第41話 イルロンドの奇策
破壊された修道院にて———。
バハムとアテナイの激闘が繰り広げられていて、その周囲の物体は余波に巻き込まれて崩れていく。
「はあああああああああああああああああ!」
「アハッ、アハッ! アハハハハ!」
だが———、
「う……!」
戦いにはアテナイの方に分があり、バハムが片膝をつく。
「もうボロボロですねぇ、竜の人。所詮は魔族は神には敵わないんですよォ」
「……おい、神よ」
「はいぃ?」
余裕を見せてにこやかに笑うアテナイに対して、バハムは精一杯の虚勢に満ちた笑顔を作る。
「お主はボキャブラリーがないな。何か優勢になるたびに〝敵わないんですよぉ〟とか言って攻撃の手を止める。すぐに仕留めずに獲物を前に舌なめずり」
「……当然じゃないですか。あなたと私には大きな力の差があるんですから。そうやっていたぶって遊ばないと、もったいないじゃないですか? 滅多にこんな魔族を虐める時間なんてないんですから」
アテナイの笑顔が、引きつった。
「そうやって余裕ぶって虐めているにしてはやっていることが同じセリフのワンパターン。やり慣れていないのがまるわかり。あまり経験がないのか? あまり他者と触れあったこともないのだろう?」
「…………」
アテナイの眉間にしわがよる。
明らかに笑顔から怒りの表情へと切り替わっていた。
「神よ。お主、友達いないだろ?」
「———もう結構」
アテナイが槍をバハムの腹に突き刺す。
「ぐあああああああああああああああああ‼」
「あなたは遊び飽きました。そのまま死にな、」
さい」———とアテナイが言葉を続けようと、そのままバハムの腹を貫こうとした時だった。
「アテナイ‼」
横から声と、何やら飛来物が飛んできた。
「————⁉」
アテナイはバッとその飛来物へと迎撃態勢をとり、そのためにバハムの腹から槍を抜き、
ザン……ッ!
飛んできたものを切り裂いた。
瞬間————アテナイの周囲は
「バハム! 来い!」
「グ……ッ! うぅ……!」
バハムは腹に大穴を開けられつつも、その声に導かれるように転がり逃げて、アテナイから距離を取る。
「何です? この白い
アテナイの周囲は、彼女が言うように真っ白な粉に包まれている。
彼女が切り裂いた飛来物———袋から出たものだ。
「小麦粉だよ!」
「小麦粉……? その声はイルロンド君?」
「ああ! 修道院でビールを作っているって聞いたからな! ビールの材料は小麦! それで同じ小麦からできるパンを作るために小麦を粉にもしてるだろうと思ったら備後だったよ!」
やはり、思った通りに修道院には厨房棟があり、大釜や大臼に紛れて小麦粉が入っている袋が置いてあった。
十キロほどの重さの袋でもってくるのにかなり苦労したが、それぐらいの
アテナイを包み込むほどの粉塵は巻き起こらない。
「小麦を撒きましたか……へぇ? で、だからどうだと言うんです?」
その女神の言葉に対して、見えもしないのに不敵に笑う。
「確かに! お前に直接【魔眼】の力は効かない。金属の光沢のある鎧や盾に反射されてしまうからな! だけど、反射した先に物質があったとしたら? その物質とお前自身がっ接触していたとしたら⁉」
「……なるほど」
「バハム! 火球を吐いてあの小麦粉の粉塵を火の圧力で密閉してくれ!」
「………ゥゥ、了解!
バハムは傷をで痛む腹を押して、何とか火球を放出し、白い粉塵の表面を焼く。
ボッとアテナイを包む小麦粉の粉塵は炎に包まれて、大きな燃える火球となってその場にとどまり続ける。
「これが何だと言うのです?」
そう言って、アテナイが槍を振った時だった。
ぶわっとその軌道に沿って小麦粉の粉が———炎を纏う粉塵が一瞬の晴れ間を見せる。
アテナイの姿が見える。
そのわずかな粉塵の隙間———、
「———【魔眼】よ!」
「……ハッ!」
アテナイは馬鹿にした顔をして、鏡の盾———〝アイギスの盾〟を前に構える。鏡面を俺の方に向けて、力を反射しようとしているのだろうが。
口角が———あがる。
燃えた小麦粉の煙が、揺らぐ。
揺らいで視界からアテナイの存在を隠しかける———。
【
目の前に【魔眼】特有のメッセージが表示され、破壊の力が粉塵の隙間をぬうようにアテナイの元へと届き———、小麦粉の煙がその〝破壊の力が通った軌道〟を塞ぐ。
密閉する。
アテナイを。
アテナイと小麦の粉塵を、炎と熱によってできた内向きの気流が塞ぐ。
そして———〝アイギスの盾〟により反射された【魔眼】のエネルギーは熱と空間の圧縮により不安定化し、〝炎〟を生む。
そして外側からの圧力は、内側で発生する光の熱エネルギーを逃がさず、何百倍にも増幅させる————、
「———粉塵爆発って知ってるか⁉」
瞬間———アテナイを中心に大爆発が起きた。
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