五年間

「この五年間に何があるのですか。」

仁戸名も腰を落とし、ソントに声を掛ける。


「この二年の間にあなた方の他に、実はもう一組、クスラキン国の研究員さんがやってきていて。」


「クスラキン国?それに研究員の方がどうして。」


「クスラキン国が現在力を入れているのが、いわゆる能力開発で、その研究対象として、低開発国の中でも最下層に所属する我々が目に留まったようなんだ。」


「能力開発というのは一体。」


「そうだね。こういった支援にも様々な方法、方向、思考がある。他国の方が現地に赴き、現地民と一緒になって、土地を耕し作物を作ることによって生活の基盤を作ってくれることや、先進国の電子技術導入によって生活を豊かにしてくれること、あるいは学校を設立するなどによって教育体制を整えてくれることなど多種多様に存在する。」


「そうですよね。それに支援を行う多くの場合、その時だけ良くなるのではなく、どれだけ持続可能な状態にするのかという観点も必要となりますよね。」


「そう。クスラキン国が危惧しているのは、そこのようだよ。」


「そこ、というと?」


「持続可能というところだよ。ちなみに、先ほどの例のような支援で、3年後、初年度と同じクオリティーで継続しているものが、どれだけあると思う?」


「3年後でしたら、80%くらいはあるんじゃないですかね。」


「、、、、、、なんと60%しかないようなのだよ。」


「60ですか⁉」


「クスラキン国の研究では、そのような結果が出ているようだ。まあ、同じクオリティーというところが難しいかとは思うが、支援側の構想していた基準・水準を基に算出しているようだよ。また、その2年後、つまり支援した5年後には、30%にも満たなくなっているようだ。いずれにせよ、半分近くの支援が、形としては残っているけれども質が低下している、あるいは存在そのものが無くなってしまっている、という状態のようだね。最悪のケースでは支援を受けた国内でその技術や設備を巡って内紛が起きてしまうこともある。内紛が起きた場合、支援を受けた地域がそのままその土地を守り抜いたとしても、内紛の結果、人手が足りず継続しがたい状況になる。反対に、攻め入った側が内紛を制したとしても、技術や仕組みを理解していないので、第三者からすると必然的に、その瞬間から継続が難しい状況となる。」


「なるほど。。。。確かに、我が国が支援した村村も、継続して努力くださっているところと、そうではないところもあるようです。」


「支援を受けた側の努力次第でいくらでも持続できる、もちろん支援側はそこまで計算した上での支援だとは思うが、それでもそのように支援を受けた側の努力が続けることができていないということが実情のようだね。支援側からすると、これだけしてあげたのになんということだと、腹の立つお話かとは思うが、できなくなってしまう理由が色色とあるのだとは思うよ。」


「そうですね。努力だけでは、何ともならないこともありますからね。環境の変化や天災のようなものは人の力ではどうしても難しい部分がありますからね。技術についても、個人の持っている能力に依存してしまうものは、将来にどう受け継ぐか、ということでわが国でも議論されているところです。」


「そう。大小、種別、緊急性を問わなければ、世界どの国においても問題とされていることのようだね。」


「私もそのように感じます。なるほど、その研究の一環でこちらにも、つまりこちらの国でも何かしらの、物資供給以外の支援があったということですね。」


「いや、エジリスタ共和国には、物資の供給以外の支援は、これまでに一度もないよ。」


「一度も?それもそれで。。。。ん、ではなぜ、クスラキン国の研究員の方が?先ほど能力開発と仰っていたかと思いますが。」


「実はだね。半年ほど前から、クスラキン国から依頼があってね。我々は最初、反対していたんだが、情熱に押されてね。」


「え、えーと。そのつまり、、、?」


「ああ、申し訳ない。私としたことが、感情が溢れ出てしまったよ。細かな内容は言えないんだが、クスラキン国が開発したチップを導入することによって、私たちの能力が飛躍的に向上するんだよ。私は身を持って、その効果を知ったよ。この写真を見てくれ。」


「写真ですか?」


「これは約半年前の写真なんだが。」と言いながら、ソントは仁戸名に1枚の写真を手渡す。


それはエジリスタ共和国の役所の玄関で撮られたであろう写真だった。

風景は今とほとんど変わりなく、写っている人物もこの数日で見た顔が並んでいる。その中心に立っているのがソントである。


と、仁戸名は写真に写っているある違和感に気付く。

「、、、杖?」


「そう!さすがだね。私は2か月前まで杖が無ければ、満足に歩くことができなかったんだ。それが彼らの開発するチップを使用したところ、この通りさ。今ではジャンプしても気にならないし、山登りが必要な山菜取りだって、なんてことないさ。」


「クスラキン国が研究開発しているのは、医療器具のチップということでしょうか。」


「半分正解になるのかな。彼らの研究は医療に留まらず、広く生活全般に影響するものだよ。」


「そんなものが開発されているのですか。」


「にわかには信じられないだろうが。この技術は世界を変える、と私は期待しているよ。実際に私個人の生活も変えてくれた。」


「んー。。。」



―このようにして私はユレネイドの存在を知りました。また、これが私の今お話しできる限りのユレネイドの簡単な説明となります。


この時の私は、具体的な症状が分からないため何とも言えず、手術で何とかなるのではないかという疑問も残り、私はこのとき『チップである必要性』と『本当にチップで解決、改善したのか』という二つの疑問を抱かざるを得ませんでした。


ただ、納得のいっていない私の顔を見ながら、ソントさんは最後に、

「抜け駆けのように思われるかもしれないが、私たちも必死なんだ。この話はあなたを信用して、話をさせてもらっているのでね、、、。後は分かるよね。」と告げました。その様子を見て、嘘あるいは騙されているとは思えないなとは感じました。


正直この時は先ほどの疑問、疑念を抱いておりましたし、ソントさんとの信用の部分もありましたので、口外はできませんでした。今となっての謝罪となりますが、申し訳ございません。―


と、仁戸名は深々と頭を下げる。


「そんな大事なことを、あなたは10年も隠していたのか!」と、城之坂が眉間にしわを寄せて、仁戸名に詰め寄る。


「それは、本当に申し訳ないと思っております。ですが、これは私とソント国長との関係の問題なので。ですが、ようやく本日、この場をお借りしてお話することができました。感謝致します。」


仁戸名は城之坂を視界にも入れず、淡々とそう述べた後に先ほどよりも深く深く頭を下げる。


「今更誤ったところで何になる!これは国民として、許しがたきことだぞ。」


などと、城之坂の怒号が聞こえたところで、


『時間延長してお送りさせて頂きました当番組は時間になりましたので、放送の途中ですが終了とさせて頂きます。』と放送が途切れた。





、、、、そう。

これによって、この出来事によって。。。


この八〇年前の選挙で、並歩党が議席の過半数を取れず、政権が交代することになったのだ。そのせいで、今こんな腐った世界になってしまったのだ。八〇年前までの生活なんて見る影もない。たった八〇年でここまで変わってしまうのか。こんな光景、日本である訳がない。日本であって良い訳がない。


私は認めない。。。

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