第28話 悪の皇帝として頑張って振舞おうと決意した。
「む、ぐぐぐ……うぅぅ……!」
ドンドンドン……!
バハムが必死に俺の背中を叩く。
唇を奪われたままの状態で。
「ムゥ……! プハッ! 何をする! 偽物!」
バハムがキッと抗議の眼を向ける。それに対して俺は———、
「黙れ。バハム・スライバーン!」
「————ッ!」
俺ができる限りの強い口調でバハムを脅したら、彼女はびくっと身を竦ませた。
「俺は偽物ではない! 正真正銘のイルロンド・カイマインドだ。聖女を仲間に入れたのは、神に支配された公国を妥当し、いち早くこの世界を平和な世の中にするためだ!」
「嘘だ! じゃあ今までのあの言動はなんだったんだ!」
「あれは聖女をこちら側につきやすくするためにあえてだ! あえて親しみやすい口調にしたのだ! 結果として強力な戦力となる聖女が味方に入り———結果として最善の状況になっている」
「最善……イルロンド様まで……我が竜
ジワリとバハムの眼に涙が溜まる。
そういう表情をされると俺も心苦しくはなる。
現に外には処刑されたリザード兵の死体が晒されている。彼女の部下たちだ。
「犠牲があったのは痛ましい事だ。絶対にあってはならないことだった。だけどもう起きてしまった。失われてしまった。なら彼らのために、一刻も早く我がガルシア帝国に勝利をもたらすべきではないのか?」
「う……うぅ……うわああああああああああああああ‼」
バハムは、泣き始めた。
部下の犠牲を受け入れ、泣いたのだ。
そうして泣き続けているとやがて、フッと糸が切れた様に体が前に傾く。
その身体を抱き留めてやり、【魔眼】を使って彼女のステータスを確認する。
【バハム・スライバーン HP:15676(↓DOWN) 状態:やけど 対処法:マンドラゴラの軟膏を患部へ塗る】
バハムのHPに表示されている数字が、みるみると減っていた。
表記されている数字が15675、15674、と一秒経つにつれて一桁の数字が減っていく。
「まずい……これゼロになると死ぬってことじゃないか……⁉ マズい、早く治療しないと! 薬、薬はどこだよ……‼ クソ、ご丁寧にDOWNなんて表記までしやがって……!」
慌てながらも、部屋の棚の引き出しを開けたり、家具の隙間をのぞき込んだりして、何かがないかを探すが、薬らしいものはでてこない。
あいにくと現時刻は夜。
薬屋も開いていないだろうし、そもそもこのサルガッソと言う城塞都市に薬屋があるかすら怪しかった。
このままでは……朝を迎える前にバハムが死んでしまう!
そう思った時だった。
ポイッと俺の手元に、小さな瓶が投げ込まれた。
「え?」
「それを使って」
イリアだ。
フードを被った聖女イリアが現れ、無表情に視線を下に向けたまま言う。
「知り合いの家から持ってきた、庶民が使うような薬草クリームだから効き目は薄いだろうけど、ないよりはましでしょ?」
「い、いいのか? バハムとは喧嘩をしていたじゃないか……」
「その程度で死にかけている
あくまで視線を床に向けたまま。いかにも不本意ですという態度でイリアは言うが、それでも助けてくれるのはありがたい。
「ありがとう、イリア。その知り合いの家に泊まりに行くって言ってたのに、わざわざ引き返してくれて……」
窓の外の暗い夜空を見上げながら、俺はバハムの右腹に軟膏を塗っていく。
「ウ……!」
【バハム・スライバーン HP:15555 状態:やけど 対処法:マンドラゴラの軟膏を患部へ塗る】
少し呻いたバハムだったが、【魔眼】でステータスを見ると彼女のHPの現象は収まっていてホッとする。
「だけど、これで十分じゃない。やっぱり彼女を治療するにはマンドラゴラの軟膏が必要」
ぼそっと聖女が言う。
「……それは何処にあるんだ?」
そう言うと言うことは、心当たりがあるんだろうと彼女を見る。
彼女はゆっくりと視線を俺に合わせ、
「修道院」
と———言った。
「修道院……」
とは神に仕える人間が、神に祈る場所。
つまりは———敵の本拠地と言う事だ。
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