マキラ



 目を閉じた。


 体から『わたし』がどんどん抜けていく。遠く遠く『わたし』はどこかへ落ちていく。

 寒くも痛くも無いけれど、とても暗くて寂しい所へ落ちていく。


「エリック」

 大好きな人の名前を呼ぶ。そうすると少しだけ光が見える気がして。

「エリック、生きて」

 本当は嫌だけど、幸せになって欲しいから『わたし』は祈る。

『わたし』じゃない誰かと、結婚して、子どもを作って、幸せに、どうか幸せになって。


「エリック、だいすき」




 ◆◆◆◆◆


 ◆◆◆




 死後、マキラが再び目を覚ましたのは、深い森の奥だ。

 木の下で瑞々しい花々で作られたベッドの中で、長い眠りからマキラは目覚めた。

「けほ、っ」

 息を吸い込もうとして、体を震わせて咳き込んだ。

 皮膚に岩でも貼られているように硬い関節を、少しずつ少しずつ動かした。まだ意識はぼんやりと霞がかかっていたから、のんびりと時間をかけて。


「…わたし、私は…」

 枝葉の向こうの青い空を眺めながら、呟く。

 朦朧と首を横に動かすと、目を閉じたまま隣に横たわるエリック。歳を重ねて雰囲気は変わっていたけれど、マキラにはすぐに分かった。


 まだ感覚の鈍い手でエリックに触れて、気づいた。

 冷たい体と生気のない肌。開かない目。

 頬を静かに涙が伝った。


 涙が触れたところから、凍った体が溶けるようで。少しずつ嗚咽が漏れ、やがて声を出して泣いた。

「え、りっく、エリック、いや、いやぁ…」

 彼の魔法の才能があればやりたい事はなんだってできる。彼の命と引き換えに自分の心臓は動いている。それに気づいたから、余計にマキラの涙は止まらなかった。



 ◆◆◆◆◆




 それでも歯を食いしばって立ち上がる。

 生かされたなら、生きているならまだやらなければならない事があるはずだと。


 それでも、最初の何年かは泣いてばかりで。

 ラルフが魔王なんて名前で呼ばれ、人々から批判された歴史を知り、最後には英雄エリックがラルフを殺したと知った。

 楽しそうに剣を交えていた二人が、真剣で殺し合ったと知るのは、とても辛いことだった。

「私、一人なのね」

 エリックとラルフは居ない。

 家族も、友人もラルフが殺してしまっている。


 呆然と、漫然と。どこにも居場所が無く、フラフラとただ遠くを目指して行く最中。マキラは最初に飢えと乾きが無いことに気づく。そして、かなり険しい山道を進んだのに、岩や枝で傷ついた肌はきれいなままなことに。


 死してなおエリックが自分を守ってくれているのだとマキラは微かに喜び、そして2人が死んだ事実にまた涙した。

 数年ほどの放浪を経て、遠い国にたどり着いたマキラはどうにかその土地で新しい生活を始めた。魔女としての薬草の知識を生かした町の隅の小さな薬屋の独り身の女店主。

 歳を取らない事に気づき、魔法で見た目を誤魔化し複数人の店員が居るように装った。更に友人が出来ても、短く浅い付き合いに留めた。

 何度も何度も何度も何度も1人で過ごす季節が巡って、遠くの土地で戦争が始まったことを耳にした。


 今思えば、日常になにか変化が欲しかったのだろう。

 マキラは店を畳んで、戦場の近くに移り住んだ。

 前線の近くの街の宿屋で住み込みで働き、時折来る軍人を目にした。微かに感じた血の匂いは恐ろしく、嫌な記憶を思い起こされる。

 それでもマキラはこの宿に留まった。宿の温泉にひっそりと薬湯を混ぜ、少しだけ傷が早く癒えるようにしたり、香を焚いて安眠できるようにしたり。

 この国が戦争に勝って欲しいとか、そんなのはどうでも良くて。ただ、辛そうな顔をして宿にくる軍人たちにほんのひと時でいいから、ゆっくり休んで欲しいと。そんな事を考えながら。

