【デス中古ショップはお前の命を買い取る】

 今日も今日とて店仕事である。うちは割と雑多な中古ショップなので、色んなものが持ち込まれる。それを査定して金額出して買い取って、綺麗にして商品として出す。店休日など存在しないので、毎日毎日色んな品物が買取に持ち込まれる。つまるところ、客もまあ色んなやつが来る。普通に買取していく客もいれば、ただ値段が知りたかったってだけの客もいる。それに関しては特に否定しない。中にはとんでもなく高額なものを持ってきて、そのままキャンセルも何もせずに全部置いてってうちに貢献してくれる客もいるし、在庫を切らしてて欲しくてたまらない分野のものを、大量に持ってきてくれる客もいる。

 ここまで言っといてあれだが、そんな客ばかりであったら正直楽だ。これはマジのマジでほんの一部である。じゃあ大多数はどういう客かと言うと。


「なんでこれこんなに買取額低いの? アンタちゃんと査定してる?」


 こういう、なのである。



 事の始まりはこの目の前で現在進行形で騒ぎ立てているクソカスが、大量に埃まみれの品物を買取に持ってきたところからである。受付の時点で既に態度が悪かったので、だいたいお察し。ついでに言うと風呂何日入ってないんだと言いたいレベルで臭いのもあった。勘弁しろ。

 取り敢えず受付して品物預かって、色々と調べてたらまあ虫が出てくるわ蜘蛛の巣は張ってるわ。ホコリも酷いし動物の抜け毛っぽいのもあったし、あと多分客本人の陰毛もくっついてた。きっもちわりぃ。

 そんなこんなで当然ほぼほぼ値段つかないから買取不可、付いたとしても数十円。そういったことをご案内したらこの有様だ。実の所10分くらい粘られてる。暇なんだなと思いつつ、のらりくらりとかわしていく。

 だがまあ当然のことのように、の態度が気に障ったんだろう、胸ぐらを掴んで恫喝してきた。


「てめえさっきっから何様だこの野郎! いいから全部買い取れっつってんの! なんで値段つかねえんだよ!」

「先程も申し上げました通り、お品物の状態が非常に宜しくないのでこういったご案内となっておりますー」

「あぁ!? こっちは要らねぇっつってんだよありがたく買い取れや! こっちは客だぞ! てめぇらの神だぞ!!」


 うるせー、耳元でギャーギャー騒ぐな。あと息くさすぎてまじで気持ち悪い。つかこれ以上はもう埒が明かない。


「分かりました。ではこうしましょう」


 俺はカウンターの引き出しにあった、を引っ掴んで、思いっきりそれを目の前の客の肩目掛けてざっくりやってやった。


「──────ァ!」


 言葉にもならない悲鳴が聞こえてきた。そりゃまあいきなりナタで肩ざっくりいかれたらそうなるよな。今度からはちゃんと「今からナタやりますよー」って声をかけてからやろう。まあそんな話は置いといてだ。


「これ以上は会話の無駄です。お引き取りくださーい」

「テメエ客にこんなことして……ッ」

「はいぃ? お客サマ、ここがどういう店か知らないできましたァ?」


 客の方からナタを引っこ抜く。せっかく綺麗にしたのに台無しだ。ナタと床が。

 ここは普通の中古ショップじゃない。中古ショップだ。したがって、ここに来る常連客ってのは、ほぼ全員がやべー連中。無論、店員も全員やべー連中。俺もその内の1人である。んで、そのやべー店員の中でも群を抜いてのが───



「デス中古ショップはお前の命を買い取る!!」



 突如として割られる窓ガラス。そこから客に目掛けてドロップキックが炸裂。見事に客の顔面に命中した。流石だ、ウチの店で1番イカれてやがるやつは格が違った。買い出しからの帰還がてら、ショートカットも兼ねて窓ガラスからのドロップキック。そして決めゼリフも忘れない。素晴らしい、最高にイカレてやがる。到底俺には真似出来ないし出来るわけもないし、しようとも思わない。

