第25話 逃走
キネスはアパートを後にすると街から出る為に歩き出す。
現在、この国は監視が厳しくなっている。
幹線道路上には検問が設置され、自動車の往来は厳しく調べられる。
警察官のパトロールも強化されており、職務質問は当たり前であった。
キネスは旅行鞄などは所持しない。大荷物はより疑念を抱かせる。
まるで近所に散歩に行くような格好で街中を歩く。
目線もあまり彼方此方を見渡さない。
少しでも怪しいと思われたらすぐに職務質問をされるし、場合によっては警察署に連行され、尋問を受ける。
何とか街中で警察官に捕まる事は無かった。
だが、街から出るには検問を通る必要があった。
女一人が街から外に出るのを見逃すはずは無かった。
キネスは途中から狭い路地へと入り込む。路地伝いならば、街の外へ出れるだろうと言う憶測だった。
こんな場所を歩けば、発見された途端、怪しまれるのは必至。
キネスは万が一の為にスカートのポケットに入れた折り畳みナイフを手にする。
バタフライナイフを呼ばれるそれは半分に分割された柄を割るように開くと刃が現れる仕組みであり、柄をクルリと360度回転させるだけでナイフとして使えるようになる代物。片手で操作が出来るようになっている。
かなりの早足でキネスは路地を抜けようとしたが、偶然にも2人の警察官に発見されてしまう。彼らはキネスを見て、僅かに驚いた様子だが、すぐに駆け寄って来る。
「お嬢さん。話を聞かせてください」
彼等は笑顔で接しているが、その瞳は疑いに満ちていた。
このままでは拘束されると感じたキネスはポケットに入れた右手を抜く。
彼等に向かって、素早く飛び込むと同時に右手のナイフはクルリと柄が回り、刃を剥き出しにする。
訓練されたナイフ捌きは警察官に防御をさせる間を与えず、一人の首をかき切った。
血が飛び散るのを無視して、キネスはもう一人を狙う。
だが、流石に一人がやられている間に彼は距離を置いて、腰の警棒を抜こうとしていた。
キネスは警棒に伸ばした右腕を切りつける。
警察官は痛みに悲鳴を上げつつ、警棒を抜いた。
だが、キネスは体当たりを食らわしながら、彼の横っ腹にナイフを刺す。
そのまま、キネスは彼を突き飛ばした。刃は腹から抜け、そこから出血が始まる。
警察官は地面に転がったが、彼は力を振り絞り、左手で笛を掴み、口元に運んで、鳴らした。
甲高い音が路地から鳴り響く。これは警察官が味方に緊急を告げる笛だ。
キネスは咄嗟に頭を蹴り飛ばし、それを止めさせるが、時すでに遅かった。
一度でも鳴れば、近くの警察官がここに集まって来る。
返り血もわずかだが浴びてしまったキネスには強攻突破しか方法が無かった。
ナイフをポケットに戻し、肩から提げた鞄から拳銃を取り出す。
護身用の小型自動拳銃。22口径で殺傷力は低いが、隠し持つには手ごろだった。
キネスはとにかく路地を駆け抜ける。
幾度か警察官と遭遇する。一瞬、撃ってしまおうかと思うが、彼等はキネスを僅かに見るも笛が鳴った方へ急ぐことを最優先にしたお蔭で、やり過ごす事が出来た。
そして、彼女は街の外へと出る事が出来た。
だが、そこからが問題だった。
国境までの道のりは遥かに遠い。
徒歩なら1ヵ月程度は掛かるだろう。
キネスは途方も無い逃走を覚悟して、郊外に広がる田園の中を潜みながら進んだ。
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