抹茶ラテ

「真美、真美!」

真美と同じゼミで講義を受けている夏奈が、ゼミの終わりに真美に駆け寄る。


「なっちゃん、どうしたの?」


「先週、真美珍しくゼミ休んでたじゃん。心配してたんだよ?」


「あー。ちょっと体調崩してて。」


「そうなの?大丈夫?」


「今は大丈夫だよ!心配かけてごめんね。」


「大丈夫なら良いんだけどさ。まあ、今も結構急いでたみたいだし、元気はありそうだね。」


「急いで、、、?いつも通りに歩いてたと思ったけど。。。」


「そうなの?なんか早歩きな感じだったけど。まあ、色々用事あるんだろうけどさ。明日からの土日でしっかり休みなよ。」


「う、うんっ、ありがと!そうする。」


「じゃあ、また来週ねー。」


バイバイと、真美は夏奈に手を振り、大学の門も後にして、ふと息をつく。


「ふぅ。早歩き、か。」


― 今日は良い天気だし予定も無い。近くのカフェに寄って帰ろうかな。 ―


真美は、通学路の駅とは反対方向に足を進め、大学の近くにあるテラス付きのカフェへと足を運ぶ。


――――――――――――――――――


「良かった、テラス空いてた。」

真美は、いつもの抹茶ラテの濃いめを注文し、テラス席に腰を掛ける。

このカフェは特別美味しいという訳ではないが、大学の近くということもあり、他の学生もよく来ており、真美も何度か来たことがある。立地の良さが売りということだろう。


ここに来ると、他の学生の会話がよく聞こえる。

真美がテラス席を好むのは太陽を浴びて気持ちが良いという側面だけではなく、開放的になった学生たちの会話が弾んでそれが心地よい雑音になって気分を紛らわすことができたり、単純に人間観察ができるといった側面があるからだ。


今もそう。


季節は夏にも近付く5月。

半袖の男女二人が、仲の良さを周囲にアピールするかのように肩を寄せ合いながら、何かの本を見て、楽しそうに話をしている。


もう一組は、おそらく歴史学を専攻している女子学生が2人。

「ねぇねぇ。」

「ん?」

右に座っている学生が、左に座っている学生に分厚い本の1ページを指差している。

「こうして見るとさ、昔ってこんな街並みだったんだね。」

「あー。そうだよね。中学高校の時に一応習いはしたけどね。今ちゃんと学んでいくと改めてびっくりだよね。」

「ねぇー。あれだよね。確か、法律でこうなったんだよね。」

「そうそう。昔は地上に家とかマンションがあったんだよね。でも、犯罪とか車両事故とかが多くなって、それを防ぐために人が住む目的の建造物はすべて地下に建て替えていったんだよね。」

「どの家もマンションも玄関からしか入ることができなくなってるし、防犯のセキュリティーもすごく上がって家に関する軽犯罪は減少したらしいよね。津波のときもシェルター代わりになるような構造もされているし。」

「ただ、デメリットも大きいんだよね。地上よりも建築技術が数倍も高くなること、外へ出ないと日の光を浴びることができないこと。昔から変わらず、地震大国の日本で、地震の揺れをより近くで感じてしまうこと。その他にも色々ね。」

「また数百年後どうなっているか。私の研究していきたいところだわ。」

「お、そっちだったのか。」

「実はそうなのよ。」

「私はね、、、。」

と、割とまじめに勉強の話をしている人もいる。


「お待たせしましたー。抹茶ラテでございます。」

「ありがとうございますっ。」

真美は、読んでいた小説を閉じて、抹茶ラテを手に取り満面の笑みを浮かべながら、ストローに口を付ける。

「うん、絶妙に濃い。」

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