第17話恩義と下心
人の生気や魂を奪う怪異もいるが、魔女の力が魔物のエサになるなどという話は聞いたことが無い。
そもそも魔物にとって魔女は天敵で、出会えば祓われるか使役されるかのどちらかと魔物の間では警戒されているので、わざわざ近づこうとする者はいなかった。
だが実際、彼女の魔力を舐めた魔物は、『美味くて力がみなぎる』と主張している。
ならば自分もその不思議な魔力を食してみたいと、魔物たちはこぞって彼女に近づこうと躍起になった。
だがアメリアは普段ほとんど家の敷地からでてこない。
魔物とよく遭遇するようになってから、家の周囲には獣避けと別に魔物避けの魔法もかけられるようになったので、招かれざる者は入ることができない。
時々町へ行く時などに森を歩く時も基本的に気配を消して歩いているので、彼女を捕まえるのは至難のわざだった。
最初にピクシーがアメリアの家に訪れた時、家の周囲には魔物避けの術がかけられていた。呪符を用いた簡単なものではあったが、雑魚魔物は近寄ることもできずに周囲をうろうろしているだけだった。ピクシーは先日アメリアに力をもらっていたためその守りをなんなく突破することができたが、少し前まで死にかけていたのだから大した力を持っているわけでもない。ようはその程度の弱い術であるということ。居場所があまり知られていないのと、守りを重ね付けしているから今のところ無事なだけで、名のある強い魔物が来たらひとたまりもないだろう。
以前はそれなりの力をもっていた魔物のピクシーからすれば、アメリアは野犬の群れに放り込まれた赤子ぐらい無防備で危険な状態に思える。
(アタシが守ってやらなきゃダメね)
今はまだ、森の魔物の間にだけ噂に上る程度だが、いずれよくないものを呼び寄せてしまうかもしれない。ならば恩返しに彼女を自分が守ってやろう。そう決意したピクシーは勝手に家に住み着くことにした。まあ、そばにいれば魔力を食べ放題だという下心があったのだけれど、それに関しては護衛の必要経費だと考えている。
その後に現れたサラマンダーとケット・シーも、魔物避けの術を越えて侵入してきたのでそれなりに力のある魔物だと判断して、ピクシーがアメリアに害をなさないならここに置いてやると言って受け入れた。
守りは多いほうが良い。彼らもまた魔力の恩恵にあずかりたいという欲があれど、その根底には命の恩人に対して感謝の念を抱き、彼女を守りたいというピクシーの意見に心から賛同しているのが分かったから受け入れたのだ。
恩返しと称して転がり込んだ彼らは、現在森の魔物たちには『魔女の用心棒』として恐れられている。アメリアの魔力を定期的に摂取できる環境を手に入れたため、ますます魔物としての進化が進み力をつけている。
彼らが力をつけるほどアメリアの噂は広まっていき、様々な魔物が今でも近づこうとしてくる。なかには魔力のおこぼれなどといわず丸ごと食ってしまおうとする危険な者も出てきたので、それらは彼らが見つけ次第抹殺している。
「ヘルハウンド君はアメリアが助けた相手だし、索敵能力に長けているから僕らも招き入れたけど、君もルールを破ったら出て行ってもらうからね」
ケット・シーの丸い瞳がキュウっと細くなる。その顔を見て新参者のヘルハウンドは尻尾を丸めながらコクコクと頷いた。
「俺だって、命の恩人を守りたくてここまで来たんです。恩を仇で返すような真似はしませんよ」
魔物たちの会話に気付くことなく穏やかな寝息を立てる恩人をじっと見つめながらヘルハウンドは呟くように言った。
アメリアは『恩返しされるほどのことをしていない』と常日頃言っているが、ここにいる魔物たちにとって彼女は文字通り『命』を救ってくれた恩人なのだ。
こうしてせっせとアメリアから溢れる魔力を頂いているのは、彼女を狙う悪意ある魔物から守る力をつけるためだ。
彼女は自分が狙われているなんて夢にも思わないだろう。
自分の魔力が魔物にとってはごちそうになることも、居候たちが陰でアメリアを守っていることも、こうして毎夜、居候たちが交代で魔力を食べにきていることも、彼女は知らない。
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