23 終電逃した(至&悟)

 終電逃した。弟のさとるから、またいつもの連絡だ。あいつは大学生になってから、しょっちゅうサークルの飲み会に参加するようになった。そして酔いつぶれてくるのだ。

 俺は車を走らせた。片道三十分くらいの距離だ。暖房をガンガンにつけておいた。今ごろ駅前のベンチで待っている悟は凍えているだろう。

 ロータリーに車を停めると、黒いダウンジャケットを羽織った悟が小走りで近付いてきた。


「ありがとう、兄貴」


 今夜は比較的しっかりしている。それでも、酒とタバコの匂いをこれでもかと振り撒いている。助手席に座った悟がシートベルトをつけるのを確かめて、俺は車を発進させた。


「悟、水飲むか。コンビニ寄ろうか」

「そうして」


 俺はいつものコンビニに駐車させた。悟を残し、ペットボトルのミネラルウォーターを買った。戻ってくると、悟の目はとろんとしていた。


「おい、買ってきたぞ」

「飲ませて」

「……おう」


 フタを開けて、俺は自分の口の中に水を含み、悟に口移しで与えた。


「……んっ」

「もういいか」

「もっと」


 悟にせがまれるまま、同じことを繰り返した。やがて舌が絡みあい、もつれ、俺たちの呼吸は荒くなった。


「兄貴……もういいよ」

「うん」


 こんなことをもう半年くらい続けている。それ以上はしない。普段は話題に出すこともない。

 最初は悟からだった。同じように、迎えに行って帰る途中で、俺に覆い被さってきたのである。酔った勢いだな、忘れてしまえと思っていたのに、悟は何度も求めてきた。


「悟。俺とこんなことばっかりしてたら、一生彼女できなくなるぞ」

「それでもいいよ」


 言葉で確かめてしまいたい。悟がその気なら、もっと先に進んでもいいのだ。けれど、勇気が出なかった。今の関係を壊したくなかった。


「じゃあ、行くぞ」


 悟は目を閉じ、ゆっくりと頷いた。それから俺たちは一言も喋らず、家に着いた。

 俺はベッドに入り、下着をおろした。唇には悟の感触が残っていた。それを噛みながら、俺はそっと自慰をした。声を漏らさないよう、必死になって。

 いつか、俺の迎えが必要なくなったら。悟はあっさりと結婚でもしてしまうのだろうか。執着なんてしない方がいい。俺たちは兄弟だ。元々水よりも濃い絆で結ばれている。これ以上を望むなんて、過ぎた願いだ。

 それでも、手を動かすのがやめられなかった。ふつふつと沸いた欲望はこれでしか静められなかった。


「悟っ……」


 我慢できずに名前を呼んでしまった。だが、シャワーを浴びている悟には聞こえていないだろう。俺は素早くティッシュを取り、吐き出した。

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