第3話
「こんな教え方しかできないとか、ほんとざぁーこすぎぃ~ww」
「ねぇ~さっきから視線が変態~ww きもすぎ~」
「さっきからえーっとって、何十回言ってんのウケる~ww 陰キャすぎ~」
ざこすぎ。きもすぎ。陰キャすぎ。かれこれ一時間以上、家庭教師をしながら俺はこれらの罵倒を浴びせられて来た。
確かに昨日までとは全く違う椿ちゃんの姿に驚いて若干引いていた部分ももちろんある。それで対応がすこしばかり変わってしまったかもしれない。
だがしかし、それにしてもこれはあまりにも酷い言われようではないだろうか。
今までの椿ちゃんは肌が透き通るように白く、頭上に天使の輪が浮いているのかと錯覚するほどの美しいロングヘアに、言葉遣いは丁寧、こんな俺でも尊敬できるお兄さんです、と言ってくれるような良い子だったんだ。
それがなぜ、口を開けば口癖のように『ざぁーこww』と言うような褐色ツインテメスガキなんかになってしまったんだ……。
今も冷房はそこそこ効かせているはずなのだが、ひとしきりに椿ちゃんは「あっつー」と呟き、俺の様子を落ち着きなく確認しながらスカートの裾や制服の胸元をはためかせていた。
黒のレースが目立つ、そんなものどこで手に入れたのかとお兄ちゃんとして小一時間ほど問いたくなるようなパンツを履いていたが、椿ちゃんは完全に俺の妹なのであるからして、一ミリたりとも興奮しないのだ。
胸元は中学生相応、といえば言葉は良いが、端的に言うと貧乳である。姉の菫とは三年の差があるとはいえ、あと三年で菫のサイズ感まで育つとは思えなかった。というか、菫が少々規格外なのである。
まぁ、姉妹のπ事情はここまでにするとしても。仮にも兄に近い存在として今の椿ちゃんを野放しにしてはおけないのは確か。
かといってこの状況から完全無欠な着地点に着陸させるにも、人生経験があまりに足りない。
だから、一つだけ。これからの処置のために、確かな事実を確認しておこう。
おそらく。推測の域を出ないのだが。というか、絶対出てほしくないんだけど。
【巨ちん先生の褐色メスガキ本(サイン入り)×50が見つかってしまった!!!!!!!】
ということだろうか。
僕は至って冷静だ。うん、それは間違いない。
だけど一番初め、椿ちゃんに「こういう女の子のことが、サイン貰ってそれ全部保管するほど好きなんでしょ〜w w」と言われ一瞬で先ほどの事実に到達してからというもの、手の震えと冷汗が一向に止まる気配を見せないのはなぜなのでしょうか。
いや、だが、しかし。
まだ、まだあの段ボールの中身を見られたということが確定したわけではない! もしかしたら俺がニッチな趣味を持っている確立にかけて椿ちゃんがコスプレをして……いや、椿ちゃんそんな恰好するメリットなくね?
……いや、だが、うん。シュ、シュレディンガーのメスガキだから……。うん……。まだしっかりとした事実確認ができたわけじゃないから……。
とりあえず、椿ちゃん(褐色メスガキモード)を相手にしながら、なんとか残り時間を終えた。
ここでもまだ何かごねられる覚悟はしていたのだが、意外にも「またよろしくおねがいしますね、ざこレイジおにーちゃん♡♡」という言葉だけを残して部屋を出て行ってくれた。
一応、玄関まで見送りドアが閉まったことを確認したタイミングで、自分でも信じられないスピードで階段を駆け上がり部屋に入る。一瞬でも早く例の段ボールにたどり着こうとしたせいで勢いよくカーペットで滑って膝を打ち付けたが、痛みなど気にしている暇はない。
そのままの体勢で段ボールへと手を伸ばし開いた――が。
二列に並び重なった褐色メスガキ本たちは、一昨日見たままの姿を保ち、メスガキらしさなく、整然と重ねられていた。
「な、なんだよー……驚かせやがって」
この段ボールの中身を見られていないにしろ、いろいろと問題は山積みではあるが、とりあえず幼馴染であり妹のような存在である椿ちゃんにロリコンで褐色メスガキ好きの変態、というレッテルをはられなかっただけ一安心ではある。
一息ついてから、立ち上がり同じように段ボールを閉じて、ベッドの下に収納する。
段ボールを閉じて、収納。
なぜか。なぜだろうか。このたった二つの動作なのに感じる、あまりにも決定的な違和感。
閉じて、収納。
閉じて、閉じて。
……あれ、そういや段ボールの中身って、もうちょい入ってなかったっけ?
