第6話 六色目
キャンバスの動画配信から──一ヶ月。
人類の“適応力”は、キャンバス本人すら驚かせるほどだった。
【やあ、みんなー!準備は順調のようだね〜】
そんな軽やかな声が、またもSTG動画サイトから流れた。
【想像以上のスピードで準備を進めていて、我もびっくりだよ〜。これなら被害も最小限ですみそうだね!】
【これより、魔物とダンジョンの開放を始めます】
【パチンッ】
指を鳴らす音と同時に──
世界に“振動と強烈な光”が走った。
一部の過疎地は深い森に飲み込まれ広大な森林エリア、火山が活発化し溶岩あふれ出るエリア、新たな山が生まれ荒地と化したエリア、さらにはまるで異世界に繋がるかのような“ゲート門”が各地に出現した。
さらに驚くべきことは大陸の形が変わっていた。人が多く集まる都市以外の場所はまるで異世界にでも来たのかと錯覚するほど様変わりしていた。
もし、あの時点で人口を分散させたままだったら──被害は計り知れなかった。
各国の判断、特に日本政府の都市集中政策は“奇跡のファインプレー”として語られることになる。
【さて、これで準備は整った。みんなの素敵な物語を期待しているよ!】
【それじゃ、ばいば〜い!】
キャンバスはいつものテンションで手を振り、動画は終わった。
「紫吹ー!ギルド行こーぜ!」
「おー、もう準備できてるぞ」
御田と西藤が教室前で待っていた。
今日から、いよいよ冒険者としての第一歩が始まる。
キャンバスの発表以降、高校は“任意登校期間”となり、
生徒たちは“自己責任”でSTGに基づいた活動が許されていた。
その間、学校では“基礎訓練コース”や“魔物との初接触対策”などが開講され、
生徒たちはSTGとどう向き合うか、それぞれの答えを模索していた。
そしていま──紫吹たちは冒険者ギルドへと向かっていた。
冒険者登録の仕組みは明快だった。
STG上での名前とランクを申請することで登録完了。
最初は“Gランク”からスタートし、強さや成長に応じて自動的にランクアップ。
レベルやスキル、ジョブなどは“個人情報”として非公開が可能。
新しい情報(魔物・スキル・ジョブ・素材など)を“STGクリスタル”に登録すれば、STGコインがもらえる。
このSTGクリスタルはキャンバスが設置したもので、ギルドに1つずつ存在していた。
情報こそ、富であり、力である──
そんな価値観が、今や日常の一部になりつつあった。
ギルドへと向かう途中。
「紫吹は何の武器にするんだー?」
御田がウキウキしながら聞いてくる。
「んー、パーティー組むならバランス考えたいな。御田は?」
「もちろん片手剣!将来的には“魔剣士”とかになって、闇を斬る存在になるんだ!」
「……中二病、治ってなかったか」
「むしろ進化してるぞ」
御田が自慢げに言う。
彼の愛読漫画には“三刀流の剣士”が登場し、御田はそのキャラに強く影響を受けている。
そのせいか、時折やたらとポーズが決まっている。
「西藤は?」
「ん、後衛の武器なら、なんでもいい」
「……出たな、適応型」
西藤はどこか淡々としているが、実はギルド関連の知識は誰よりも詳しい。一度ハマると調べつくすタイプなのだ。
紫吹は内心、(なんだかんだバランスいいな、この三人)と思っていた。
ギルドに到着すると、すでに何人もの登録希望者で賑わっていた。
入口の掲示板には、初級者向けのクエスト情報や、初心者ガイドが貼り出されている。
カウンター奥には“受付嬢”が控え、笑顔で迎えてくれる。
「いらっしゃいませ、冒険者登録ですね?」
「「「お願いします!」」」
3人は声をそろえて頭を下げた。
手続きを終えたあと、隣の武器支給カウンターへ。
「片手剣でお願いします!」
御田が即答し、鉄製の片手剣を手にする。
柄に刻まれた「試製一号」の文字を見て、彼は声をあげた。
「うおおおおぉぉぉぉぉぉ!俺の相棒、爆誕ッ!!」
後ろで周囲がクスクス笑っている。だが、それも彼らしい。
次に西藤が一歩前に出る。
「弓矢と短剣セットで」
「了解です。最初のうちは短剣を併用することをおすすめしています」
彼は静かに弓を受け取り、その重量感を確かめながら、わずかに口角を上げた。
「……いいな、それ」
紫吹がそうつぶやくと、西藤はニヤリと笑って返す。
紫吹は知っている。このタイミングで西藤に絡むと、だいたい変な勝負を吹っかけられるのだ。
そっと視線を逸らすのが正解だった。
そして、いよいよ──紫吹の番が来た。
カウンター越しの受付嬢が、微笑みながら尋ねる。
「あなたは、どの武器にしますか?」
紫吹は、一度深呼吸して、目の前の武器ラックに目を向けた。
──剣、槍、槌、斧、杖、弓、短剣、二刀、投擲、ナックル……。
それぞれに輝きを放つ“選択肢”たち。
手を伸ばしかけたその瞬間──彼の胸に、なにかが湧き上がる。
(……オレは、どんな戦い方をするんだろう)
自分だけの“色”を探す旅が、今、始まろうとしていた。
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