由利編
私の名前は、由利。地方国立大学の歯学部2年生。親元を離れて今は一人暮らしをしていて、少し大変なこともあるけど、十分幸せに暮らせていると思う。
「由利、由利。聞いたことある?やりなおしできる不思議な飴があるって」
「やりなおしができる飴?そんなのあるわけないでしょ」
そう私に話しかけてきたのは、同じ学部に通う1つ歳上の彩。彩は噂好きでいつもいろんな噂を話してくれる。
「そんな事言わずにさ。聞いてよ。なんかその飴食べたら自分の好きなとこからやりなおせるらしい」
好きなところからやりなおせる飴ねぇ。そんなものがあったら、、、。
「ものすごく安直な名前の飴ね。ゲームじゃあるまいし。しかもそんな飴があったら世の中成功者だらけよ」
「えー、でもー」
「彩、そんなこと言ってないで早く移動しましょ。あなた、次の授業の課題やってあるの?」
「次、課題なんてあったっけ?」
彩はほぼほぼ課題をやらずに授業に臨んで、隣に座る私がいつもヒヤヒヤする。でも、そんなところもあまり憎くない。高校生の頃はそんな人となんて付き合いきれなかったけど。
私は高校生の頃、県トップの進学校の特進科に通っていた。全国的に見てもベスト10には入る偏差値のある学科で、他校はもちろん同じ学校の普通科の生徒からも尊敬の眼差しで見られていた。さすが特進科と言ったところで、授業の進むペースは早すぎて、毎日の予習が大変だった。特に数学の授業なんて、三人1組で数学の問題が当てられて、板書させられるから1人でもサボる人がいたら本当に地獄だった。それが原因で関係がギクシャクしてしまう人もいた。
「由利きいてるー?」
「聞いてる、聞いてる。課題あったわよ。早く移動してやっちゃいましょ」
「さすが由利様!ぜひ、答えも見せてくださいぃ」
「無理よ。自分でやってちょうだい」
まぁ、そんなこと言いながらもきっと教えてしまうのだろうけど。あの頃より余裕がでたからなのか、課題をやらなくてもそんなに困らなくなったからなのかはわからないけど、こんなふうに言い合うのも悪くないか。
彩からやりなおしができる飴っていう不思議な話を聞いたぐらいで、今日も普通に授業を受けて、部活をして、バイトをして家に帰った。
「もしもーし」
日課の家に帰ったらお母さんにかける電話。毎日親に電話なんて過保護とかめんどくさくないのとか、友達に言われるけど慣れてしまえば別にどうってことない。
「じゃあお母さんもう寝るからあんまり遅くならないようにね」
特に用事がなかったら、お母さんとの会話なんて五分にも満たない。ホームシックになることはさすがにもうないけれど、電話が終わった後、秒針の音しか聞こえなくなるといつも少し寂しくなる。
物思いに浸っていると、インターホンの音がした。なにか宅配頼んでたかな。
渡されたのは小さな段ボール。宛先はもちろん私で、送り主はTULPE。なんだろう。なにかの懸賞があたったのかな。とりあえず開けてみることにした。
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