 ドロップキックで入ってきたそいつは、丸2つと逆三角形1つで構成された簡素な顔面を崩さずに、客を店から引きずり出して、そいつの査定物まるごと外にぶん投げた。そして最後の一言もバッチリと決める。


「テメェの命など買い取るに値しない! 分かったらとっとと死ね!! あばよ!!」


 これを顔面崩さずに、かつ綺麗に中指を立てて決める。こんなにイカレたアホ……否、素晴らしい店員が居ただろうか。もし問われたとしたら、俺はその問いにノーと答えるが。

 さてクソみたいな客も外に放り出したので、店がようやく静かになる。割れた窓ガラスの破片を掃除しつつ、俺はつい先程帰ってきたイカレ野郎に声をかける。


「ナイスドロップキック、萱原カヤハラ


 手にしていたビニール袋から缶チューハイを取りだしてそれを飲み始めた萱原は、俺に向けて顔面を崩すことなくこう言った。


「お前もあんくらいしろやヤニカス」


 昼間から堂々と勤務中に酒を飲み始めるアル中に言われたくないセリフだ。実際萱原が外に買い出しにでてた理由なんて、自分が飲むための酒を買いに行く、でしかないから。うーん社会人に有るまじき酒カスである。とか思いつつ、俺も懐からタバコを取りだして吸い始めるわけなんだが。いや、タバコ吸ってないと色々とキツくて。主にストレスだの客の体臭だので。


「つかナタあるんだったらあのまま殺せよ」

「俺の服が返り血で汚れるから嫌だね」

「んなもん替え持ってこいや、私なんぞ10はあるぞ、替え」


 それはお前が酒の飲みすぎてゲロ吐くから必要なだけだろ。そう言いたかったが俺は堪える。大人なので。つかこんなにも口悪いのに一切顔のパーツが丸2つと逆三角形1つで構成されて崩れねーのすげーな萱原。


「おい、一服終わったら店閉めんぞ。やってらんねーわ」


 無責任にも萱原がとんでもないことを言い出した。どんな権限と立場でそれ言ってんだ。


「店長の許可なく閉めるのはムリじゃね」


 ああ言えばこう言う、みたいなアレでそう言ってみた。だが萱原は酒を飲みながら、店長も仕事やる気しねぇから帰るってよ、と言ってきた。仮にも店長の立場にあるやつがそれでいいのか。


「……てことは店長、パチかスロ負けたな?」

「15万負けたらしいぞ」

「キッツ。何打ったんだよ」

「ゼロの異世界がどうとか」

「よしそれ以上は何も言うな」


 よく分からんが猛烈に嫌な予感がする。俺は萱原の頭の分け目を目掛けてチョップした。


「おい何すんだ八巻ヤツマキ

「知らね。テメェの頭で考えろ」


 コイツ女なのになんでこんなに口も悪ぃし生活も終わってんだろうな。そんでもってなんでその顔面ずっと崩れないんだ。お前それがデフォなのか?


「ケッ。とりあえず店閉めるぞ八巻」

「ヘイヘイ。ってごく自然に缶チューハイ2本目開けてんじゃねーよ」


 ここは中古ショップ。だけど単なる中古ショップじゃない。常連も店員も全員イカレてやがる。ついでに言うと倫理観もイカレてやがる。何かあればナタは飛んでくるしどこからともなくドロップキックが来るし、裏からは包丁やらレンガやらが飛んでくる。しまいにゃ客の臓器を1000円ちょっとで買い取る時もある。そんくらいしか価値がないと思えってことでやってるんだが。


 そんな全部が全部イカレた中古ショップを、俺たちはと自称している。なお店の名前は『フェイタリユース』である。無論、元ネタはFATALITYフェイタリティreuseリユースからである。


 カメレオンみてえな顔した男とよく言われている俺ことヤニカス八巻ヤツマキと、顔面の構成パーツが丸2つと逆三角形1つだけの女こと酒カス萱原カヤハラは、そんなデス中古ショップの店員なのである。ちなみに今年で勤務10年目だ。



 なお給料は上がっていない。月大体手取り12万である。



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