「マキラ?」

 彼が現れた時には本当に、本当に驚いた。

「エリック!!」


 美しい金髪と透き通った青い目。目の前にいたのは間違いなくエリックだ。触れれば温かく、抱きしめれば確かな力強い鼓動を感じた。泣きながらそれでも必死で抱きしめる。エリックはマキラが落ち着くまで背や頭を撫でていた。



 ◆◆◆◆◆



 エリックは『神の使徒』と呼ばれる共和国側の傭兵団を率いていると教えてくれた。今回この宿には、怪我を負った仲間の様子を見に来ただけとも。

 すぐに行ってしまうと分かって、残念そうにしていたマキラに「また必ず会いに来るよ」と言ってエリックは笑った。


「戦争を終わらせたい」

 そう言ったエリックに、マキラはできる限りの協力をすることを決めた。不死の体は休まず歩くことも、長い道のりを走ることもできたから、無理を言って帝国軍側の同じ考えの人間を探す役割を引き受けた。

 共和国にも帝国にも言ったことはあったし、帝国辺りの訛りなんかにも詳しいから、と。

 マキラには怪しまれない自信もあった。そしてなによりエリックとの繋がりを持っていたかった。


 そうしてマキラは帝国側の終戦派の人間とコンタクトを取り、エリックとの仲介役をした。順調に話は進み、帝国も裏では終戦を望んでいることも分かった。


「明日、帝国の参謀役に会えるわ」

「ありがとう、マキラ!」

 終戦への道筋が確かなものになり、エリックも私も無邪気に喜んだ。

 人がたくさん死ぬのは見たくない。戦争なんて、終わらせられるなら終わらせたほうが良いんだ。


 その日の深夜、マキラは秘密裏の会合へと向かうエリックを見送り、その数日後に戻ってきたエリックにラルフが死んだと告げられた。




 ◆◆◆◆◆




 エリックは、何度生まれ変わってもマキラを探した。

 でも再開してから短くて数日、長くて10年ほどで2人は死ぬか消息を絶ってしまう。


 エリックは誰かのために戦い、ラルフは新たな生を生き抜こうとして。


 マキラはラルフが自分と会うことを避けていることに気づいていた。彼の性格上、エリックを殺し合うことに負い目を感じているのだろう。数度会った時、苦しそうな顔をしているのをマキラは知っていた。

