第36話

「……リーリスよ。何故お前は時折突飛な事をする……。婚姻を勝手に決めてきたときもそうであった。こうと決めたら本当に直情的になるのは―――――」


「お説教は不要です、陛下。剣を握る者同士、剣でしか交わせぬ心があるのです。」


私とラグリス、陛下で話し合い、今回の決闘は表向きは黒薔薇騎士団の新しい団長の実力が黒薔薇騎士団の団長にふさわしいものなのかを青薔薇騎士団団長、リーリス・ヴァ―ヴェルが確かめたいといって行われるものという事にした。


決闘をするならもちろん観客も自ずとついてしまうもの。


それも騎士団長同士の決闘ということもあり、

周りはすでにお祭り騒ぎ。


もう後に引けないこの状況で私が決闘を申し込んだことに

ぶつぶつと陛下は不服を唱えていた。


陛下は私の実力を知ってはいるが、私の本当の性別も知っている。


その為、できるだけ戦ってほしくないというのが本心らしく、

私があまり戦うという事を好ましく思ってはいない。


(だから見たくないだろうと思って決闘の見届け人は適当な人にお願いしてもいいといったにもかかわらず、自分がやるというのだから……。)


正直な話、立会人はレベッセンでもよかった。


ただ、決闘へと持っていく流れをつくる場にレベッセンはいないでほしかっただけだ。


あの場にレベッセンが居たらラグリスとリアの”すれ違い”について興味を持って、内容を知るためにしばらくはうるさくなるだろう。


そう思いリアの性別が仮にも暴かれないようにするためにもレベッセンには退席してもらったのだ。


もちろん決闘の流れに持っていく際に最悪、リアが男性だとラグリス・ヴァン・ヴェルディンが陛下にばらす可能性も考慮しての判断だったわけだが……――――


(しかし、人を偏見で睨みつけてきていたにしては意外とこの男、口が堅いというか……。)


別に口止めされているわけでもないだろうに、リアが男だという事実を知るものはそうさせた者やその者に近しい者と私くらいだろう。


言いふらそうとすれば言いふらせるというのに、誰にもそれを言わないのはひどく立派だと思わずにはいられない。


(少しだが、ラグリス・ヴァン・ヴェルディン。貴様に興味が出てきた……。)


私は少し離れたところで訓練用の剣を見つめるラグリスを見据えた。


公平を期すため、決闘は訓練用の剣で行われる。


加えて大きなけがをする事を避けるためだ。


別に私とて彼が多少気に入らないとは言え、怪我をさせるつもりもない。


「全力でかかってくるといい。自分で言うのも何だが、私は強いぞ?」


リアの名誉の為の決闘。


とはいえ、単純に楽しみで仕方がない。


(見せてもらうとしよう。武に秀でたもと黒薔薇騎士団の団長を引退させた実力とやらを……!)


私の言葉を受けてまっすぐに剣を握り向かってくるラグリス・ヴァン・ヴェルディン。


その次の瞬間より私とラグリスの剣は大きな音を立ててぶつかり始めるのだった。





……ぶつかり合う剣と剣。


どちらも練習用で切れ味の悪い剣。


そんな剣でも研ぎ澄まされた刃と刃がぶつかるように大きくあたりに響き渡る鉄の音。


私とラグリスが決闘を始めてもう2時間ほど経とうとしていた。


(……面白い……なんて面白いんだ、この男!)


いつまでも剣をぶつけあっていたい。


そう思えるほどにラグリス・ヴァン・ヴェルディンは想像以上の男だった。


鍛え上げられた肉体から放たれる重たい一撃。


そして力強くも素早さもある身体の身のこなし。


(こんなに面白い男は初めてだ……!)


間違いない。


ラグリス・ヴァン・ヴェルディンの剣術は本物だ。


(実力重視の黒薔薇騎士団の団長となったからには前団長のバラハッドより腕が立つとは思っていたが、これほどまでとは……!)


断言してもいい。


この男は騎士団の中で2番目に強いだろう。


そう、私の次に――――――――――――。


「はぁ……はぁ‥‥…一体、いつまで続けるおつもりで……?まさか気づいていないと思っているんですか?貴方が決闘を終わらせてくれないことに。」


「ふっ……それを言うならお前もだ。この戦いを終わらせたいような口ぶりだが、終わらせたくないと思っているのが剣から伝わってくるぞ?」


酷く息を切らすラグリス。


剣術の腕に関し、私が上な事は彼ももう十分理解できているのだろう。


私がわざと終わらせていないことに気づいているようだ。


だが、彼だって同様。


体力が底をつき、息をあげているにもかかわらず目を輝かせ、

笑顔で声を弾ませ話しかけてくる。


そこには先程、不快に感じた彼はおらず、純粋に剣術を楽しむ少年のような男が立っていた。


(とはいえ……―――――――)


長引かせてこれ以上注目を浴びるのは良くない。


「とても楽しかったが仕方がない。終わらせようか、”ラグリス”。」


私は楽しいあまりに小さく笑みを浮かべ、ラグリス・ヴァン・ヴェルディンを呼び捨てで呼び、決闘に終止符を打った。


そして――――――――


「喜ぶといい、ラグリス・ヴァン・ヴェルディン。お前は負けた。しかし、おまえが勝利した際の条件に入れていたことを一つ、叶えてやろう。……お前を友人として認めよう、ラグリス。」


私はラグリスの剣を切り上げて宙を舞わせた後、彼の喉元に剣を突き付け笑みを浮かべながら言葉をかけた。


その言葉にラグリスは小さく笑みを浮かべつつ両手をあげ――――――


「俺の負けだ、”リーリス”。」


友人らしく私の名を呼び捨て、負けを認めるのだった。



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