姫だった2人
「そっか、そんなに、素敵な友人が...」
ハモニカは涙をボロボロと落としながら感想を語っていた。
「うん。あの人に恥じない生き方をしたいとは思うんだけど、具体的には全く分からないんだよね。」
まだ知らないことだらけなのだ。
少なくとも、向こうで話す時に、私の方が世間を知っていて、世間知らずって言い返してやるくらいには、楽しく生きたいと思っている。
うーん。と2人で唸っていると、ハモニカが声を出した。
「まあ、人生まだ長いもの、ゆっくり出来ることを増やしていけばいいと思うわ。」
それはその通りだ。
「そうだね、もう、追われることは無いもんね。」
なんだか安心したら、すっと眠くなってしまって、
「あらあら、夜更かしには慣れてないのね。」
なんてハモニカがからかうのをよそに、寝る挨拶だけしようとした。
「おやす...」
最後まで言えたか分からないけど、フッと意識が飛んだ。
最初に顔を見たときは、赤子のようだと思ってしまった。
目の前で眠っている元お姫様は、私とは全く異なる環境で育ったのだと、たった今知った。だというのに、私はその生き方を強いと思った。きっと、私とは違う強さなんだと。理解できたような気がした。
私は、自分の進みたい道を決め切れていない。戻りたいのか、戻りたくないのかすら。
だからせめて、心が決まるまでは、ロウからその強さを学ぼうと思った。
私よりも強い人の子なんて、いくらでもいるんだって、来米とロウを見て確信した。
勝手な推測だけれど、きっと私とロウってそんなに年齢変わらないと思うのよね。
まだ完全じゃないけれど、未熟でもない。足りない部分はあるけれど、何もかもが不足しているわけでもない。
だから、えっと・・・。
そうだ、私はロウを助けたいし、いざとなったらロウに助けてほしい。って思っているんだ。
ロウの心は、私にとっての憧れの一つなのかもしれないな。
隣で寝息を立てる少女の顔は、とても可憐でいつでも傷つけることができるけれど、私よりも強いのだと考えると、羨ましいような、少し悔しいような。
なんていうか、具体的なことはわからないけれど、私はこの人の子を認めているんだなって、そう思った。
目を覚ますと、隣の布団にはハモニカの寝ている横顔があった。
全身が私よりも大きいからか、枕の位置も高い。角はつややかで、触ったらすべすべしていそうだと思うけれど、さすがに失礼にあたるかもしれないから手を伸ばすことはできない。
胸の内を話す友達なんて、初めてかもなぁ。
そんな事を思いながら、ハモニカが起きないように静かに部屋を後にする。
朝の支度をしながら、昨日のことを思い出していた。
私は、ここで巫女としての仕事をすることと、学校に行くという仕事をすることを決めたんだ。それと、なんだっけ。
色々と言われたことがあったけれど、なんだか感情が昂っていたせいか、明瞭に思い出せない。
あと、自分で選ぶように言われたんだっけな。人の言葉を信じるかどうかとか、何をするべきなのかとか。うん、大体思い出した気がする。
思い出した気になったので、来米さんを探して、指示を煽ごうと思い、探し始めた。巫女服を渡されるのか、はたまた通うことになる中学校を案内されるのか、それとも何か、別にやってほしいことがあったりするだろうか?
とにかく、助けてもらった人の頼りになりたい気持ちのまま、来米さんを探し回って、やっとの思いで見つけた頃には、足が痺れていた。とっても
「おや、ロウは朝早いんだね。」
そう言う来米さんは、廊下を歩いてどこかへ向かっているところだった。袴姿で、上半身は白い服装で、袴は青色。というよりも、空色だろうか?
「はい、速く起きてしまって・・・。」
何を言うか悩んでいると、来米さんのほうから話を振ってくれた。
「これ、浅葱色(あさぎいろ)って言うんだ。会社で言う所のスーツみたいなものだから新調したものだけど、きれいだろう?気に入っているんだ。」
キレイと同時に高そうとも思ったけれど、値段は気にするべきではないのか。
「はい、えっと、とっても涼やかで素敵だと思います。」
色を褒めるべきだとはわかるけれど、どんな形容をして褒めるべきなのか、少し迷ってしまった。
その迷いに気付いていないのかと疑うほど、来米さんはその感想を素直に受け取ってくれた。
「そう言ってくれてうれしいよ。そうだ、忙しくなければ君の袴があるか確認したいんだが・・・時間を貰ってもいいだろうか?」
待ちに待ったどころではない。そのためだけに来米さんを探したと言っても過言ではないため、大きく頷きながら答えた。
「もちろんです!よろしくお願いいたします!」
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