第58話黄泉の扉



 熱さと爆風で目を開けて居られない。すぐに飲み込まれると思っていたのに、不思議なことに熱さが収まってしまった。

 恐る恐る目を開けたアメリアの視界は影に覆われて暗くなっていて、混乱しながら顔をあげるとそこには、巨大な鉄扉が空中に浮かんでいた。


「え……? なにこれ……?」


 どうやらこの鉄扉が盾となり炎がこちらまで届かなかったようだ。

 誰かの魔法か、それとも……とアメリアが驚いていると、それはキリキリとガラスをひっかくような不協和音を立てながら、ゆっくりと下降してきた。


 空から突然現れた謎の鉄扉。突然現れたそれの不可解さにアメリアは息を呑む。


「これは一体……?」


 謎の鉄扉は地面に降り立つと最初からそこに存在していたかのようにそびえ立つ。

 扉が降り立った場所には、見たこともない魔法陣がいつの間にか描かれていた。

 

 赤黒い、血のようなもので描かれた魔法陣。

 これを見て、ようやくこの鉄扉が魔術によって召喚されたものだと気が付く。

 術者は誰だ……とアメリアが警戒して身構えていると、隣に立つピクシーがにこりと笑いかけてきた。


「アタシの血を使って魔法陣を描いたのよ。間に合ってよかった」

「え? まさかピクシーが魔法陣を?」


 いつの間に? というかどうやって? 魔物であるピクシーが、どうしてそんなものを描いたのか、いや、描けるのかと疑問が渦巻くが、ピクシーはニコニコ笑うばかりで説明をしてくれそうもない。


 よく分からなくて困っていると、ひょっこりとケット・シーが現れた。


「描いたのは僕だよ! サラマンダーがあっちの気を引いているうちに、僕が姿を隠しながら描いたんだぁ、頑張ったんだよー」

「え? え? どういうこと?」


 メディオラに追い詰められて打つ手なしの状態だと思っていたのに、彼ら話しぶりからは、ずっと前から彼らは連携して何かの計画を進めていたように聞こえる。

 更に問い返そうとした時、メディオラの焦って上ずった声が聞こえてきた。

 

「な、な、なによこれ! まさか、この扉……嘘、嘘でしょう!? そんなわけ……」


「黄泉の扉を召喚したんですよ。ちょうどそこの執事が生贄になってくれたので、この場に呼び出すことができました」


 声が聞こえたほうを振り返ると、そこには傷だらけのヘルハウンドがいた。黄泉の扉、と聞いてメディオラが声にならない悲鳴を上げる。


「死人狩りを呼び出しました。黄泉の国から逃げ出した死者の魂を連れ戻してほしいと頼んだんです。大魔女であっても、死人狩りからは逃れられないですよ」


「黄泉の扉……」


 悪魔を呼び出す儀式をおこなうと、黄泉の扉が現れる。

 その扉の向こうは、黄泉の世界とつながっており、悪魔はそこから番犬を伴って現世に召喚される。それが一般的に知られている悪魔召喚の儀であり、当のヘルハウンドもそうやってこの世に顕現した。


 そして、あまり知られていないが、黄泉の扉は悪魔召喚のほかに、悪霊をあの世に送る術として死人狩りを呼び出す手法もある。

 だがこの手法は生贄を必要とするため、魔女界では禁忌の術であるため魔女のあいだでは死人狩りの召喚方法は知られていない。


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