なんで、来たの?
歩みを進める中で、砂の感触が一層鮮明に感じられた。それはまるで私の決意を試すかのようだった。クッキーに会えるのかどうか、答えが出ないまま走り続ける。しかし、その先に彼女がいると信じていた。
海から吹く風が潮の香を運んでくる。昼間の日の光は嫌というほど明るく水面で反射している。
魔法で届けた声に対しての返事はない。それでも、諦めるつもりはなかった。
ふと、遠くの海岸線に人影を見つけた。シルエットが逆光でぼやけている。クッキーだろうか? そんな簡単にはいかないとわかってはいるが、期待せずにはいられなかった。次第に輪郭がはっきりしてくる。
結果的に、クッキーではなかったが向こうは私を視認すると手を挙げて応えた。
「昨日の――」
「あんた。菊の友人?」
彼と私が言葉を発するのはほぼ同時だった。言葉が重なる。
目の前にいるのは昨日アクアリウムで会った男子だ。クッキーに悪態をついた彼。私は足を止め彼に懇願するように言った。
そうだ。私は菊の友人だ。
「クッキーの行きそうな場所、知らない?」
「菊に何かあったのか」
私のただならぬ様子を感じ取ったのか、彼は緊迫を纏った声で聞いてきた。
「わからないけど、今日朝起きたらいなくなってた」
彼はやはり、というか、私の進行方向を指で示した。そう、私は間違っていなかった。
「ここまっすぐ行くとさ、わりと大きな橋がある。その橋の下に小さな鍾乳洞の入り口があるんだ」
なんでこの町はこんなにも観光名所のような場所が多いのか不明だ。
ほんとに良い町じゃないか。
「なんなら、案内するけど」
といいつつも、彼は腕時計をちらりと見た。良い奴なのだろう。お人よしだ。
「いい。一人で行くよ」
すぐに決意を固めた。「ありがとう」と短く告げ、私は再び走り出した。
海岸線を進むうちに、次第に風が強くなってきた。砂が足元を擦る音が耳に心地よく響く。彼が言っていた橋が見えてきた。鍾乳洞の入り口があるという。
橋にたどり着くと、その下に広がる影が涼しげだった。鍾乳洞の入口は思ったよりも小さく、目立たない場所に隠れていた。それでも、私にはその場所が何か特別なものであるかのように感じられた。
「クッキー、ここにいるの?」
再び声を上げたが、洞窟内に反響するばかりで、返事はなかった。
しかし、洞窟の奥から微かな光が漏れているのを見つけた。それはまるで私を招いているかのようだった。恐る恐る一歩を踏み出し、洞窟内に足を進めた。
とうてい通路とは言い難い細い岩肌の道を進むと、急にひらけた空間に出た。そこにクッキーが立っていた。私が来ることがわかっていたのか、それともそれ以外の理由なのか私を待ち受けるようにこの通路に向かって正面に彼女は立っていた。
もちろん、雰囲気は立ちはだかっていた。が正しい。かもしれない。
「なんで、来たの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます