第16話 みずぎ売り場は刺激が強い〜後編

 似合う似合わないの言い合いから二人が試着室に入って十分くらいは経つ。


 ジャッジをしないといけないのは気が重いけれど、仲里なかさとさんのビキニ姿を拝めるのは嬉しい……神様っているんだなぁ。


 ちなみになぜか真宮まみやさんも水着を手にして同じ個室に入っていったから、一緒に着替えるのだと思う。


 彼女はどんな水着姿で現れるんだろう……ちょっと楽しみだ。


 だが――今の俺には大きな問題が起きている。


 二人が試着室に入ってしまったせいで店内に取り残されてしまい、最初に恐れていたことが現実になってしまった。


 女性の水着売り場に男が一人……怪しすぎる。


 このままではあきらかに不審者だ。


 とはいえ水着は女性用だし、選ぶフリをして、ごまかすという緊急回避の技も使えない。


 うぅ……二人とも早く試着室から出てきてくれないかな。


「あのさ、まだかかりそう?」


「まだ! そんなに急かさないで! せっかちな男は嫌われるよ春時はるとき!」


「ごめんね、早見はやみくん」


「あ、いや……大丈夫だから。ゆっくり着替えて」


 ハァ……まだ暫くかかりそうだな。


 困った。どうしても周りの視線が気になってしまう。


 この場から逃げ出したい。


 だが、そうしてしまったら二人の水着姿を拝むことが出来なくなる。


 よ、よし! こうなったら――。


 俺は無になるため、そっと目を閉じる。


 耐えろ俺! 俺はマネキン人形だ! 周りの目など気にならない。むしろ俺を見ろ……いぁ……訂正、あまり見るな……。


 ――春時。


「春時!」


「うぉ! ま、真宮さん、な、なに!?」


 真宮さんは試着室のカーテンから顔だけを覗かせている。どうやら着替えが済んだみたいだな。よ、良かった。


「なにしてるの?」


「いや、ちょっとマネキンに……」


「意味わかんないんだけど。それより準備できたよ?」


「お、おう」


「なによその反応。美少女二人の水着姿を独り占め出来るんだから、もう少し喜びなさいよね」


「も、もちろん。えっと、ありがとう?」


「はぁ……まぁ、いいわ。それじゃあ、おまちかね! エリカとあたしの水着姿のお披露目!」


 言うとシャッ! という音とともに勢いよく目の前のカーテンが開く――。


 と、そこには……。


 胸元にフリルがついたピンクのワンピース水着を身に付けた真宮さんは、腰に手をあてふんぞり返るように立っていた。


 スタイルはいいのに、そのポーズのせいですべてが台無しだ。


 けど、バックハグのときも思ったけれど、真宮さんの胸ってかなり大きい。


「どう? この水着! あたしセンスあるでしょ!」


 ……って、仲里さんの姿が見当たらないと思ったら真宮さんの後ろに背をむけて隠れている。


 真宮さんの登場がインパクトありすぎて、仲里さんの存在を一瞬、忘れていた。


「ねぇ! 春時! 聞いてる? ちゃんと見なさいよね!」


「聞いてるし、しっかりと見てもいるよ」


「しっかりとって……そんなふうに見ないでくれる? 変態なの?」


「見ろって言ったのはそっちじゃねーか。それより仲里さんがずっと後ろに隠れたままだけど……仲里さんの水着の色が似合うかどうかの話じゃなかったのか?」


「あ、そうだった! って、エリカなにしてんの? ちゃんと見せなきゃダメじゃない!」


「まだ心の準備が出来てないのに……真宮さん、いきなりカーテン開けてしまうから!」


「心の準備ってなによ。ほらほら! こっち向いて! 大丈夫! あたしの身体はスタイル抜群なんだから!」


 真宮さんは言いながら背を向けている仲里さんの身体をくるりと正面に向かせた。


 こ、これは……。


 俺の目に映る仲里さんの素肌は透き通るように美しくてきめ細かく、芸術品といっていいほどだ。


 もはや、どんな水着でも似合ってしまうであろうスタイルの良さ……似合わないものなんてこの世に存在するのだろうか?


「綺麗だ……」


「そ、そんなにジロジロみないでください……」


 恥ずかしがる仲里さんの肌が少し紅潮してきている。な、なんかエロい……。


「痛っ!」


 仲里さんの姿に見惚れていると突然、脇腹に痛みが走る。


 どうやら真宮葵まみやあおいの蹴りをくらったようだ。


「な! なにすんだよ!」


「うるさいわね! なんかムカついただけよ!」


「たくっ、なんだよそれ……」


「あたしの身体が魅力的だからってエリカをジロジロみない!」


 あー、さてはあれか……。


「やきもちや……痛っ!」


「まだ蹴られたい?」


「いえ……」


「いいからはやくジャッジして!」


 そ、そうだな……そのために俺は今ここにいるわけだし。


 ジャッジ――。


 白い水着が仲里さんに似合っているかだ……。


「春時! さぁ、答えて!」


「それはもち……」


 言いかけて俺はその答えを飲み込んだ。結論から言えば白の水着は仲里さんに似合っていると思う。


 でもここでそれを口にしたら、中身の本当の真宮さんは自分が褒められた気はしないだろう。


 前に彼女は言ってたよな……真宮葵まみやあおいとして告白して欲しかったと……。


 このまま素直に答えるのは彼女に寂しい思いをさせてしまう気がする。


 これは仲里エリカの外見に白い水着が似合うか? などという単純な問題じゃない……だから俺の答えは――。


「ねぇ!」


 真宮さんが答えをせかす。


 ジャッジは……。


「俺は二人とも凄く似合ってると思う!」


「は? なにそれ……」


「早見くん……」


 少し不機嫌そうな真宮さんと戸惑ったしぐさをみせる仲里さん――なんだか二人がものすごく愛おしく感じる瞬間だった……。

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