全身から血の気が引くような感覚が襲いかかり、脳が最も近い事実を否定する。
だがしかし。
45、46、47、48……個。何度数えても、48個。
「2個、ない……?」
確かに俺は先ほど確認していた。二つ並んでいるうちのどちらかがとられていれば、高さの差が生じるはずだからという具合に確認していた。
だが、これは一冊だけ持っていかれていた場合のこと。まさかそんな、物好きでも二冊も持って行くなんて、考えるはずがない。
だからこそ騙された。いや、騙された、というよりも俺が楽観的、希望的観測に賭けすぎていた。冷静で、一般的な思考回路を有していたのならば勘づくはずだった。
やはり、どれもこれも、50冊も送ってきた巨ちん先生、いや、ロリコン変態TE〇GA野郎のせいであった。
―――――
午後9時。窓の外は暗闇のカーテンで仕切られ、部屋の白球が使命を果たしながら外の夜闇から俺の部屋を型どっている。
ぽつりぽつりと窓の外にある街灯をぼーっと眺めながら、それはもう深く溜息をつき、目の前の画面に向き合った。
「おい。本当にどうすんだ。どうしてくれんだよぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
『草。誠に草』
『もしかしてオコメ先生って俺たちと住んでる次元が違ったりする?』
「草生やすな! 人を二次元の住人扱いすな!!!」
今現在、この事件の発端となった時のグル通のメンバー、巨ちん先生と脳丸先生を呼び出し緊急会議中なのである。
現実に相談できる人がいない、というわけではないのだが、事情が事情だ。メスガキ物のエロ本が見つかって幼馴染の妹がメスガキになったなんて相談できるのなんて、この二人に限られてくる。
だが、あるがままに説明して相談をした途端、この対応だ。若干、というかかなり相談したことを後悔していた。
『はぁー。おもろいおもろい。絵師先生がコミケで売り子してもらった子とオフ〇コとかいう都市伝説は知ってるけど。こんなことが周りで起きるなんてなぁ……俺の本に感謝しろよオコメ先生』
「誰が感謝なんてするか。こちとら今まで欠点がない優しいお兄ちゃんとして頑張って来たんだっ!! そのためにエロ本はすべてデジタルで買い、部屋のどこにもそれらしい物なんて一つも置かずに来たんだっ!! それがっ、あの段ボールひと箱で……うぅっ」
『間違っても数百冊単位のエロ本をデジタルに所有していて、なおかつ学業の傍らエ〇漫画を書きまくってる奴の言動にはおもえないな』
「……とりあえず俺も勇気を振り絞って二人に相談したんだ。何か、何か相談して良かったって思えることを言ってくれよぉっっ!!」
そういってもヘッドフォンから聞こえてくるのは巨ちん先生の笑い声。俺は諦めて肩の力を抜き、椅子の背もたれに勢いよくもたれ掛かった。
ギィッ、と椅子が溜息にも悲鳴にも聞こえる音を出し、それに合わせて俺も溜息をついた。
『現状、巨ちん先生のメスガキ本が持っていかれてしまったことは仕方がない。今更返せといっても、おそらくその本を読んでしまったことは確か。なので、この処置はあまり効果があるとは言えないし、第一オコメ先生が気まずいでしょう』
脳丸先生は唐突に語り始める。容疑者が一堂に集まった場所で唐突に推理を話始める名探偵のようだった。
『それじゃあ、今の状況は、その子がメスガキになった、という事実だけ』
先ほど脳丸先生が唐突に語りだした時に感じた、何物にも代えがたい脳丸先生の安心感は一瞬の虚像だったらしい。
『じゃーあ答えは簡単っっ!! 『わからせ』ればいいんだよオコメくぅんっ!!!』
本人も探偵風の自覚はあったのか、俺を助手に見立てたらしい。
『メスガキは――もちろん個体によって誤差はあるが――『わからせる』という儀式を得れば素直にいうことを聞くのだよ! そうだろ巨ちんくんっ!』
『そうですね。もちろん個体差が激しいのは事実ですが、メスガキのほとんどが大人の怖さを知らず自分が最も優れている、もしくは自分は何をいっても許されるという認識をしており、この認識があながち間違いでは無くなってしまう現代社会の甘い蜜を吸ってきているのでとことん「怒られる」という経験をしたことがありません。ですから、大なり小なり、今までに経験したことのない得体の知れない恐怖を与えると大体静かになります。もちろんメスガキに罵られること自体が快感と考える人もいるため、難しいところですが――』
『うん、ごめん。ごめん。巨ちん先生に聞いた俺が馬鹿だった。もう大丈夫ですので……ま、まぁ、気を取り直して。要するに、オコメ先生は幼馴染の妹ちゃんを元に戻したいと。それなら、『わからせる』という方法が最も良いのではないかな、と』
「そんな……分からせるって言ったって。現実なんだからそんなことしたってどうなるんだよ。それに、分からせるって、一歩間違えたら犯罪じゃん俺」
うぅーん、とヘッドフォン越しに唸る脳丸先生。
『いや、でもその子はもうメスガキ本を読んでいると仮定していいんだよな?』
「うっ……ま、まぁそうなります」
『じゃあ、話は早いじゃん。分らせちゃおう。だって、今回の巨ちん先生の同人誌は分らせが結構出てきたでしょ? その本を読んだ上でメスガキになるっていうことはつまり、わからせてほしいってことなんだよオコメ先生』
何度か頭の中で思考を巡らせて、なんども巨ちん先生の同人の内容を思い出しながら結論を出した。
「……分かった……そうする。でも、分からせるって言ったって、手を出したらもちろん犯罪だし、分らせ方なんて俺……」
『おぉう。そういうことなら、この俺様に任せな。1から100まで、事細かーに教えてやるぜ』
と、名乗りを上げたのはもちろん巨ちん先生。なぜか、この時だけは巨ちん先生がすっごくたくましく見えた。
「じゃ、じゃあ。よろしくお願いしますっ!!」
こうして、紆余曲折ありながらもメスガキ分らせ計画が始動したのだった。
近所のメスガキ分らせたら幼馴染がメスガキになった 和橋 @WabashiAsei
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