一反もめん
「今日は、あやかし横丁内にいる一反もめんにお届け物をしてもらうよ」
「一反もめんって、あの鬼太郎に出てるやつですか?」
「ああ、ゲゲゲね。うん、そのイメージで大丈夫だよ」
鬼太郎のことを「ゲゲゲ」っていう人、初めて見た。
「それで何をお届けすればいいんですか?」
「ひと時だけ人間になれる薬さ」
乱歩さんは薬の小瓶を風呂敷に包んで渡してくれる。
「人間になりたい一反もめんですか……」
「ああ、そうさ。人間になれる時間は3時間。その間、何をしたいのか聞いて、可能なら応えてやっておくれ」
「はい、わっかりました~」
乱歩さんから一反もめんの住所をもらって、狐面を被り、私は黒蜥蜴を飛び出した。
「ええっと、あやかし横丁3丁目4の53は確か、この辺りのはず……」
「そこの狐のお面の君、あやかし道具屋黒蜥蜴の人だろ」
ひょろひょろした白い布が話しかけてきた。
「あっ、はい、一反もめんさんですか?」
「そうだよ。さあさあ、俺が頼んだ薬を早く早く」
「はい、これです」
私は風呂敷から薬を取り出し、一反もめんに渡した。
「早く人間になりた~い!」
一反もめんは早速、薬を一瓶、飲み干した。
すると、煙がモクモクと湧いてきて、一反もめんを包み込む。
煙が消えていくと、そこには一反もめんの姿はなく、一人の人間の男性が立っていた。
白い着物を着ている。
「わあっ、イケメン!」
一反もめんは何処かのアイドルグループにでもいそうなイケメンに変身していた。
「そうかい。どれどれ……」
一反もめんは鏡で自分の姿を確認する。
「おおっ、中々の色男じゃねえか!」
「それで、やりたいことって何です?」
「人間の街を色々と散策したいのさ。お嬢ちゃんには、その案内役をしてもらいたい」
「はい。お安い御用です」
やった! イケメンとデートだ!
「で、何処か行きたい所はあります?」
「そりゃあ天下の東京に行きたいねえ」
「私、東京生まれ東京育ちですから、案内しますよ!」
「最近できたっていう東京スカイツリーってやつに行ってみたいねえ」
「スカイツリーですね、分かりました! 早速行きましょう!」
白い着物のイケメンは周りの目を引いた。
日本観光に来た外国人さんから一緒に写真を撮ってくれとも頼まれた。
一反もめんは快く対応していた。
スカイツリーの展望デッキからは富士山が見えた。晴れてて良かった。
フォトサービスがあって、一緒に撮った写真を一反もめんに渡す。
「良い思い出になったよ」
後はソラマチでショッピングしたり、スタバでフラペチーノ飲んだりした。
3時間は、あっという間に過ぎて薬が切れる前に急いで、あやかし横丁に戻る。
「今日は楽しかったよ、ありがとう」
「はい、こちらこそ、です」
それから一反もめんはリピート客となって、色々な所へ一人旅に行っているようだ。
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