久保智樹のメガネはすべてを見透かす
その妖怪を、ぼくは「ねめぬめ」と呼ぶことにした。
最初に見つけたのは、天体望遠鏡を地上に向けて覗いたとき。
そいつは、裏山にある神社の参道を、ねめぬめと歩いていた。
肉体は、ひどくゆがんでいて、最初は人間だと思わなかった。
ただ、ふんどし一丁で、頭に目玉を描いた袋をかぶっている、それを見て、たぶん人間じゃないかと一瞬だけ思ったんだ。
だけど、どう見ても人間ぽくない。全身が奇妙な形に変形している。
まともに歩くことができず、懸命に進むありさまは、ほとんど踊っているようにも見えた。
最初は、それで終わった。
そのことをネットで調べたら、なんか引き寄せられるみたいに、いろんな都市伝説を集めたサイトで似たような化け物を見つけた。
頭陀袋をかぶったその目玉の妖怪は、目玉小僧とも呼ばれていた。
そこには、こう書いてあった。
一度見つけたら、もう逃げられない、って。
そうだよ、それ以来だ。
双眼鏡を見ても、天体望遠鏡を通しても、顕微鏡を覗いても、果てはただメガネをかけるだけですら、妖怪の姿が見えるようになってしまった。
それは踊るような奇妙な動きをしながら、じっとこちらを見返してきた。
そしてゆっくりと追い詰められる──怖い。
怖いけど、だいじょうぶ。そうだよ、お姉ちゃん。
ぼくには見えるんだ。メガネをかければ、追いかけてくるそいつが。
そいつは、歩くのがとても遅いから、見えてさえいれば、朝まで逃げ切ることができるんだ。
ぼくは立ち尽くした。
ぼくを追いかけてきていた目玉の妖怪が、突然、空へと舞い上がったからだ。
目を凝らして見つめると、大きな黒い牛みたいな化け物が、目玉の首根っこを捕まえて、空へ舞い上がったようだった。
つぎの瞬間、舞い降りた──黒い空気。
「ああ、牛の首、痛い、放して」
目玉がもごもごと蠢いて、そんなことを言った。
「役に立てば放してやる。おまえのことは喰わない。約束だ。だが見つけなければ、きさまを引き裂くぞ」
牛の首と呼ばれた巨大な化け物が、目玉を脅しているんだとわかった。
「や、め、ろ。牛の首、おまえに見えぬなら、わしにも見えぬ。……よせ、だが、人間の目を通せば見えるであろうよ」
その瞬間、にたりと笑った。二匹の妖怪が。
「あれか、目玉。きさまの
「そうだ、牛の首。あの子ども、わしが見える、だから逃げる、朝まで逃げ切るだろう、だが牛の首、おまえが力を貸してくれるなら、わしはあれを捕まえることができる、捕まえられれば、わしは祓われることもなく、これからまた」
「行け、目玉! きさまの道具を手に入れろ!」
巨大な腕が、目玉をぶん投げる。
弾丸みたいな速度で飛んでくるそれを避けるなんて、できるわけがない。
ごめんね、お姉ちゃん……。
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