敏感になってる」


 そのまま耳を攻められ、僕は腰が砕けそうになった。兄にすがりつき、喘ぎ声を出した。


「耳だけでいっちゃう……?」

「やだっ……」


 まずい。また兄のペースだ。結局僕はこうなるのか。兄は僕を壁際に追い詰め、手を壁について逃げられなくした後、なおも耳をいじってきた。


「やめてよぉ……」

「身体はしっかり反応してるぞ。ほら」


 胯間に手をあてられ、否が応でもそれを確かめさせられた。


「兄さん反省したからさぁ。精一杯尽くしてやるよ」


 ニタリと笑う兄。これのどこが反省している表情なのだろう。けれど、押し寄せる快感の波に抗えない自分がいた。

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