霧島すずはルールを守る
「ダムが、開きまーす」
「当たらなければ意味ないぞ、サダヲ!」
あたしが牛の首を要石の上に押し倒すのと、サダヲが地下でなにやら叫んだのは同時だった。
外にいるオカルト女の引いた魔術回路とやらが、設計図どおりに動いてくれれば。
膨大な魔力の濁流が──一瞬の間をおいて、突き上げてきた!
間欠泉のごとく吹き上がるエネルギーを心臓の一点に受け止めて、そのあまりの圧力に、彼を押しつけていたあたしの身体までが浮き上がる。
直後、激しく突き飛ばされたが、それは、ここにいたら危ない、という彼の優しさからの行動だったような気がする。
「うぁあぁーっ」
丸くなり転がりながら、なんとか頭を守る。
数メートルの距離まで転がると、身を低くしたまま体勢を整える。
現実から目を背けている場合ではない、つぎの行動が必要なのだ。
「なにが起こってるの、すず」
ぼちゃん、と水溜りから顔を出すサダヲ。
あたしは目を細めて状況を注視しつつ、
「あたしに聞くな、そこらへんに携帯、転がってんだろ。あのオカルトオタクにでも問い合わせろ」
「おぉ、かすたまぁ!」
サダヲが手近の水溜りに腕を突っ込むと、向こうの血溜まりからその先が出てきて、転がっていたファブレットを手に取る。
あたしは呆れ顔で、
「おまえ、どんどん便利キャラになってくな」
「それなんだけどね、いままでできなかったことができたり、すごく簡単になったりと、どうやらアタシのレベルアップは尋常ではないらしいわよ。それもこれも、アタシらが力を合わせて、こつこつと経験値をためてきたおかげよ。どうやら本編では割愛されているようだけど、地下の霊脈付近では自然精霊のガーディアン的なやつが守ってて、いままでのアタシじゃどう考えても太刀打ちできない相手なんだけど、聞いて驚けえぐれ胸、アタシはそいつらを、ぎりぎりの際どい勝負ながらもぶっ倒してやったのよ。そのときに活用したのが、アタシらが最初にぶっ倒した看護婦のターボ車椅子で、高速で移動しながら相手の動きを撹乱しつつ、赤ん坊の手足で相手の動きを縛り……」
「もしもし、オカルトさん? どうなってんだよ、これ」
「人の話を聞かない子ね」
「え、なに? ちょっと電波わるいんだけど」
端末の角度を変えながら、なんとか聞き取ろうと努力する。
「ざざ……ざ……れは、干渉……ざ……見極め……て、件の……」
わからない、なんだよ、どうしろって?
「とっとと逃げろ、って言ってるんじゃないの」
サダヲが他人事のように言う。
「都合のいい耳してんな、サダヲ、よく見ろよ。まわりの黒い繭、まだぜんぜん消えてない。どの道、あたしか、あの牛さんが死なないかぎり、ここからは出られないってわけだ。クソいまいましいルールってやつのせいでな」
「女の子が汚い口をきくんじゃありません。……なるほど、それじゃ局面が混乱のきわみにある現状を利用して、敵をぶっ倒しちゃいますか?」
腕をまくり、ぶんぶんと振り回すサダヲ。
虚勢にしても……滑稽だ。
「途中までは正しいが、結論がクソボケだな。あれがぶっ倒せる敵だと思うか? あたしたちには最初から、自滅を待つ以外の選択肢なんて……」
そのための最善は、すでに尽くしたのだ。
目の前では、地上最強と呼ぶにふさわしいモンスターが、変容を遂げつつある。
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