カワウソ
ある日、乱歩さんからの出勤連絡が来て、私は双眼鏡を逆向きで覗いた。
「ああ、まゆり、こんばんは」
「こんばんは、乱歩さん」
「今日からは一人で行ってもらうよ。大丈夫かい?」
「ええっと、妖怪の元に一人で行くのは、ちょっと怖いですが、頑張ります」
「大丈夫さ。今日の奴は人間を取って食ったりはしないから」
「それで今回の妖怪はどんな妖怪なんですか?」
「カワウソさ」
「え? あの水族館とかにいる?」
私は水族館で見た可愛いコツメカワウソを思い浮かべた。
「それはただの動物のカワウソだね。妖怪のカワウソは人を化かすんだよ」
「え~、狸とか狐とかが人を化かすのは聞いたことあるんですが、カワウソも⁉」
「そうさ。猫だって何十年も生きると化け猫になって人を化かすだろ? それと同じことさ」
「へ~」
「それでカワウソに届けてほしいのは化かすための葉っぱさ」
「狸とかが葉っぱを乗せて変身してますよね。それと似た感じですか?」
「うん。そうさ。やれそうかい?」
「頑張ります!」
「はい、これ住所。行き方、あやかし横丁の鳥居を潜れば近所の稲荷神社に出られるようになってる。それからは自力で向かってもらうよ」
「はい!」
乱歩さんは紙にくるんだ葉っぱを風呂敷で包んで渡してくれた。
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
あやかし横丁では人間だとバレないように乱歩さんからもらった狐面を被る。
妖怪が闊歩する、あやかし横丁を見ると、これは本当にアトラクションではなくて本物の妖怪が歩いているんだなあと思う。
でもこれは夢じゃなくて現実!
住所を見ると、宮城県仙台だった。
帰りに牛タンでも食べて帰ろう。
鳥居を潜り、暫く歩くと、目の前が開けてきて、気が付くと仙台に着いていた。
スマホで現在地を確認し、カワウソの住む川までのルートをマップアプリで検索する。
電車、バスを乗り継いで、徒歩30分程。けっこう遠いなあ。
電話で乱歩さんに交通費について聞くと後払いだと言われた。
ちゃんと払ってもらえる分、いいよね。
一時間半程してカワウソの住む川に着いた。
どうやって家を探そうか。
とりあえず呼んでみる。
「カワウソさ~ん、何処ですか~? あやかし道具の配達屋で~す」
河原を歩きながら呼び続けていると、草むらがガサゴソとして茶色の毛をした生き物が飛び出して来た。
「待ってたぞ、配達屋!」
「カワウソ、さん、ですね?」
「うん! おいらカワウソ!」
「はい、お届け物です」
私は風呂敷包みを解いて、葉っぱを取り出す。
「おう、これこれ! これで変化が出来る!」
「良かったですね」
「何か変化して見せてあげようか?」
「え、いいんですか?」
「うん」
「なら、ライオンに化けてみて下さい!」
「お安い御用さ。……変化っ!」
カワウソは葉っぱを頭の上に乗せ、手で印を結んだ。
すると、カワウソの身体がどんどん大きくなり、タテガミが出来たりと徐々にライオンになっていった。
「うわ~、すごいです!」
「えっへん」
私は忘れないうちに配送料をもらい、帰途に着いた。
「乱歩さん、ただいまです~。お土産に牛タン弁当買ってきました~」
「おかえり、まゆり。早速食べようか」
「はい!」
働いた後の牛タンは頬っぺたが落ちるほど美味しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます