第25話 【9月25日】

 ほんの少しだがジーンズのベルトが緩くなった気がする。改めて見てみるとベルトの穴が今までの不摂生の跡のように思える。

 季節はもうすっかり秋めいてきたが、昼間の日差しはまだ暑い。ボクは普段デスクワークの仕事が多いのだが、このところ上司のお供で外回りをすることもある。

「最近何かあった?」もともと口数の少ない上司が声をかけてきた。

「え?どうかしましたか?」ボクは咄嗟に返した。

「いや、最近何か良いことあったのかな、て」やはり遠慮がちな物言い。

「別に何もありませんよ。普通です」

 上司が私に気を遣っているのは前から気づいていた。職業柄女性社員が多いなか、何かと頼んでもいない噂をまかれることがある。それも本人は途中まで全く気づかず、ふと周りを見ると自分だけが動物園の稀少猛獣になっていたりする。

「本当になんでもありませんよ。最近よく眠れますし」それはきっと定着しつつある代謝運動のせいだ。

「だったらいいんだけどね」上司は胸のポケットからハンカチを出して、大儀そうに額の汗をぬぐった。

 人の上に立つのはいろいろ大変なんだろうな。ボクは今、自分についてどんな噂が立っているかということより、目の前の五十過ぎの後ろ姿の方が気になった。

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