【デスドラッグストアは死が1番の良薬】

 私が務めているのは、所謂ドラッグストアである。一応資格はとっているので、私自身は色々な薬を売れる立場の人。資格を取っていないと、一部の医薬品は売れないようにはなっている。なっているんだけれども。


「なんでアンタレジ打ち出来ないのよ!」

「そうではなく、私にはその医薬品を売ることが出来ないんです」


 こういう風に新人ちゃんにイチャモンをつけてくるクソがいるんですよ。


 ここに務め始めたのは確か6年くらい前。前の会社の人間関係があまりにもクソ過ぎて、上司の顔面に退職届を叩きつけて、その足でたまたま人員募集をしてたので入ったのが始まり。給料は前よりかなり上がって、割と高待遇、人間関係もそれなりに良いので、転職してよかったな〜と思っている。宝の持ち腐れだなと思っていた資格たちも、今では光り輝いて見える。ありがとうあの頃の私。資格勉強で死にかけてた私、報われたよ。

 しかし悲しきかな接客業、良い客普通の客より、クソみたいな客の割合がやたらと多い。例えば値引きを要求してくるババア。例えばブロン錠を馬鹿みたいに求めるクソガキ。例えば今目の前にいる、出来ないことをしろと要求してくるジジイ。例えばプチプラ使ったらアレルギー出たとかクレームつけてくるクソアマ。例えば使えるわけないのに薬品売り場の目の前で買ってほしくて駄々こねて、それを怒鳴り散らすクソ親子。例えばタメ口を叩いてくるクソリーマン。んー、挙げ続けたらキリがない。まぁとにかくクソ率が高いのだ。

 じゃあどうするか。一般的には宥めたり同じことを繰り返し伝えたり、最終手段で警察を呼んだり。ベターな落とし所はそうなる。たまーにそれでもどうにもならない時はあるらしいけど、それは一般の店の話。この店はそんな一般的にある店のような、優しい対応はしない。ここに来てクソクレーム付けまくったのが運の尽きだ。


「あの、ほんとに困ります」

「だったら早く出せっつってんの! お客様は神様だろぉ!?」


 あっ、あの客終わったな。お前が恫喝してる店員、一神教規制済みの信者だよ。


「────は?」


 瞬間新人ちゃんの顔から感情が消えた。最初見た時は怖かったけど、今じゃもう何も思わない。それどころか、客めご愁傷さま、とさえ思えてくるほどだ。ほらみろ空気が一気に凍ったぞ、お客様クソジジイ。この後の事に巻き込まれないように、私はそそくさと遠くに逃げる。そして、これから巻き込まれる商品薬品たちの惨劇を憂う。また仕入れないといけないっぽい。計算が合わなくなるから本当は抑えて欲しいんだけどな。あと私の分も残しておいて欲しい。割とあの顔面叩き割りたい。

 影からこっそり見れる位置に逃げると、新人ちゃんはお客様クソジジイの頭を引っ掴み、カウンターに思いっきり叩きつけた。ドパァンといい音が鳴る。ありゃ骨いったな。


「───この世に大いなる主【規制済み】の他に神などいない。神の名を騙るな下郎」


 バァンバァンと何度も顔面を叩きつける音が聞こえる。おーいい音。花火大会かな。


「神の名を騙る愚かな下郎。その魂は永遠に救われない。哀れだな」


 なんか棚にある薬品を顔面に思いっきりぶっ掛けてる。うわー、顔面から煙出てる。おもしろ。あれ消毒液だっけ? いや違ったっけ? なんだったっけ、まあでも面白いから続き見とこ。


「私の目の前で神の名を騙ったのが貴様の最大の不幸だ。受け入れろ」


 最後に新人ちゃんはお客様可哀想な人を外まで引き摺っていき、そのままぽいっと車道に放り投げた。新人ちゃんはすぐに踵を返したけど、私はしっかり見た。投げ捨てた直後にぷちっとでかめのトラックに潰されたのを。うーん、ご愁傷さま。来世はまともに産まれてくるんだよ。そしてまともな教育を受けさせてもらうんだよ。合掌。

 カウンターに新人ちゃんが戻ってきた。さて私も行くとしよう。


「お疲れ〜、戻りまーす」

「お疲れ様です。あれ、ちょっと機嫌悪いです?」


 さっきまでの雰囲気なんてどこかに行ってしまった新人ちゃんは、私の顔を見るなりそう言ってきた。むむ、バレてる。本当はちょっとくらい私もアレやりたかったのに、新人ちゃんがしっかり処理までやっちゃったから、消化不良というか、なんというか。中々言葉に出さない私に、新人ちゃんは手を合わせて謝ってきた。


「ごめんなさい! タタラ先輩の分残しておくの、忘れちゃってました」

「いやいーよ、面白いの見れたから。にしても今日も凄かったよ安東アンドウちゃん」

「いやあ……あれはただ必死だっただけで……」


 てれてれとはにかむ新人ちゃんこと安東ちゃん。うーん、彼ほんとに男なのかなあ、めっちゃ可愛い。


「さて、安東ちゃんは今から休憩でしょ。行ってらっしゃーい」

「あっ、はい! 行ってきます! あとお願いします」


 安東ちゃんはぺこっと頭を下げると、少しつまづきつつも、飲み物を持って裏へと走っていった。さて、いーもん見れたし、こっから頑張りますかあ。クソみたいな客を今日もぶち殺すぞー。


 ここはドラッグストア。一言にドラッグストアと言っても、一般的なドラッグストアじゃない。確かに揃えてるものは同じものばかりかもしれないけれど、ちょっと違う。

 クソみたいなクレームをつけてくる客とか、クソみたいな業務命令をしてくる上司とか、そう言った連中を尽く徹底的に、力で理解ワカらせる。確かに薬品は売っているけれども、話が通じない客に対しては、力も売っている。それが一番の薬になるだろうから。その結果、命が消えたとしてもしょうがない。ここの店にくるそういうお客様に出す薬の対価は、その客の命。等価交換って言葉で済ますのはおかしいって、一般的には突っ込まれそうだけど、ここじゃ普通。


 だってここはだもの。



「あっ、お客様がお求めであれば鎮痛剤今出せますよ! ただしお前の命と引き換えだクソ野郎」



 1、それがうちの店───デスドラッグストア『ソムニフェルム』のモットーですのでね。


 ちなみにソムニフェルムってケシの花の学名らしいよ。パパヴェルム・ソムニフェルムって言うんだって。これでひとつ賢くなったね!



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イト・弓可可 サニ。 @Yanatowo_Katono

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