鉱山と三人の兄弟
あるところに、鉱山があった。
その鉱山はかつて多くの者たちが一獲千金を夢見て訪れた場所で、人々がツルハシを突き立て掘り進めた穴がまるで巨大なアリの巣のように果てしなく広がっていた。今は最早鉱石が露出している箇所も少ないが、それでも訪れる人は少なくなかった。
一郎という男は、この鉱山に夢見る者の1人だった。彼は鉱脈を掘り当てることを燃えるような想いで望んでいたが、しかし一方で集中の続かない性分で、力仕事も得意ではなかった。
そこで彼は1つの作戦を思いついた。誰かが一度掘り進めたが諦めて放棄した穴を選び、それを1mだけ掘り進めて先を確かめるのだ。これなら自分にもいつか鉱石が見つかるだろうと考えた。
一郎はこの作戦を敢行した。ある穴を1m掘っては諦め、別の穴を1m掘っては諦め、これを繰り返すこと100回目、ついに彼は運よく鉱石の山を見つけることが出来た。
一郎は意気揚々と掘り当てた鉱石を売って金持ちになった。しかし不幸だったのは、鉱石を掘り当てた穴の「前任者」に見つかってしまったことだった。
「おい、このデッけえ穴は俺たちが掘り進めた穴だぞ。それを1mだけ掘り進めて鉱石を見つけて、俺たちに分け前もないだなんて、バカ言っちゃいけねえや」
「この山のルールでは、見つけた者がその鉱石を総取りにして良いはずだぜ。俺はルールに従ってるだけだ」
「生意気言いやがって、このやろう。」
こうして、一郎は叩き殺されてしまった。
一郎の弟の二郎は、兄の轍を踏む訳には行かないと思った。
二郎は適当な穴を見繕い、10m掘っては諦めることにした。これだけ自分の力で掘っていれば、文句も言われないだろうと思った。
10m掘っては諦め、10m掘っては諦め、繰り返すこと10回目。二郎は兄と同じように鉱石の山を見つけ、金持ちになることができた。
そして二郎は、兄と同じように、掘っていた穴の前任者に見つかることになった。二郎はここが正念場だと思った。
「どうやら俺たちが掘っていた穴で鉱石を見つけたらしいな」
二郎は、兄の二の舞になってはいけないと考えてこう答えた。
「ええその通りです。元々この穴を掘っていたあなた方に敬意を表して、何割かを分けても構いません」
「そりゃあ話が早いや」
こうして二郎は、取り分のいくらかを譲ることと引き換えに、身の安全を手に入れることができた。
二郎の弟の三郎は、2人の兄のどちらも気に入らなかった。一郎はセコくズルい手で金持ちを目指し、最後は格好悪く殺されてしまった。二郎は真似っこのセコいやり方をした上に、上手く世渡りをして安全を手に入れてしまった。それは一郎にも増して醜悪に感じられ、思い返すたびに反吐が出た。
三郎は、正々堂々と自分の力で勝負することが正しいと思った。
三郎は鉱山のある場所に自分の位置を定め、一人きりで同じ場所を延々と掘り続けた。
誰の穴にも頼っていないのだから、誰にも文句を言われる筋合いはないはずだと思った。
掘って掘って掘り進め、とうとう100mを掘り進めたとき、三郎はついに鉱脈を見つけ、他の誰にも負けない大金持ちになった。これぞ一点も曇るところの無い、正々堂々とした自力による勝利だった。
ところが、三郎が満足感に浸っていたその時、そこに声をかける者がいた。
鉱山自体の地権者である。
「三郎くん、君はどうも並外れて荒稼ぎしているようだねえ」
「ああ、おかげさまでね」
「せっかくそこまで儲けたんだ。こっちにもはずむべきモノがあるとは思わんかね」
地権者の言いたいことは明らかだった。三郎は露骨に嫌な顔をした。
「何か文句があるのか。あんたらに許可を取って、ルール通りに採掘してたはずだ」
「気が変わったのさ。もともとこの地に鉱山を見出したのは私たちだ。我々が居なければお前は今も素寒貧だったわけだ。お前は我々に素直に従うべき義務があるとは思わんかね」
三郎には、自分の力で掘り進めたという自負があった。正々堂々と努力して今の利を勝ち取ったのだという誇りがあった。だから、三郎はこういった。
「この山のルールでは、見つけた者がその鉱石を総取りにして良いはずだぜ。俺はルールに従ってるだけだ」
「生意気言いやがって、このやろう。」
こうして、三郎は叩き殺されてしまった。
寓話 きてらい @Kiterai
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