 エリックはいつでもマキラを愛し続けてくれた。昔と変わらずに。


「もう、いや」

 10回ほどの別れの後、マキラはエリックの墓の前で呟く。こうして彼の墓を立てたのは3度目。

 これから再び1人きりになる自分に、マキラの心はぽっきりと折れた。

 今も、これから先も愛する人たちと自分は共に同じ時間を歩むことは無い。

 もし今のマキラを理解され、受け入れられてもマキラだけがどうあっても取り残される。


「(私だけ、ひとりぼっち)」

 そんな絶望から今までずっと目を逸らして、見ないように考えないようにと必死に逃げてきた。

 土地を変え日常を変えて楽しくやっていると思い込んできた。それがとうとう、限界を迎えた。


「死にたい、私もう、死にたい」

 紡いだ言葉に引きづられるように、マキラは手にしたナイフを体へと突き刺して──────。


「………あれ?」

 振りかぶった手が止まる。

 ガッチリと何かに掴まれているような手首への圧迫感に、ナイフを持つ手を振り返り、マキラは絶句した。

「………───?」


 ────マキラの体から生えた触手が、マキラ自身の手を掴んでいたのだ。


「あ、な、なに、これ」

 吸盤の無いタコ足のような、ヌメリのある薄紫色のそれ。所々に薄らと血管らしき青い線があり、手首に伝わる生ぬるい温度。

 マキラが呆然と見ていると触手は蠢きながら赤や青に色を変え、手首を離すと私の体内へ戻っていく。

 痛みも無く、触手の生えた脇腹を触ってもその痕跡はひとつも無い。破れた服と手首に残る感覚だけが起こったことが事実であることを告げていた。


 エリックの墓を見る。あの時、死にそうな私を見ていたエリックの顔を思い出す。蘇った時の体に感じた違和感を思い出す。


「(私は、私は、あの時、一体『ナニ』になってしまったの)」



 ◆◆◆◆◆


 ◆◆◆




 その日からマキラは体のあちこちから、触手が生えるようになった。意識をそちらへ向ければすぐに無くなり、やはり体には傷一つ無い。

 いくつかの季節を巡る頃には、マキラは好きに触手を操れるようになっていた。感情的にならなければ勝手に動くことは無い。


 だが、触手を見る度に沸く嫌悪感や恐怖はずっと消えない。何より、エリックやラルフにまた会った時、これを見られたらどう思われるのかが怖かった。

 2人とも、人のために異形を狩ることがあった。ラルフは人では無いものに転生していたこともあったらしいが、エリックはずっと人間のはずだ。

 これを見て、2人の目が変わってしまうのがいちばん怖い。


「(私には、もう2人しかいないのに)」

 ラルフは時折結婚していて、子どもがいたりして。

 エリックは私を愛してくれるけど、マキラ以外のために死んでしまう。


 マキラが1人長い時を過ごす間、2人は死んでいて。

 生まれてもすぐに会いに来てくれる訳じゃない。


 心の中で渦巻く怒りを、考えないようにと首を振って飲み込んで。旅人のフリをして、人のいる所へ行って、楽しく話してお酒で気を紛らわせて。

 それでも黒い感情は中々消えてくれない。

「(嫌だ。嫌だ。

 どうか、どうか神様。私にエリックとラルフを恨ませないで。

 あの頃の、わたしでいさせて

 それしかないの。私には、もう、それしか)」




 ◆◆◆◆◆





 わたしの地獄も知らないで、わたしの孤独も知らないで。


 知らない誰かと幸せに暮らして。わたしとエリックに会いたくなんて無いと思ってて。

 あの美しい星で、シャノンとさぞ幸せな暮らしを送っていたのだろう。寿命を迎えるまで、殺すことも殺されることもないどこまでも穏やかな緑の星。

 わたしだって死なない友だちが欲しかったのに。


 顔の左半分が熱い。でも、溶け落ちそうなほど熱い眼球をわたしは気にも留めない。だってだってだって、とても腹立たしいの。


 ─────ああ、そうか。


 かつて私を、私たちを殺した神への祈りを首から下げたまま、ラルフは言う。細い楕円の中心に球体が嵌められたシンボルは、神の瞳を表すあの教会のシンボル。


 ─────君は、死にたいんだな


 ああ、そうだ。わたしは死にたいんだ。死にたくて死にたくて死にたくて。みんなと同じ時間を人として生きて、死にたいの。


 おバカなラルフ。今更気づいたの?

 ずっとずっと気づかなかったのに。


 昔みたいに、見透かして気づいてくれるのをずっと待っていたのに。今更、今更。こんなにもわたしが歪んでしまうまで気づいてくれなかったの。

 2人が居ない間のことを、話したことは無かったから?

 エリックは誰かの為に戦い続けてしまうから、長くはいてくれない事も、話したことなかった。そんな健気なわたしから、目をそらしていたものね。


 あの時、死ぬしかなかったわたしを助けてくれたエリックを恨みたくないの。

 あの時、騎士たちに殺されるしか無かったわたしたちをそれでも救おうと足掻いたラルフを恨みたくないの。


 あの時、あの時は間違いなく人間だったわたしを、2人が好きと言ってくれたわたしを失いたくない。


 でも、でもでもでもでもでもでも!!!!


 どうして?!どうしてわたしばかり苦しまなければならないの?!どうしてわたしは一人でいなきゃいけないの?!


 愛してよ!!わたしを!!わたしをわたシをわたシをわたシわたシわたシわたシわたシわタシわタシわタシわタシわタシわタシワタシワタシワタシワタシワタシワタシワタシワタシワタシワタシワタシワタシワタシを!!!



 ワタシを愛して!!!








「あ、


 殺しちゃった」








 ◆◆◆◆◆





 何となく、足を引きずるような歩き方が楽に感じた。

 ズリズリズリと足を引きずって歩く。土が付くのが少しだけ気になったけれど、子どもの頃に戻ったようで楽しい。

「ラルフ、どこに行きましょうか」

 ラルフは疲れてしまったのか動かない。だから力持ちになったワタシが抱えて運んでいる。


「ふふ、ふんふふん♪」

 懐かしい鼻歌を歌って、両手を振って歩く。最近は隠れてばかりで街道を大手を振って胸を張って歩くなんてできなかった。

 お酒でも飲んだみたいに気分がすごく良くて、ワタシはラルフを抱えて街道を進む。


 夜だというのにランタンやガス灯に照らされて、城塞都市はまだまだ明るい。色んな星や世界を渡ってきたけれど、やはり人が集まる場所はいつも賑やかだ。

 祭りでもやっているのか、開放された門の外まで酒と料理の香りが漂っている。


「な、ぁ?!ひぃっ?!!!」

 暗い街道から灯りの下に出たワタシを見て、男は悲鳴を上げて腰を抜かした。

「きゃぁ?!な、なにあれ…?!」

「ば、化け物…!!」

 みんながワタシを見て逃げて行く。門の向こうの建物や道の奥に逃げていく。


「ま、待って…!」


 行ってしまう。ワタシを一人にする。

 嫌、だって、寂しい。

 寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい


 寂しくて、寂しくて寂しいの。


 そばにいて。誰か、誰でも良いからそばにいて?



「っ!ば、化け物!お、大人しくしろ!!」

 武器を持った兵士が走ってくる。

 だから、私は手を伸ばす。お願い、ワタシいい子にしているから、お願い。


「ワタシと一緒にイテ?」


 目の前の光景に唖然とする兵士は、じっとワタシの眼球を見て、


 ────笑った。



「ああ、寂しいのかい?」


 さっきまでの敵意や恐怖は消え去り、娘にでも話しかけるような優しい声色と表情でこちらへと来てくれる。

 手の甲には触手の中にあるものと同じ模様の入った眼球が生えていた。

「泣かないで俺のお姫様。大丈夫。すぐにみんなも呼ぼう。」


 最初は兵士の増援を。


 ワタシの眼球を観ると皆一様に動きを止め、数秒の後に体のどこかに眼球が生え、愛しげに、親しげに声をかけてくれた。

 次にその兵士がもう安全だ、と市民を呼ぶ。呼ばれた酒場の人々もまた、同じようにワタシを見てくれる。みんなが、みんなが変わっていく。

「ああ!愛しい君!なにが欲しいんだ?なんでもしてあげるよ!」「俺の可愛い妹だもんな!」「私の妻だ!」「娘だ!」「彼女だ!」

 口々に自分がいかにワタシを愛しているかを語る。

 嬉しくて嬉しくて嬉しくて!!!!


 ああ!こんな姿の私を!化け物のワタシを!!

 愛してくれる人がこんなに沢山!!


「あなた!あなたなにやってるの!!」

 若い女性が同い年ぐらいの男の手を引く。

 恋人関係なのか揃いのアクセサリーを身につけていた。


「この化け物になにかされたの?!ねえ!ねえ!!」

 女性は怯えながらも男の腕を引き続けた。女性の言葉を聞いて男はさっと振り返る。

「化け物だと!!」

 男は怒りを顕に女性を突き飛ばした。

「彼女になんてことを言うんだ!!俺の彼女に!!」

 男は女性にあらん限りの罵声を浴びせ、周りの男たちもそれに同調する。


 仕方のない事だ。ワタシを侮辱したのだから。でも、ワタシは彼女にも愛されたい。みんな仲良しの方がいいに決まってる。

「ねえ、こっち、見て?」

 泣きじゃくる女性の方に身をかがめた。意図を察したのか男たちが女性を抑えてくれた。蠢く眼球で女性を見る。男よりも時間は掛かったが、女性の顔は蕩けて幸せそうに変わった。


「ふふ、ワタシのこと、好き?」


「大好きよ!!誰よりも愛しているわ!!」


 女性の言葉に辺りは歓声に包まれる。


 触手が喜びで膨らんだり萎んだりしながら蠢く。嬉しい!嬉しい嬉しい嬉しい!!!もっと!!!もっと愛を頂戴!!ワタシに溢れるぐらいの愛を!!


「じゃあ、証明して?」


 ワタシがお願いすると、興奮しながら彼らは新たな『仲間』集めを始めた。

 ある者は見知らぬ人を。ある者は家族をワタシへと差し出した。ある者はワタシを侮辱した人を殺してみせ、ワタシのためにそいつの家に火をつけてくれた。

 店を襲ってきれいな服やアクセサリーを取ってきたり。食事なんかを用意してくれたり。


 それはとても、とても幸せな時間。



 ◆◆◆◆◆


 ◆◆◆



 ずっとそうしていたかったけど、1週間ほど経つと誰もいなくなってしまった。


 理由は単純でワタシを愛してくれた人達がみーんな死んでしまったの。寝る間も惜しんで愛を囁き、ワタシが寂しくないようにずっとそばにいてくれたけど、そう言えば人は飲まず食わずでは死ぬんだと思い出す。


 沢山の死体はもう好きといってくれない。ただの肉の塊。

 酷くがっかりした思いで帰路に着く。


「ああ、そうね。ならコレもいらないわ」

 ポイッとずっと抱えていた肉塊をそこらに放る。首の折れた黒髪の死体。なんでこんなモノを大事に抱えていたんだろうか。

「次はどこへ行こうかしら。

 ああ、とっても楽しい!」

 ようやくワタシはあの頃の気持ちを取り戻せた。ただ魔法と恋が大好きな女の子だった頃の気持ち。

 いつも心が踊る甘い気持ちに辛い記憶をスパイスにするの。女の子ヒロインはそういうものでしょう?


「エリックに会いたい」

 触手を前へ伸ばす。この姿だと少しだけ驚いてしまうかもしれない。それに、あまり可愛くない。

 心の中で元のカタチを思い浮かべると、つるりとした触手の表面が縮み、先が分かれて人の指になる。腕や体が現れるにつれ、余った触手は髪になったり体に引っ込んだり。


「あれ?」

 左目に違和感。触れてみるとそこだけ欠けていた。頬の上から額にかけて抉れている。手を入れてみると中では触手がうごめいていた。

「うーん…ま、いっか」

 裸足で街道を歩く。ワタシはとても強いから、小石ぐらいじゃ足の裏は傷つかない。破れてしまった服だって、次の都市で貰えば良い!


「そうだ!ワタシを愛すれば、エリックとラルフはもう戦わなくても良くなるわ!」

 エリックの正義に逆らう悪も、ラルフを困らせる人たちも。みんなみんなワタシを愛してくれれば良いのよ。

「やった!これでまた3人で居られるわ!」

 ワタシもう、一人じゃなくなる!

 だって大好きなエリックと大事な友だちのラルフが居るんだもの。でもきっとみんなみたいにワタシを愛することに夢中になっちゃうから、

「ワタシがご飯を食べさせてあげないと。お風呂もトイレも全部全部ワタシがお世話してあげて、その分いっぱいワタシを見て、ワタシを愛してくれないと。」

 いつかは寿命で死んじゃうから、二人が転生するまでは誰かに愛して貰えば良い。



 ◆◆◆◆◆


 いつの間にか着いていた山の上から、さっきまで居た壊滅した都市が見下ろせた。

 前々からロウソクや服などを買いにあの都市へ行っていた、けっこう楽しい場所で。数年前まで疫病で苦労してたからか都市内の団結が強い。でも余所者を優しく受け入れる活気のあるいい都市だった。


 でもみんな死んでしまったのね。


 ワタシが死なせてしまったわ。


「…………あれ、私、なにしてるの?」


 急速に熱が冷めていく。浮かれた心が覚めていく。

 あれ、あれあれあれあれあれ?

 わたし、なにをしたの?


「待って、え?ぁ、え?ちがう、違うの!そんな、そんなつもりじゃ、だって、私はラルフと話をしていて、ラルフ、ラルフ?!!」

 大事に抱えていた肉塊。首の折れたラルフ。

「ぁ、あ、私、私が、私がぁあ?!」

 覚えている。触手でラルフの首を、花でも手折るように簡単に。そして、その体をさっき捨てたことを。


 膝が震えてその場に崩れ落ちる。歯をガチガチと鳴らし、違う違うと頭を振る。

 頬に触れた手が、顔の欠けた部分に食い込む。見てくれだけ人間に整えた所で、私がなんなのかはもう誤魔化せない。


 殺した。わたしが、操って、みんな、みんな殺してしまった。


「イヤァァァァァァ!!!!!」


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