10点
彼女の声が冷たく、低い。
彼女の表情が暗く、重い。
まるで私の知っているクッキーとは別人だった。
耳から血を流していた。確かに私の「大声」の魔法は届いたのだろう。
こちらの反応をうかがえるということは鼓膜がつぶれたということはないようだ。
あるいは、つぶれたが魔法を使って治癒したか。
どちらにせよ、彼女は私の前に立ちふさがった。
「手伝ってくれる気になったの?」
私が何も言えずにいるとクッキーが続けた。
彼女の後ろには狂気と思えるほどのレポートが山になっていた。床から壁、天井までも埋め尽くしている。この空間すべてが、彼女が魔法を使うために用意された場所だ。いつから用意をすれば、これだけのレポートが集まるのだろうか。
私は否定の意味で首を横に振ることしかできなかった。
「じゃあ、そこで見ててよ。私はやり遂げるから」
クッキーが笑みをつくる。
それは、苦行からの解放の顔にも見えた。
嫌だ。
「ダメ! ダメだよクッキー!」
「なによ! ヨウだったら何とかできたはずなのに! アンの死に対して怒らず悲しまず、何もしないで学校から逃げたあなたが今更わたしの前にでてきて! なんなのよ!」
なんなんだ。私のことをそんな超人のように言うのはやめてくれ。私はただの意気地なしだ。
「勝手なこと言わないでよ! 私はアンがいなくなったことはめちゃくちゃ悲しかったし、そうなった環境を憎んでるよ! 自分ごと!」
堰を切ったように言葉が溢れた。
「私はここに来る予定なんてなかったし、クッキーと再会する気もなかった!」
でも、再会できてよかった。これは本心だ。
「……そう。私はもう、いい。いいのよ。ヨウ。」
クッキーが
「よくない。させないよ。クッキー」
だから、私は徹底的にクッキーと対立することを決めた。
もう彼女は準備を整えている。口で「それ」を唱えるだけだ。今の今まで彼女がそれをしなかったのは、彼女が会話をしてくれていたからに他ならない。
魔法を打たせないなら、魔法のトリガーとなる発語の阻止。すなわち喉をつぶすのが一番だが、それをするにはあまりにも準備が整いすぎている。レポートの効力をつぶすのも、時間がかかりすぎる。それにレポートは術者への副作用の肩代わりをする力もわずかにあるぶん、それを潰すのは愚策となる。
まともに切れる切れるカードが一つもない。
それでもやれるだけ、やってやる。
できるだけ魔法の効力を絞る。目の前のクッキーに集中する。
「デ・マギファル」
「ソ・ヴァイ=レーニ」
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