第26話 オヤナ村4

「勇者見せてやれ」

 勇者は指を鳴らすと、辺りの平原から無数の小さい炎が噴き出す。

「これが炎の魔法だ。炎系の魔法は勇者のほとんどが使えていたな」

 勇者の方を向いた村長は

「もっとレアなのを見せてやれ勇者」

「おっし」

 手を開いて上げる。そして中心に向かって下げる動作をする。細い雷が地面に落ちた。

「雷系が使えていたのは勇者の三割くらいだな。それでは一番レアな氷系魔法だ」

 勇者は歯を食いしばるが特に何も起こらなかった。

「ちなみに我らの勇者くんは氷系は使えない。氷系は勇者の一割も使えていなかった」

「俺は氷魔法が使えたらかっこいいと思ったんだけど、氷をイメージしたら、何故か雷魔法が使えるようになったんだよ」

「村長さんは勇者に詳しいようだけど、消える前の勇者の事を知ってるの?」

「ああ、わしは勇者と魔族が戦っている時からよく知っている。当時の勇者パーティはとても強かった。残念だが、この子達はそれに比べたらまだまだだ」


 村長はプリシラの方を向いて

「さあだいたい魔法については分かったろう。使えるかどうか試してみてくれ」

「うーん、イメージすれば出てくるの勇者君?」

「多分ね」

 右手に集中し氷をイメージする。

 プリシラの足元の地面に霜柱が出来て凍ってゆく。

「姉ちゃんスゲーな一発で」

「そうね、これでアイスゴーレムに頼まなくても暑い日も安心だわ」

 村長は遠くの山の方を指さし

「それでは、どれくらいの威力があるのか思い切りやってくれないか?氷魔法が出来るなら、炎魔法も余裕だろう。あの小さい山をめがけて火球を最大にして投げてくれ」

「火をイメージするのね」

 右手の上に火の玉が出来てだんだん大きくなっていく。

「なんか暑くなってきたな。汗が出てきたぞ」

 プリシラから離れる勇者。

「火球の中心にエネルギーを凝集する感じだ」

 村長は手を合わせるジェスチャーをする。

 火球が小さくなっていく。

「もうこれ以上、魔力をこめるのは無理だと思うけど」

「じゃあ山に向かって飛ばしてくれ」

 火球は飛んでいき直ぐに見えなくなる。そしてものすごい轟音と共に小さな山が消し飛んだ。

「すごい威力だな」

「あれ?私の右手が動かなくなったんですけど」

「小夜」

「駄目ですおじいちゃん。魔族の腕にヒールは出来ません」

 村長はプリシラの前に来て右腕に触る

「どうやら右腕だけの魔力の容量しかないようだ。他の部分は普通の人間だから、それもそうか。普通魔力は体で練るものだ」

 村長は腕を組み「戦いでその腕は強力な切り札になるだろうが、使いどころが難しいようだな」

 そして勇者を見て

「いつまで腰を抜かしとるんだ勇者」

「いやーこんなの見たら自信なくすぜ村長」

「まあ、最近調子に乗っていた勇者にはいい薬だ。お前なんかより強い奴は、いくらでもいるという事だ」

 がっくり肩を落とす勇者。

「その魔族の腕の力はよくわかった。何度も言うようだが村人に見られてはいかんぞ。それじゃあ、わしは帰るが夕飯までは家に戻るんだそ小夜」

「分かりましたおじいちゃん」

 村長は丘を下りていく。


「それじゃあ私達はお昼ご飯にしましょうか」

「ここからは森の狩場が近いから、そこで獲物を捕まえて昼飯にしようぜ」

 勇者は森に向かって走っていく。

「落ち込んでたのに直ぐに元気になったね」

「まあ、それが勇者くんのいいところですから」

 三人が勇者に追いつくと、勇者は雷魔法でウサギや猪を動けなくしていた。

「矢を当てて苦しませてから殺すと、肉が不味くなるんだよ。だから俺はこうやって直ぐに捌くんだ」

 プリシラは動物を殺すところを見たくなくて、自分の眼を覆う。

 それを見た勇者は「可哀そうだけど、俺たちが生きる為にはしょうがないんだ」

 勇者は手早く獲物を捌くと、直ぐに見慣れた生肉ブロックが出てくる。

「よし串に刺して焼いて食べるとしようか」

 積んであった木の枝に魔法で火をつける。

「本当は炭がよかったんだけどしょうがないか。村の姉ちゃん達にも勇者くんの持ってくる肉は美味いって評判いいんだぞ」

 それを聞いた守の表情は曇り、下を向いた。

「ねえねえ小夜ちゃん」

「なんですかお姉さん?」

「守君はなんで村のお姉さんの話になると面白くなさそうな顔をするの?」

「それは村のお姉さん達が勇者くんばかり可愛がって贔屓するからなんです」

「私はたまたま聞いたんですが、勇者くんはおもちゃでバトルする少年に似てて、とても可愛いという事らしいです」

「なにそれどういうこと?」

「さあ私にもわかりません」

「それに守くんは勇者くんに比べてむっつりというか、あまり村のお姉さま方の興味を引かないようなんです」

「小夜ちゃんも言うわね。でも私は守君も可愛いと思うけど」

「それを本人の前では絶対に言わないで下さいねお姉さん。調子に乗るから」

「あっそうなの?厳しいわね」

「それはお姉さんが守くんを良く知らないだけです」


「おいそこの二人、肉が焼けたぞ」

 勇者と守はもう肉にかぶりついている。

 そこに向かうプリシラと小夜。

「塩と香辛料が足りなかったら、ここにあるから好きにかけてくれ」

勇者が小瓶を指さす。

 プリシラは串を土から抜いて「豪快だね」と言って肉にかじりつく。

「ジューシーで美味しいわ。こんなのを毎日食べてるなら町で料理なんか食べなくてもいいんじゃないの勇者くん?」

「姉ちゃんはわかってないな。プロのシェフが作る料理は全然違うんだよ。焼き加減とかソースとか、全然違う」

「勇者くんは町に通うようになってからグルメになってしまったんですよ」

 守は勇者の顔を見てにやりとする。

「明日は勇者の分まで俺たちが美味いもの食べてきてやるからな」

 勇者は悔しそうな顔になり

「くそ、なんで俺だけ留守番なんだよ」


 それからも村の周りの名所を案内され、プリシラは三人と親交を深めていくのだった。

 そして夕方になり勇者、守と別れた小夜とプリシラは村長の家に戻る。

「おじいちゃんただいま」

「おお、小夜とプリシラ戻ったか」

 村長は小さな眼鏡をして、机に置いた図鑑を見ていた。

「何を見てるんですか?」

「この羽なんだが、お前さんを助けた時に直ぐ近くに落ちていたのだ。図鑑を見ても良く分からなくてな」

 村長は羽の根元を持ってクルクル回転させ

「こんな大きな羽を持っている鳥を、この辺で見たことはないのだがな」

「あっ」と言ってプリシラはその羽を取り、眼の前に近づけて見る。

 これはスナミちゃんの羽だ。いや、でもスナミちゃんは死んだとゲスールは言っていた。

 プリシラはさっき子供たちが言ってたことを思い出す。この村は外からわかりにくくて物見櫓の村人が常に監視している。私の知る限りは侵入できるのはスナミちゃんの能力くらいしかない。

 村長、小夜と食事をしながらプリシラの頭の中は、スナミの事ばかりになっていた。

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