椿と噂の真相2
朝早くの学校。
部活の朝練の人もいない。
その人影は音がしないよう、静かに教室の扉を開けて教室に入る。
カバンから出したのは白い封筒。
それを机の上に置く。
そこは守間清臣の机だった。
「おはよう」
声がして慌てて振り返る。
手紙を隠そうとしても遅かった。
少し暗い笑顔がこちらを見る。
「早いね、舞香。」
相手は――椿は、舞香の手元に視線を落とす。
「どうしたの、それ。まさか……ラブレター?」
かなりの厚みがある手紙。
椿はそれをスッと舞香の手から抜き取る。
「ごめんね、悪いことだってわかってる。」
張り詰めた顔で、封を切った。
「やめ……て。」
舞香の声はあきらめに満ちていた。
封筒から出てきたのは数枚の写真と、脅迫じみた文言の手紙。
背面が見えていた写真を裏返す。
そこにあったのは清臣の盗撮写真。
その全てが学校にいる時のものか、登下校中のものだった。
その大半には椿も映っている。
どうやら裏の世界に関する仕事のことはバレてないみたいだった。
「つけたの?」
舞香は気まずそうに視線を逸らすだけで答えない。
「自分がしたこと、わかってる?」
舞香は言いわけすらしなかった。
「ねえ!」
椿が詰め寄るように舞香の腕をつかむ。
舞香はそれを避けて言う。
「あなたのせいよ!」
思ってもみない言葉だった。
「あなたの隣には、いつも私以外の誰かがいて、あなたは私のことなんて見てなかった!」
感情に任せたような言い方だった。
舞香は荒い呼吸に肩を上下させている。
椿は静かに返す。
「それが、臣に迷惑をかけることと何の関係があるっていうの。」
舞香は拳を強く握ったままうつむいた。
強く唇を噛んだ。まるで何も言わないという意思表示のように。
「なにか理由があるなら言って。」
そう、信じたかった。
長い沈黙の後、舞香は大きなため息をついて、前髪をかき上げる。
「あーもう、いいや。バレちゃったんだもん。」
ゆがんだ笑顔がそこにあった。
「私、椿ちゃんのこと好きだったの。」
椿は表情を変えない。
でも、その奥に困惑があることが空気を通じて、ひしひしと伝わってくる。
「好き、ってもちろん、友達としてじゃないわよ。恋愛感情として。」
舞香は笑いながら吐き捨てるように言う。
その笑顔の奥には怒りがあった。
「でも、あなたは私のことなんか見ていなかった。私の気持ちにすら気づかなかったでしょう。」
だんだんと息が苦しくなってくる。
好き?――恋愛対象として?
そんなそぶり、舞香が見せただろうか。
そもそも、恋愛感情としての好きと、友達に抱く好きってなにが違って――
そんなことじゃない。
舞香は間違いなく、椿に好意を抱いていた。
だが、椿はそれを友達への好きと勘違いしていた。
椿がそうだったから?
舞香がそんな風に言ったことはなかったから?
――同性だから?
「舞香……」
椿は舞香のほうを見れなかった。
「ごめん……私は、舞香のこと、ちゃんと見てなかったのかもしれない。」
舞香は震える瞳で椿を見る。
変に力の入った瞳は椿をにらみつけているようにも見えた。
「でもね……」
泣きそうな椿の声。
うつむいた顔の影が濃くなる。
「性別とか、恋愛感情とか、そんなの関係なしに、誰かを貶めるような人は嫌い。」
舞香は顔を手で覆って、前髪をくしゃくしゃにした。
乱暴に息を吐き捨てる。
言いたいことは山ほどあったのに一つも言葉にならない。
舞香はぎゅっと強く目をつむって、踵を返す。
強く閉められたドアの激しい音が響く。
静かになった教室で、椿は一人しゃがみ込んだ。
嫌い。
自分の言葉が耳の中で反芻する。
わかってる。
わかってた。間違ってるなんてこと。
あなたのせいじゃないってことも。
怖かった。
自分の本当の気持ちも、友達に対する好きだって言い聞かせてきた。
もし本当の気持ちを伝えたら、椿に嫌われるかもしれない。
それが怖かった。
それなのに、割り切ることもできなくて。
椿の守間くんに対する特別な気持ちを知って、椿が守間くんと付き合うのが嫌だった。
そう、全部自分勝手な私のせい。
あんな顔、させたかったわけじゃいのに。
あぁ、あぁ、あぁ!
最悪だ。
舞香はカバンをリビングのソファに投げつける。
「なんでよ!」
なんで、とか。
全部、わかってる。
ごめんね、椿ちゃん。
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