第30話 【9月30日】

「どうしても忘れなれないことを忘れるためにはどうしたらいいと思います?」

 昼休み、いつも不意にやってきては自分のことだけを話していく通称「ミッちゃん」が、今日は神妙な顔でそう訊くので「何かあった?」と思わず応えてしまった。その不覚に気づく間も与えず、彼女はまるで恋愛小説の筋をうつらうつら辿るが如く、それでいて聞く者の惰性を許さない勢いで小一時間話し続けた。

「…要は夏に知り合った男の人から急に連絡が来なくなって、それが気になって仕事も手につかないというわけね」

「そう」素直に頷く彼女の顔を見ながら、ボクはごく基本的なことに気がついた。

「あれ?ミッちゃん、彼氏いなかったっけ?」

「あはっ」ミッちゃんはペロッと認める笑いをすると「でもね~」と言ったきり今度は黙りこんだ。話はそれで終わり、らしかった。

 本当に人はいろいろ抱えているものだ。抱えても良いことばかりじゃないと分かっていても人はなにやら多くを抱えたがるものらしい。何故なのだろう?

 夜になって肌寒くなった。

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