第50話 【10月20日】

 漫画家の友人へ借りていた本を返そうと電話を入れた。すると「お客さまの都合により…」とアナウンスが流れ、仕方なくボクは電話を切る(やれやれ、食うに困ってなきゃいいけど)。

 こんなことは別に珍しいことではない。今ではすっかり「自称:漫画家」になっている彼は、最近では漫画を描くことそのものからも遠ざかっているらしい。

彼とは学生の頃、アルバイト先(貸倉庫の管理会社)で一緒になったのがきっかけだ。ボクは受付事務で彼は倉庫の荷物運び専門だった。そこで働く者は大概細かいことは似合いそうもないソコツ者揃いだったが、彼だけは何気に異彩を放っていた。ある時ボクが一人で昼食を食べていると、思いがけなく彼が横に来て「一緒していいですか?」と聞いてきた。ボクが会釈して応えると彼は嬉しそうに傍に座りコンビニのレジ袋の中から小ぶりの弁当を出し食べ始めた。

「これ、二日ぶりのご飯なんです」そう言って彼は忙しく箸を動かした。その切迫した姿にボクはあれこれ詮索する気にもなれず、ただ黙って眺めていた。彼が漫画家ということはそれからしばらく経ってから聞いた。

「まあ、好きでやってるもんで、プロとかはあんまり…」そう言う彼の横顔は結構良い感じな精悍さだったが、本当はただ栄養不足だっただけなのかも知れない。

 夜再び電話をしてみるがやっぱり彼は出ない。少し不安になってきて今度はメールも打ってみた。

 彼の痩せた横顔がボクの脳裏を掠めた。

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