第74話
紫電一線、善鬼の伸縮自在の刺突が床に幾度もくり出された。
さらに、建物の外側のほうから驚愕の声が聞こえてくる。これは道鬼斎が鬼道、一夜城で土塁でもって床下の出口をふさいだせいで逃げ道を失ったことによるものだ。
追いつめられたことが敵を捨て鉢にさせたのか床板が猛烈な勢いで爆ぜる。
刹那、そこから姿を表わした鬼が口から蝗(いなご)の群れを吐き出した。文字通り、雲霞(うんか)が襲来した。剥き出しの肌の部分に鋭い痛みが無数に生じた。ただの蝗(いなご)ではなく、牙をそなえているために皮膚を破られ肉を齧(かじ)られる。
「しゃらくせえ」
銀光一閃、伸びた剣尖の一撃で善鬼が蝗を吐く鬼の喉を裂いた。転瞬、口が閉ざされる。それでも喉の傷口から蝗がすこし湧き出るが主が意志を失ったためか襲ってはこない。千代女たちに群がっていたものも含めて蝗はすぐに息絶えて床に落ちた。
とたん、次の鬼が床を割って現れている。仲間の死を視界におさめながらも、みじんの躊躇もなくこちらにせまってきた。
「くたばれ」「待て、善鬼。生かして最低一匹は捕えねばならぬ」
善鬼が一閃を走らせるのに対し、千代女の制止は間に合わない。
銀光が疾駆する鬼の首を薙ぐ。と思われた刹那、その軌道が不自然にななめ上に逸れた。
「なんだ」「我が鬼道は避来矢(ひらいし)、攻撃のすべてはおのれの身を避ける」
警戒心に目を細める善鬼に、肉薄してきた鬼が叫ぶ。
床下で動きまわるのに大きな得物は邪魔だったのだろう、左右に持っていた短い鉄の棒の一本を善鬼に向けてふりおろした。旋風(つむじ)を巻いて善鬼は避ける。“攻撃が避ける”となれば、切落しの一撃すら通用しない可能性を予期したのだ。
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