第21話
剣光一線、天使の剣(つるぎ)がメルショルを唐竹割にする。寸前で、銀光がそこに割り込んだ。切落し、の一撃が頭上からの攻撃をそらし、さらに天使の拳を裂いた。それを実現させたのは脇から現れた迅影(はやかげ)だ。
瞬間、千代女の一閃が天使の膝から下を消失させる。切断によって膝下の部位を地面に落下させたのだ。
「和睦のための使者に手出しいたす、それが南蛮浄土の者の流儀か」
道鬼斎がさらに八相の構えで相手への一撃の用意をしながら怒鳴る。もっとも、彼自身の言葉は相手に通じないため求められてメルショルが通辞していた。正直、天使に殺されかけた衝撃が頭から抜けずただただ入ってくる言葉をあちらの言葉に直している、そんな状態だ。
「和睦のための使者だと」苦しげに顔を歪めながらも翼をはためかせ天使は問うた。
「さようだ、かの死者たちは我らの仕業(しわざ)にあらず。記憶をたどられよ、我らが何かいたしたところを目の当たりになされたか」
メルショルの通辞の言葉に天使が反論の言葉を失くして黙った。
「もし、貴殿らに悪意があるのなら、我らはすでに貴公の命を絶っておる」「よかろう、ここは退くこととする」
千代女の言葉をメルショルは訳す。それが最後の一押しとなった。天使は憎々しげにおのれを睨む鬼たちを睥睨しながらも羽ばたいてその場から去っていく。ひざ下からはまだ血がしたたっていた。
「現実を受け入れよ、おぬし。すべての者を許す神などどこにもおらぬ」
通辞としては役に立ったもののあきらかに足を引っ張ったメルショルに、道鬼斎があきれと疲れの入り混じった声で告げた。
それでも、神(デウス)よ――という救いを求める言葉がメルショルの心のうちには浮かんでいる。話で聞いていたのと実際に天使に殺されかけるのとでは天地の差がある、自分たちが信じていたものが偽りであったという事実を嫌というほど実感させられた。だが、それでも信仰のすべてを葬り去ることはできない。
それをなしてしまえば、地上でのおのれの行いが無為に帰してしまう。そんなことはたやすくできるはずもない。誰が自分が築いてきた城をみずからの手で打ち壊すような真似をしたがるというのだ。
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