第38話 【10月8日】
気がつくと金曜日だ。この頃そんな週末が続いている。「三十越えると時間が経つのは早いよ」いつか知り合いの中年女からそう言われたことがある。その頃はボクもまだ独り立ちし始めたばかりで、全てが「そんなものなのか…」と素直に受け取るしかない時期だった。
ふと始めたダイエットももう生活の一部になりつつある。何も意識してなかった頃と比べるとものを見る視点が一つ増えた気すらする。風邪が一過性だったのは幸いだった。生活のリズムはなんとかキープされ、ボクはいつもの日常を人知れず繰り返している。
今の仕事に就く前、二年程まったく畑違いの仕事をしていたことがある。それは経済不況と自分と社会との微妙な折り合いの結果で、気がつくと自分でも「よくやれたな」と思うくらいのハードワークな仕事だった。
とにかく金が欲しかった。そして何かをしていたかった。そうでもしないと自分の心身がたまらなく身悶えする。まるで自分の体の隅々から「無為」という甲虫が這い出てくるみたいに。
「今だけよ。こんな仕事できるのは」それがその仕事で一緒になる者たちの挨拶代わりの言葉だった。それほど毎日が無茶苦茶な戦いであり、報酬のみを当てにする単純極まりない行為の連続だった。そしてその華やかさとは裏腹に、人はただ自分の周りを言葉少なに通り過ぎるだけだった。
そういえばあの頃のボクは生涯で一番痩せていたかもしれない。大柄の体が尚更大きく見えて自分でも「このままじゃ本当に男になっちゃう」そう怖くなったくらいだ。
あれからどれくらい経つのだろう。あの中年女の言葉は本当だった。いつのまにかボクはそれからも数々の出来事を掻き分けながらどうにかここまで生きてきた。
「なれの果て」そうボクは呟いてみて、その言葉のざらつきを秘かに楽しんでいる。
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