儚く
「待った。なんで君が?」
遮蔽物から銃を撃ち、彼女が問う。
ロディアは弾丸を見て躱し、間合いを詰める。
とても人間とは思えぬ反射神経に、運動神経。音速に迫る超高速の物体をもろともしない彼に、戦慄を覚えたウィル。
その目に宿る殺気。虚な表情からは次の一手を読ませようとはしない。
「お前は、危険。それ以上、何がいる」
独特な区切り。黒いマントが靡く。と、
「ん」
靡いた布が撃ち抜かれ、風穴が空いた。
撃ちぬいたのは、ウィル。予想外だったのか、マントをわざわざ手に取り、穴を眺めている。
「それ、理由になって……ッ!」
2発。ここぞとばかりに発砲。いくらバケモノでも、不意を突けば弾は当たる。それは、さっき彼が証明した。
(とった!)
避けられない。弾丸は、彼の眼前に迫っていた。たとえ高速で移動しようが、もう遅い。手遅れだ。確信とともに、リロードを行うディアラ。
「そうさ、な。おれが、同類で、なければ──」
──瞬き。そう、その刹那に、彼女は瞬きをした。その瞬間、やつは眼前にいた。
「きっと、お前は。苦しまずに、すんだ」
一閃。
「ガァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
極東からの来訪者より学んだ武の一撃──正拳突き。
ただ、その威力は常人のものでは無かった。音速を超えたスピードから、キングスキャニオンをも砕く異常とも呼べる力から発せられた神速の拳は、
「ディアラ!!!!!」
神速を受けた彼女に、意識はもうなかった。まるでアニメーションのように弾き飛ばされ、何度も地面にたたきつけられる。最終的に止まったのは、1キロメートルを超えたあたりだった。
「終わり、だ。儚き過去。おれは、もう、行くよ」
踵を翻すロディア。先ほどまでの神速が嘘のように、ゆっくりと動いている。寂しそうな表情を浮かべ、どこかへと足取りを向けた。その時、
「……?」
正面から、銃口を向けられた。
目の前の男は震えている。それは、恐怖からだろう。当然だ。あんなものを見せられて、平然としてられる者はいない。それは、勇姿ではない。ただの自殺願望だ。
だというのに、目の前の彼は……
「行かせねぇよ……ッ!!」
震えた声で、邪魔をする。
「やめて、おけ。無益な殺生は、好まない」
「簡単に殺されるかよ。アンタは絶対ぶっ飛ばすって決めたんだからな!」
「震えた、声、で言われても、説得力、無い」
しかたないと拳を握るロディア。吐いたため息は彼の本音を示していた。戦いたくない。そうロディアは思った。だからこそ、自分に言い聞かせるように拳を握る。せめて、苦しまずに一撃で。
「なぜ、阻む?」
「
フー、と息を整える。相手の必殺は見切れない。落ち着け。いや、落ち着いているとも。今、自分には不思議な高揚感があった。怒っている。たった数日間、されど数日間を共にした仲だ。時に助け、時に助けられた。情を覚えたのは、仕方ないだろう?
「大切な人を傷つけられて、見過ごせるわけない!!」
「……そう、か」
余計、ロディアは心底嫌そうな顔をした。話を聞くんじゃなかった。やりづらくなる。少し後悔したが、同時に、不思議な安心感を覚えてしまった。その感情を知るのは今じゃない。
「いい、だろう。その挑戦、受けて立つ!」
「行くぞ!!!」
神速と激情が、戦場を駆け抜ける。
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