第17話 あの場所
俺たち三人はショッピングモールの
これで、一段落。
正直、試着をまっているあいだは生きた心地がしなかったこともあって精神の疲れが半端ない。
目的も達成できたことだし、家に帰って漫画でも読みながらゆっくりしたいところだ。
「それじゃあ用事も済んだことだし、帰ろうか」
「は? なに言ってんの
俺の言葉に真宮さんは素早く反応を返してきた。
「だって水着は買えたわけだし、他になにかある?」
「ありありだよ! わざわざ池袋まできたのに、水着の買い物だけで帰るなんてありえないでしょ! エリカだって見たいものとかあるよね?」
「えぇと、は、はい。出来れば……」
「ほら!」
「そ、そうなんだ……」
まぁ、そういうものなのかな? 見たいものねぇ……俺、なにかあっただろうか……家電量販店のヤマネ電気やスモールカメラ店なら少し見たいかも?
でも、俺が見たい階はゲームとか模型だし……二人とも興味ないだろうな。
「
「そうね。じゃあそれぞれ行きたいところを言って、三人で順番に回ろうよ。誰からにする?」
「でしたら早見くんからどうぞ、その次に真宮さん。私は最後でいいので」
なんか二人のあいだで勝手に話しが進んでいるけど、どうやらまだ池袋に滞在することで決まりのようだ。
とりあえず俺の行きたい場所を言わないとダメみたいな空気になっている。
まぁ、そうなると――。
「えーと、家電量販店とか……」
「それって目の前に見えるアレ?」
言うと真宮さんは横断歩道の先に見えるヤマネ電気の建物に向かって指を差す。
「そ、そうだな」
「ふーん」
なにその反応……。
「真宮さんは?」
「あたしは……」
真宮さんは言いながらスマホを片手になにかを検索している。
なにを調べているんだろうと思っていると、彼女は口を開いた。
「あたしもヤマネ電気でいいよ。そこの六階にお洒落なカフェがあるみたい」
「カフェ? そんなのあったかな?」
「あるよ?」
言うと真宮さんはスマホの画面を見せつけてくる。
そこにはヤマネ電気のフロア紹介が表示されていて、たしかにカフェの写真があった。
ちょっとレトロな感じのするお店で雰囲気は良さそうだ。
「へぇー、六階は何度か行ったことあるけど気がつかなかったな」
「それじゃあ、早見くんと真宮さんはヤマネ電気ですね?」
彼女の問いに俺と真宮さんが返事をすると、仲里さんもスマホで検索をはじめた。
すぐに指は止まり、画面を俺たちに向ける。
「あの……私はここに行きたいです……」
仲里さんが見せてきた画面には池袋で有名なビルにある複合商業施設が表示されている。
ムーンライトシティか……正直、あそこには近づきたくはない。そもそもあの出来事があって以来、行かないようにしていた場所だ。
仲里さんには悪いけれど、なんとか別の場所にしてもらえるように話してみるか……場合によっては俺だけ別に行動をしてもいいだろう。
「ここってさ……ムーンライトシティの中にある噴水広場……だよ、ね?」
俺が黙っていると真宮さんが仲里さんに向かって話を始めた。
「はい、画面を下にスクロールしてください。夕方からその広場で私の好きなバンドのイベントがあるみたいなんです」
「どれどれ。あ! このバンド知ってる! 新曲が配信でバズってたよね!」
「そうなんです! 私、とくにその曲が好きで……早見くんは知っていますか?」
「俺は、聴いたことはないかも……」
「それでしたら二人の行きたい場所のあとでも間に合いますから、三人でイベント観にいきませんか? 早見くんも絶対に気に入ると思います!」
仲里さんはめずらしく目を輝かせて熱く語っている。そんなに好きなのか……少し意外かも?
出来れば、一緒に行ってあげたいけれど。
でも――あの場所だけは無理なんだ。
ごめん、仲里さん……。
俺が断ろうとしたそのとき――突然、真宮さんが俺と仲里さんの手を引いて走り出した。
「ちょっ!」
「きゃっ!」
「決まりだね! まずはヤマネカメラへGO!」
真宮さんの元気な声が信号機から流れるメロディと重なる――俺たちは横断歩道の白線を走り抜けた……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます