ロディア
「……」
構えるウィルに対し、彼は棒立ちしていた。鋭い視線がウィルを捉える。一瞬、彼は身震いした。それは恐怖からか、それとも興奮からか。
真意はウィルにも解らない。だが、やることは変わらない。
眼前の男……ロディアを倒す。
「た!」
発射された弾丸を閃光が躱す。翻す身体は独特なステップを踏み、加速する。踏み込みで大地が割れた。瞬きもしないうちに間合いを消し飛ばし、拳を叩きつける。
命中は必然。必中の必殺技は──
「ッ?」
避けた。
「おおお!」
(一点に、賭けた?)
確実に仕留めるため、彼は胴体を狙った。だが、それが仇となる。相手の動向が不明な以上、確実な手を取りたいはずだ。
その心情に賭け、ウィルは身体を後ろに逸らしたのだ。発砲と同タイミング。もし賭けを外せば、無防備となった全身に訳のわからない威力のパンチが飛んでくる。
それは、ディアラが喰らったものの比にならない。即死は免れないだろう。
「だぁ!」
カウンターの頭突き。
「ぐ!」
必中が避けられた動揺で、ロディアはモロに喰らってしまった。一瞬よろける彼に、
「は」
バン!
二発発砲。体制を崩された彼は堪らずバックステップで間合いを確保。頭を押させつつ、一瞬弾丸を睨み、躱す。躱された弾丸は岩盤に突き刺さり、止まった。
「ちッ」
仕留めきれなかった。不意打ちを狙ったラストチャンスは頭突きの一発で終わってしまった。ロディアの神速。次は無い。
(……あーあ。やっぱり、か)
半ば諦めた。一発ぶちかまして満足してしまった。両手を広げ、天を仰ぐ。今も、ロディアは頭を押さえていた。いくら頭突きでも、速度が乗ればかなりの威力になる。
とくに、この刹那。彼の必殺までとはいかないものの、スタンさせるには十分だった。
(俺って、弱いなぁ)
きっと、彼女なら、彼なら、今の一発で仕留めきれていただろう。だが、自分にはこれが限界。
(満足……か)
息を吸う。ロディアを睨む。銃を構える。滞りなく行ったアクション。心が笑っていた。
早くしろ、と言わんばかりに。
「油断して、いた。だが、次はない」
死刑宣告とも取れる言葉。ウィルは笑って返した。
「そーかよ。も一発喰らえ!」
神速が動く。さっきよりも早い。独特なステップは加速を続ける。もはや弾丸など意味を成さない。音速に迫る弾丸では、ロディアを捉えきれない。
もっと早く、もっと強い一撃が必要だ。
(来る!)
ハイスピードカメラだろうが捉えきれない一閃。
ウィルはガードしない。もとより、神速相手に意味はない。奴なら見てから拳の軌道を変えれる。
だったら、何をすべきか?
もとより決まっている。
「フン!」
鮮血が、宙に舞う。
「が!」
腹を、撃ち抜かれた。拳が腹を貫通し、意識が飛びかける。潰れ、外に放り出された大腸。即死。確信したロディア。
彼は血に塗れた右腕を、引き抜く。
「ッ!?」
その刹那、違和感に気づいた。
「こい、つ!?」
少年はまだ、死んでいなかった。内臓を潰され、大きな風穴が空いた上で、尚且つ意識を保っている。いや、正確に言えば意識は消えかけていた。
「……ァ」
言ってしまえば、プログラム。
右一閃を喰らう直前に、喰らった後の動作を覚えさせたのだ。たった1秒もないだろう。だが、今の彼には十分過ぎた。
「きさ、ま。死ぬ気か!?」
右腕を掴む。どうやら、単純な力だとこちらの方が上らしい。両腕を使っても、ウィルの左腕には敵いっこなかった。
「っっっっっ!!」
ゾンビは銃口を突きつける。
狙いは無論、ロディア。この距離なら外さない。いくら神速があろうが、確実に叩きのめせる。あとは、時間の問題だった。
ロディアが銃殺されるか。
ウィルのカウンタープログラムが終了するか。
最悪最高の二択。
刹那のワルツは、瞬きと共に消え去った。
「く、が」
結論を言えば、ロディアの勝ちだった。ギリギリではあるが、銃弾が致命傷を避けたのだ。だが、右肩に一発くらい、出血が止まらなかった。
「ッ」
一方のウィルは仕込んでいたプログラムが終了し、完全に意識を失った。ロディアの腕を掴んでいた手は力無く離れ、倒れてしまったのだ。
「ぎ、ぎ、が、ぐ」
痛みが肉体を叫ばせる。いくら肩とは言え、弾丸は弾丸。軌道上にあった骨は折れ、肉は貫通し切っている。
止まらない出血で意識が朦朧とし始めた。
普段神速に頼り肉体を鍛えていない驕りの代償だった。
地面に座り込むロディア。
空は晴れていた。どこまでも続く青空。鳥の囀りさえ聞こえない静寂。風は無い。目を閉じて、深呼吸をする。
終わったのだ。全部。過去の因縁も、アメリカ合衆国崩壊の原因も、全て終わったのだ。
──だからこそ
この音は、より響いた。
「バン」
ケリーウィル 讃岐うどん @avocado77
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